第131話 離別
そして、次の日のこと。私達はしばらく歩いた後、これからの進路の分かれ道ともいえる場所へと来ていた。
ここは地下迷宮のほぼ終盤に差し掛かる場所で、このまま最後の強い魔物がいるエリアを進めば、そんなに迷わずクリア出来ると言われている場所だ。
普通に神聖アシュタリカ帝国へいくのであれば、そのルートで行くのが正しい。
けれど、私は少し回り道をする気でいた。なぜなら光の精霊に用事があるからだ。光の精霊に貰った石が指し示す場所は、地下の森だ。しかし、地下の森を通って、神聖アシュタリカ帝国に行こうとすると遠回りすることになる。
「ゼノン達はどうするの? 私達はちょっと地下の森に用事があって、遠回りするんだよね」
「そうなのかい。なら、残念だけど、ここでお別れかな。僕達は早く着いて、神聖アシュタリカ帝国を色々見て回りたいし」
ゼノンは少し残念そうにしていた。
私も残念だけど、仕方ない。神聖アシュタリカ帝国に行くなら、わざわざ地下の森に行く必要ないもんね。すごいいいアイテムがあるとかいうわけでもないし。
「そうなんだ、残念。まあ、またトーナメントとかであうでしょ」
「それもそうだね」
「ゼノン達も元気でねーー! トーナメント見に行くよーー」
お別れの時、ルージュちゃんは相変わらずの元気な声で言った。
「機会があれば、貴様とは戦いたいものだ」
「そうですね。あなたの刀の腕は見事でした」
何やら茶々さんとシグレは2人で盛り上がっていた。あの2人いつの間にあんなに仲良くなったんだろう。
まあ同じ刀を使うもの同士、シンパシーでもあったのだろう。
マロンちゃんはといえば、相変わらずだった。眠たそうに欠伸をしながらこちらを見ていた。
「じゃあねーー」
「またトーナメントで」
私達はゼノンやシグレとあっさり別れた。そして、地下の道を進む。
私達が目指す場所が地下の森だからか、進むにつれて、自然が増えていった。青々とした草木が時々地中に絡まっているのである。
「なんか4人で冒険するって久しぶりだねーー」
ルージュちゃんはしみじみとした様子で、呟く。
言われてみれば、地下迷宮ではずっと6人だったし、なんか久しぶりな気がする。
「だねーー。あ、そうそう4人で冒険で思い出したんだけどさ」
「どしたの、アナちゃん」
この3人は光の精霊のこととか色々知ってるし、声の主のこと話しとこう。今から光の精霊のところに行くし。
見えないものを信じさせるって難しいけど、まあやってみるか。この3人なら信じてくれそうな気もする。
「なんか4人がいなくなった時に、急に私の心の中に語りかけてくる生命体がいたんだよね。そいつとは今も心の中で会話出来る」
「……ちょっと何言ってるのか分からないかも」
3人は「え?」と不思議そうな顔をする。頭に???マークが浮かんでいるに違いない。
「そのまんまの意味なんだよ。その生命体のことをとりあえず心の声っていうね。その心の声が、いなくなった4人を何とかする方法教えるから、光の精霊の元へ案内しろって言われて、その取引に乗って、今に至る」
「その心の声って見えないの?」
「見えないよ。然るべき時に姿を見せるとか言ってたけど」
「ふーん。とにかく、その心の声さんとは光の精霊の元まで一緒ってことね!」
ルージュちゃんは元気よくそう言い放った。残りの2人も納得してくれたらしい。
あれ、割とあっさり納得してくれた。目に見えないものなのに。
「あっさり信じてくれるんだね」
「まあアナちゃんだしねーー。そういう不思議なこともあるよ。アナちゃんよく変なことに巻き込まれるし」
ルージュちゃん達は思ったより適当だった。
「変なことに巻き込まれるって。アニメの巻き込まれキャラじゃないんだから」
「いいじゃないですか。巻き込まれるのも楽しいですよ」
「そうよ。色んなイベントが寄ってきてくれるなんて美味しいわ」
なんか話が変な方に行ってしまった。別に変なことに巻き込まれるのは私のせいじゃないはず。というかそんな変なことに巻き込まれるってるっけ……。
私は夜の使徒との邂逅などなどを思い出す。それについ最近変な腕に引っ張られたことも思い出す。
確かに巻き込まれるかも。いや、巻き込まれるというか私が色んなことに首を突っ込んでいると言った方が正しいか。
《心の声さん聞こえてる?》
《何? あ、僕のことは心の声じゃ面倒臭いから、アウスとでも呼んでよ》
《アウスね。おっけーー。光の精霊になんの用かとかは聞いても教えてくれない感じ?》
《そうだね》
《まあそうだよね》
私はそれ以上の言及をやめた。時間をおいて尋ねてみたら教えてくれるなんてことはなかったよ。
《ちなみにこの3人と会話できるようにするとか出来る?》
《あまり必要性が見いだせないかな》
《りょーかい》
アウスと3人が会話出来たらいいんだけど、その気はなさそうだな。アウスってか皆と心で会話っていいね、テレパシーみたいで。
強くない? 敵に聞かれることなく会話出来るって。それになんかかっこいいし。
アウスに断られた私はそんなどうでもいいことを考えていた。
「本格的に緑が増えてきましたね」
茶々さんの言う通り、道に彩りが増えてきた。蔦のようなものが大量に壁に絡まっていたり、緑が生えていたり。
こっちの方が見ていて楽しいかも。彩りのない茶色い景色には飽きてきたし。
私達は辺りの景色が明るくなったこともあり、何だか気分も明るくなっていた。
気を少し緩め、雑談モードに入る。あ、私達は気が緩まなくても雑談してるか。
「光の精霊にあったらクローゼットの中の「???」の世界のこと聞こうね」
「そうね。あのクローゼットの世界のことは知りたいもの」
私達がクローゼットの世界の話をしていると、意外な人物が話に入ってきた。
《「???」の世界を知っているの?》
《行ったことがあってね。あなたも知ってるんだ》
《まあね。君が「???」の世界を知っていて、光の精霊の石を持っている、かあ。なんか運命を感じるよ。……いや、そうでもないか。必然であるともいえるからね》
《光の精霊さんとは仲良いの?》
正面突破で、どういう関係かとか詳しいことは教えてくれなそうなので、雑談ぽく遠回しに聞いてみる。
《そうだね、悪くはないかな》
《へー、友達?》
《これ以上は教えられないよ》
確信に迫ろうとする前に断られてしまった。無念。
私達はそんなやり取りをしつつ歩いていると、魔物と出くわした。お、なんか緑っぽい魔物だ。葉っぱ巻き付けてる。
地下迷宮の魔物は、岩っぽいのばっかりだったから、こういうの嬉しい。
岩ばっかりでもう岩は見飽きたんだよ。
私は鑑定を使う。
葉々Lv230
スキル 葉の風 葉棘 花の香り 草木の怒り
なんか人間ぽい名前の魔物である。姿形はもろ人間だけどね。
「葉っぱで攻撃してくるね。結局遠距離だから気を付けて。後あの魔物の香りを受けると、頭が少しぼーっとするっぽい」
簡単な情報だけをいつも通り伝えて、私は戦闘モードに入る。
「【破滅の旋律】」
そして、スキルを重ねていく。
「【呪い】【暗黒魔法】」
私達が攻撃をしていると、花の甘い香りが漂ってきた。匂いを防止って難しいからな……。
匂い系のは避けるのが難しい。嗅覚麻痺とかのスキル取らない無理だろう。
まあその分威力は大したことないけどさ。
頭がぼーっとしてくる前に倒さないと。
「【黒魔法】【カルタフィルスの呪い】」
残念ながらカルタフィルスの呪いは不発に終わった。
敵はおそらくスキルを使ったのだろう。大量の鋭い葉っぱが飛んできた。私はそれを拾い、藁人形に入れ、五寸釘をかなづちで打つ。
するとあっという間に敵のHPは0になり、敵を倒すことが出来た。