第127話 vsPKプレイヤー
私は鑑定で見たことを小声で皆に伝える。敵の職業や覚醒スキル、ユニークスキル、厄介そうなスキルなどを。
ラッキーなことに敵のステータスは全員鑑定出来た。特に敵は鑑定対策をしていなかったからね。
鑑定持ちのプレイヤー自体があまりいないから、鑑定対策はする必要がないっていうのが一般的ではあるが、PKプレイヤーやPKKプレイヤーが鑑定対策をしていないってのはどうなんだろう。
自分のステータスを知られる時点で対人戦においてはかなり不利だ。
私はたまたま鑑定妨害アイテムをゲットしたから、鑑定妨害をしているけど……。
リーダー格の男はベルセルク。もう1人の男はウィザード。気が強そうな女の人はアーチャー、後ろの女性がプリーストだ。
バランスの取れたパーティだし、覚醒スキルもベルセルクとプリーストはそこそこ強いけど、私達6人なら負ける未来が見えない。
逃げるというより戦う方向でいいだろう。遠慮なく倒させてもらおう。
相手はPKギルドとかに所属しているわけではないので、倒しても問題は生じないだろう。
PKギルドとかに所属してるPKプレイヤーを倒すと、誰がPKKしたか調べて、ギルドぐるみで報復! なんてことがあるらしいし。
あー、怖い怖い。
物騒な世情を思い起こして体を震わせつつも、私は戦闘体制に入る。
「【破滅の旋律】」
呪いをかけていく。反転はかけないで、取っておくことにした。だって、敵のヒーラーの覚醒スキルは5分間、味方が受けたダメージの9割を回復するスキルだから。
敵のヒーラーがこのスキルを使うまで反転を取っておくのだ。
反転に気付かれたら、もう回復スキルは使わないだろうし。
「[とびきり爆裂ウィンク]」
「[物点予測ex]」
2人は初手から覚醒スキルを使っていく。ルージュちゃんはいくつもの爆弾を手で弄びながら、投げつける。
絵面的にはルージュちゃんのラスボス臭がすごい。PKプレイヤーなんかより危険なプレイヤー感が漂っているよ。
「【呪い】【暗黒魔法】」
私は暗黒魔法を使ったものの、敵のベルセルクに闇を払われてしまった。敵のベルセルクは無駄にカッコつけて決めポーズまで決めていた。
まあいいや、呪いで敵のダメージは確実に減らせてるし。
そんなことより、せっかくだからゲットしたスリのスキルを使いたい。けれど、これを使うには相手に触れないとダメなんだよね。
相手が近寄ってきたら、スリを……。て、今は守ってくれるカースちゃんもいないし、危なすぎるな。やめとこ。
とりあえず私は着実に敵のHPを減らしつつ、反転を使うタイミングを測っていた。
敵は軽くHPを回復するスキルを使ってる。もっと大ダメージを与えないと回復スキルを使わないだろう。
「【アラウンドヒール】【キュアアヴラ】」
敵はたくさんの種類の毒を使ってきたので、状態異常回復スキルを使う。この回復は範囲が狭いので、前衛組にしかかけれなかったけど。
「[無限弾]」
私がそんなことを考えていると、敵のアーチャーが巨大な銃口をこちらに向ける。そして、覚醒スキルを使ってきた。
正直このアーチャーの覚醒スキルはしょぼい。
どんな覚醒スキルかというと、1つの弾で何発も銃を撃てるというスキルだ。外れな覚醒スキルを引いたんだね……。
「これから一気に火力を叩き込むよ、皆!」
私はあえて敵に聞こえるようにいった。もちろん打算的なものだ。
攻めるって大体的に行った方が、ヒーラーは覚醒スキルを使ってくれそうだし?
そして、私達は言葉通り、一斉に攻撃をしかける。
「爆弾達! いっけ!」
「【呪い】【暗黒魔法】」
「[花紅柳緑]」
「[疾風之導き]」
相変らず、刀組は動きが華麗である。ルージュちゃんの爆弾は轟音がすごいね……。
私達の猛攻撃を受け、敵のヒーラーはついに覚醒スキルを使った。
「[癒しのフレア]」
敵達の体が青い光に包まれる。これで、回復状態になったってことだね。分かりやすくていいな。
「【反転(呪)】」
よし、今だ。そう思い、私は隠していた反転スキルを発動する。
「馬鹿ね、わざわざ攻撃を宣言するなんて。馬鹿はこうして無様に死んでいくのよ」
「俺たちも一気に行かせてもらうぜ! あの世で俺たちと出会ったことを後悔するんだな」
敵は私達を嘲笑う。そして、敵のリーダーが覚醒スキルを吐こうとした。本気で私達を殺す体勢に入ったのだろう。……しかし、覚醒スキルは発動しない。
だってもう敵のリーダーは私の反転で、死んでいるのだから。
敵のリーダーが最初は様子見して、覚醒スキルを出し惜しみしたのは大きかったね。最初に使われていたら、かなりHPを削られていたかも。
「攻撃を宣言するのが馬鹿って言ってましたが……、ブーメラン帰ってますよ」
「嘘!? どうして!」
敵のリーダーは集中的にダメージを受けていたから、その分回復も多く、たくさんの呪いダメージに変わっていた。その呪いダメージを回復するための回復スキルが発動し、呪いに変わり……。負の連鎖であった。
そして、敵の仲間たちは、驚いている間に、反転で殺られていった。
あっという間に敵は全滅した。
PKプレイヤーを倒したので、カルマ値や私達のレベルは上がった。ドロップ品も豪華だ。……けれど、私は何とも言えない気持ちになっていた。
相手がPKプレイヤーで、襲われたとはいえ、人をPKしたというのは事実だし、気持ちは晴れない。危機は脱したわけだけれど。
誰もが複雑そうな顔をしていた。
「先を急ぎましょうか」
これ以上この空間にいても仕方がない。黙って私達は歩くことを再開した。
けれど、歩き始めてから誰も口を開かない。さっきまでの盛り上がりが嘘みたいだ。
やっぱり気まずいんだよね。PKKした後だし、はしゃごうという気持ちになれないというかなんというか。
PKKした後に何事もなかったような風にしてはいけない気がして。
しーんとした空間が洞窟の雰囲気と合わさって何だか嫌な感じ……。
私達が黙々と歩いていると、徐にゼノンが立ち止まった。ゼノンはじっと正面の辺りを睨みつける。その目にはすごい覇気が篭っていた。
「どうしたの?」
気になったので、ゼノンの隣に移動して尋ねる。しかし、私の問いかけにゼノンは手を頭にあて、考え込むような仕草をする。
「いや、この道に何だか違和感を感じてね」
「違和感??」
どこにでもある普通の地下通路だと思ったけど。そう思いつつも、一応ぐりっと回って辺りを見回す。
ゼノンの見つめていた正面にも何もない。
「言葉では上手く言い表せないんだけど。こうなんていうか……」
ゼノンは身振り手振りで何かを伝えようとするものの、あまり伝わってこない。
「正面の方もっと照らせる?」
「やってみる! ルージュちゃんも正面の方照らせる?」
私は正面へランタンを向けて、ルージュちゃんに尋ねる。しかし、ルージュちゃんからの返答はない。
「あれ、ルージュちゃん?」
私が振り返ると、そこにルージュちゃんはいなかった。いや、ルージュちゃんだけじゃない。マロンちゃんもいない。
後衛組がいなくなってる。
「どうしかしたのか?」
私の困惑した様子に気付いたのか、3人は後ろを振り向いた。そこで、ようやくことに気付いたらしい。
「2人はどこへ行ってしまったのでしょうか? うーん、なんなのでしょうか……。アナさんが突然消えてしまった時のようなことが?」
「ルージュちゃんはランタン持ってたし、はぐれることはないと思う……。勝手に離れるなんてこともしないだろうし。私のときみたいに、何かに引きづりこまれたって線が濃い……のかなあ?」
そう考えると、ルージュちゃん達は危ないよね。すぐに探さないと。
「早く探した方が良さそうだね」
「そうだな。戻るぞ」
私達は元来た道を引き返す。ルージュちゃん達はいつまでいたっけ。
確か私がゼノンの様子が可笑しいのに気付いて、ゼノンの隣に行く時はいたんだよね。それは覚えてる。ってなるとその後だけど……。