第124話 帰らずの間
私はゆっくりと私は中央のはにわに近付く。
何かあるとすればこのはにわだろう。そう期待したものの、近付いただけでは何も起こらなかった。
なんとかこの部屋を出て、帰る方法を探さないと。私はそう強く決意し、はにわが囲んでいる場所の中に入った。
そして、丁度真ん中辺りに立った時、声が響いた。
「お主は誰だ?」
「私は……アナスタシアです」
反射でつい答えてしまった。多分名前を教えても大丈夫だろう。本名じゃないから、個人情報じゃないはずだし。
「アナスタシアといったか。お主に覚悟はあるのか? この魔法陣を背負って生きる覚悟が」
「はい」
私は自信満々そうにそう言った。とてもノーとは言えない雰囲気なので。というかこういうのは肯定しないと、魔法陣貰えない。
実際は、魔法陣を背負って生きる覚悟なんて0に等しいけど……。そんなことはもちろん顔に出さない。
「ならば……、この試練を乗り越えてみろ」
そう言われた後、私が呆気にとられていると、周りのはにわ達が光り始めた。
私ははにわの様子を伺うために、くるりと体を回しながらはにわを見つめた。
そうしているうちにも、はにわは輝きを増していった。そして、私ははにわに包まれ、またよく分からない部屋へと飛ばされた。
そこは地面、壁、天井と全てに魔法陣が刻まれた部屋。そこには一体の大きな魔物がいた。
私は鑑定する。
水の都の王の怨念Lv225
水の都の王の恨みが怨念化し、魔物となった。魔法陣を与える資格を持つものを求めている。
スキル 怨念 呪い ウォーターシャドウ 闇の手 王者の気配
さすが、ラスボス的存在の怨念というだけあって、色んなスキルを持っている。
それに王者の気配があるせいか、目の前に立つだけで、圧倒されるようで、少し体が震える。
私はぎゅっと拳を握りしめ、体の震えを抑える。
私は大丈夫、私は大丈夫……。1人でだって、この魔物を倒せる。
おまじないのように心でそう念じ、戦闘体勢に入る。
この敵がアンデッドなら呪浄化で1発だから、楽なんだけど、この魔物はアンデッドではない。
見た目はどう見てもアンデッドなのに。
まあ呪いと魔法で押し切るしかないか。
「【破滅の旋律】【反転(呪)】[カース召喚][カース召喚ex]」
私は呪いスキルを重ねていく。
「カースちゃんは私を守って。カースさんはいっぱいに分裂して、敵に触れて。それから、奪えそうなら敵のアイテムか体の1部をとってきて」
カースちゃんとカースさんに指示を出す。
敵のアイテムを盗むスキルを使うのもありかもだけど、近付けるか分からないうえ、アイテムを持っている保証がないのでリスクが高い。
それに関してはチャンスが来るまで待とう。
「『呪い精霊王召喚』『呪い精霊召喚』」
リズムちゃんもいないし、遠慮せずに、自分の切り札を最初から出していく。
リズムちゃんを信用してないわけじゃないけど、自分の手の内はなるべく他人に見せたくないというのが本音だ。こんなゲームだし。
敵は怨念スキルと呪いスキルを使ってきた。敵の目が光る。そして、その目から光が出てきて、それを避けきれず、私は呪いを喰らう。
しかし、反転のおかげで回復に変わったので、問題なしだ。
「【暗黒魔法】」
私は空一面に暗黒が広がる様子をイメージする。そして、空1面の暗黒を一斉に敵の怨念にぶつける。
敵はかなりの大ダメージを喰らったが、対抗するように手を大きく振り上げた。
何か来る。私が警戒していると、手から大量の闇が現れ、私の方に来る。
「カースちゃん!!」
カースちゃんは私を守るように立つが、闇は私を包みこもうとする。
私は藁人形をふって、魔法攻撃を連発し、闇を退けつつ、カースちゃんに守ってもらう。何とか大量の闇を防ぎきることが出来た。
敵は大量の闇を出し、隙が生まれた。私はその隙を見逃さない。
「『防御力デバフのプレゼント』【ファイヤーボール】」
高火力魔法を叩きつけ、フィニッシュを決めた。
敵はHPが完全になくなると、苦しげに呻きながら消えていった。
敵を倒すと、周囲の魔法陣が輝き出す。そして、魔法陣たちが合体し、1つの大きな魔法陣となる。
その魔法陣が書かれていた、報酬の魔法陣だろうか。
私はその魔法陣に手を伸ばすと、魔法陣が輝き出し、魔法陣の光が私の中に収束していく。
そして、私のスキル欄に【水の都の魔法陣】が追加されていた。それだけでなく、セットしているスキルの数がスキルセット枠を超えているため、スキルを1つ外してくださいという注意書きが出ていた。
まあスキルセット枠を超えてスキルをセットしていても、スキルが使えないわけじゃないので、ほっとこう。
しかし、1番驚くべきことは、このスキルを外すことが出来ないということだ。
何その呪いみたいなスキル。外せないって……、そんなのあり?
心の中で愚痴をこぼしつつも、ちゃんとした性能を確かめる。
LE【水の都の魔法陣】
水の都の遺跡に眠る魔法陣。闇のものに使うと、特大級のダメージを与えられる。
セットすると、魔法攻撃力+500のステータス補正が付く。
闇のもの相手以外だと、使えなさそうだね。これにスキル枠1つ占領されるのって迷惑かも……。強いて言うなら、ステータス補正が優秀なくらいしかメリットがないし。
他には特に何もドロップしなかった。私は部屋をぐるりと見回し、これ以上何も仕掛けがなさそうだと判断すると、帰還用の魔法陣に飛び乗った。
体がふわりと浮いた後、私はリズムちゃんがいたハニワの部屋へと戻っていた。
部屋へと戻ると、リズムちゃんがあわあわと部屋を動き回っていた。
「リズムちゃん!」
「あ、アナスタシアさん……。無事だったんですね……。そ、その、急にいなくなられたので……」
リズムちゃんは私の顔を見ると、安心したように、息を吐いた。
最初は私を超絶警戒していたリズムちゃんだがそれなりに私のことを信頼してくれているようだ。
「はにわの光に包まれて、なんかボス部屋に飛ばされたんだけど、ボス倒して、魔法陣ゲットして帰ってきたよ」
私はどう説明していいのか分からなかったが、言葉を選んで話す。
「え……?」
リズムちゃんの頭が混乱しているのか、私の言ったことを数回反芻していた。
「だから、後はここから帰るだけかな」
「そうですね……」
この帰らずの間から帰る方法を見つけないと。
この帰らずの間の出口はない。私達が登ってきた穴は塞がれているし。
とりあえず、鑑定してみるか。私は鑑定眼を発動しつつ、部屋中を見渡す。
しかし、これも手がかりなし。
試しにもう一度はにわの中に入ってみたけど、何も起こらなかった。
このまま帰れないのは困る。
うーん、どうしよう。
「ねぇ、リズムちゃん。何か手がかりを……」
リズムちゃんに私がそう問いかけた時、リズムちゃんは調査をしているかと思いきや、呑気にお茶を飲みながら、ケーキを食べていた。
「あ、ご、ごめんなさい。お腹が空いてきて……」
「ううん、ずっと動きっぱなしだったしね。私ももう少し調査したら休憩しようかな……」
リズムちゃんはけっこう図太い神経をしていた。
私は脱出方法が気になって、今はお茶を飲む気分にもなれない。
多分あの鍵と石をどっかに使うと思うんだけど。
私はもう一度はにわを観察する。手がかりになりそうなものといったら、このはにわと文字が書かれている壁くらいなものだし。
このはにわに入ったら、私はボス部屋に飛ばされたんだし、他にもなんかあるのかも。
はにわは6体いて、3体が小さくて、3体が大きい。
3体ずつか……。そう心の中で反芻して、違和感が生まれた。3つずつって、あの鍵と石と同じじゃん。まだ何にも使ってないし、絶対関係がある。
けどどう使えば……。とそこまで考えて、はにわの手に気が付く。大きなはにわの手は両手をくっつけて、何かを持てそうにしていた。
小さなはにわは右手で輪っかを作っていて、鍵が持てそう。
他にさす場所もないし、試してみよう。
私は鍵を小さなはにわの右手に持たせた。すると、小さなはにわが動き、鍵を上に掲げた。
小さなはにわの動いはちょこちょこしていて可愛かった。
私はその要領で、鍵を全てのはにわに持たせる。