第123話 天井にご注意
「ごめんね、待たしちゃった?」
「い、いえ、そんなことないです」
私は小走りでリズムちゃんの元へ移動しつつ、鍵を見せる。
「3つの部屋で鍵をゲットしたよーー。そっちはなんかあった?」
「私の方は……よく分からない石です」
そう言ってリズムちゃんは3つの石を取り出した。手のひらくらいのサイズの何の変哲もない石。そこらへんに転がってそうである。
「鍵はともかく、石って。得に何か書かれてるわけじゃないし」
私はそう愚痴をこぼしつつも、結局進むしかないことを分かっていた。
先へ進めば、鍵も石も使い方が分かるだろう。普通に考えたら。
私たちは鍵と石を大事に保管し、廊下を歩くことを再開する。
しかし、私達が20分くらい歩いたところで、行き止まりに差し掛かってしまった。
見事に石の壁があり、先へ進めない。
「どうしましょう……。ここ以外に道なんてなかったですよね……」
「そうだよね、あの部屋からここまで一本道だったし」
私達は困り果てていた。リズムちゃんも困惑した様子で、前の壁と来た道を交互に見つめる。
そう言えば、リズムちゃんが呼んだ石碑に、戻るのは簡単ではないみたいなこと書いてたんだっけ。確かに戻るのは簡単ではなさそうである。
「怨念を倒すみたいなことも書かれてたって言ってたよね。水の都の王子の亡霊がそれなのかなあ」
「ええっと、どうなんでしょうね……。でもあの亡霊だとかなり序盤でしたよね……」
リズムちゃんがおずおずと自信なさげに言った。
リズムちゃんのいうことも一理ある。怨念を倒したら魔法陣をくれるみたいなこと書いてたけど、あの怨念かなり序盤だったもんね。魔法陣も現れなかったし。
古代文字で書かれているくらい重要な怨念はラスボスとかで出てくるイメージである。
今回は、ラスボスを出現させる方法、もしくはラスボスのところにいく方法が特殊なんじゃないだろうか。
何か特別なことをしなくてはいけない。たまにゲームとかでもあるよね。何かしないとラスボスと戦えないみたいな。
ただ力量だけで攻めてもダメってことなんだろう。
私は手を頭にあて、考える。絶対に何かあるなずだ。ここから出る方法が。
うーん、ここには古代文字があった。リズムちゃんが読めないやつもあるし、そこに何か書かれている? そこまで考えて、その考えを振り払う。
それはないな。それだと全ての古代文字を読めるプレイヤー以外はクリア出来なくなってしまう。古代文字を読めた方が有利ってことはあっても、読めないからクリアは無理なんてことはないはず。
うーん、やっぱりあの鍵と石が関係してくるのかな? けどどう関係してくるんだろう。鍵穴なんてどこにもないし。そもそも石はどう使えばいいのか。
私は頭でそんなことを考えつつ、目の前に立ちはだかる壁を見つめた。この壁、本当に何もないのかな?
試しに壁に触れてみる。触れてみても特に何もない。ただの土で出来た壁だった。
何か鍵穴とかは……?
そう思い、壁を探ったが、鍵穴も窪みもない。
試しに鑑定をしてみたが、特に何もない。土の壁としか出なかった。
手がかりなしか……。
こんなに攻略で悩まされるのは始めてだ。
私は「はあ」とため息をつき、ふと上を見上げる。天井にはよく分からない絵が刻まれていた。
これが古代の芸術というやつなのかなーー。物思いにふけりながら、しばらく天井を眺めていた私は、少し違和感を感じた。
なんだろう、この感じ。なんかここの天井だけ感じが違うような……。上手く言い表せないけど。天井から何か嫌な感じがするというかなんというか。
少し気になった私は天井を鑑定する。
すると、天井には驚くべき鑑定結果が表示される。
帰らずの間への番人Lv220
スキル 擬態 ハレアの毒ガス 堅固
私が口をあんぐりとあげたまま、天井を見つめているのが不思議だったのが、リズムちゃんも上を見た。
そして、リズムちゃんも気付いたらしい。ハッとした顔をする。
「あの魔物、倒すしかないよね? こっちから仕掛けるよ」
私が小声で呟くと、リズムちゃんは強く頷く。
「【破滅の旋律】【反転(呪)】[カース召喚]」
私は呪いを重ねていく。そして、カースちゃんを召喚して、あの番人に触れてもらう。
「【音符の舞】『音の精霊召喚』」
リズムちゃんは音符を浮かびあがらせ戦う。私と違って、とても女の子らしい戦い方である。
そして、もう少しでHPを削りきれるというとき、体に違和感が起こる。
すごい勢いでHPが減っていくのだ。
「【アラウンドヒール】[カース召喚ex]」
慌てて回復スキルを使い、カースさんを召喚する。そして、カースさんには2体に別れて、私とリズムちゃんに付かせる。
「【治癒の光】『治癒の精霊召喚』」
リズムちゃんも回復スキルを使っていた。そして、治療できる精霊を召喚するが、私達のHPの減りは早い。回復とダメージがほぼ同時のペースで進む。
「【リジェネエリア】」
私は回復エリアを作るスキルも発動する。
「ここは回復エリアだよ! こっちに!」
私達は回復エリアに移動した。そうこうするうちに、敵のHPは0になり、敵は倒せた。色々アイテムはドロップしたが、確認する余裕がない。
敵を倒しても、ダメージの減りが減らない。
なんで?? 私は焦りつつも、自分に鑑定を使うと、敵のハレアの毒を喰らっていることが分かった。
ハレアの毒は毒ガスを浴びてから、一定時間経つと、急速にHPが減り始める毒だ。
ここから出ることや倒すことに夢中で、毒は気にしていなかった。いつの間にか毒ガスを食らってたんだ……。
あの敵に気付かなかったら、毒ガスの原因が分からないままだっただろう。
いつの間にか毒に気付かず、HPが……、なんてことがあったら恐ろしい。
「【キュアアヴラ】」
HPの原因が毒なら、状態異常を治せばいいだけだ。私は状態異常を回復するスキルを使った。
これで私達のHPの減少は止まった。私達は一息つくと、ドロップアイテムを回収する。
そのドロップアイテムの中には、古代文字解読スキルがあった。
「あ、これです……。私が持っているのは……」
これがあると、色々読めるようになりそうなので、有難くセットさせてもらう。
SSR【古代文字解読】
古代文字を解読することが出来る。
ドロップ品をしまいおわると、私は天井を見る。天井には穴が空いていた。
あれ、上に行けるってことだよね?
どうやって行くかだけど……。
私に自力で登る身体能力はない。
前、クローゼットの世界では、窓から侵入する時に、先に昇ったルージュちゃん達に引き上げて貰ったっけ。
あ、なら精霊に先に上がってもらって、引き上げて貰うか。
私はすぐに考えを実行に移した。
「『呪い精霊召喚』上に行ったら、ロープを引き上げて」
簡単に指示を出せば、呪い精霊は引き受けてくれた。同じ要領でリズムちゃんも上に上がる。
私達は天井の上へと入れた。そして、天井の上には大きな部屋が広がっていた。
その大きな部屋には、中央に大きな台があり、その周りを囲むようにはにわもどきが置かれていた。
何かの儀式をしてる部屋かな。なんか悪趣味だ。
私が部屋を見回すと、奥の壁に刻まれた古代文字に自然と目がいく。
そこにはこう書かれていた。
ーーようこそ、帰らずの間へーー
帰らずの間???
リズムちゃんが読んでくれた壁にもそう書かれてたよね。ここが帰らずの間ってわけだ。
帰らずの間っていうくらいだし、普通じゃ帰れないってこと?
とりあえず部屋を散策するのが先よね。そう思い、私は一歩足を進めた。