第122話 帰らずの地
そして、それなりの経験値とアイテムを落としていった。
「すごいですね、えと、あ、アナスタシアさん……」
「ううん、リズムちゃんが敵の動きをとめてくれたおかげだよ」
私達はアイテムを適当に回収し、お互いを賞賛しあう。リズムちゃんは共闘したことによって、私への警戒心が薄れてきたっぽい。
「まあ先へ進もっか!」
「……そうですね」
私達はまた薄暗い廊下を歩く。後ろから人の気配はない。戦闘でかなり時間を割いたし、他の皆がそろそろ来てくれるころだと思ったんだけど。
私は少し不安な気持ちになっていた。
歩けば歩くほど、私達2人以外の気配がしなくて、恐怖が増していく。どこまでこの道は続いているんだろう。何もない薄暗い道を歩き続けるのは辛いものがある。
気味が悪いうえに、終わりが見えない。
ふと隣を歩くリズムちゃんを見ると、自信なさげなのは相変わらずだけど、怯えているような感じはしなかった。
私がリズムちゃんを見つめていると、リズムちゃんが私の視線に気付いたのか、少し困ったような顔をする。
「リズムちゃんも精霊なんだよねーー、なんかシンパシー感じるなあって」
私は胸の奥の感情を誤魔化すようにいった。
「そ、そうなんですね……。あ、あの、アナスタシアさんもエンチャンターなんですか?」
リズムちゃんの方から何か尋ねてきてくれたのは始めてかも。私は少し嬉しくなりながら頷く。
「うん! リズムちゃんも?」
リズムちゃんはこくりと小さく首を縦に振った。
精霊でエンチャンターの子には初めて出会ったよ。なんか嬉しいかも。エンチャンターは戦闘職の中でどちらかといえば不人気くらいの職業なので珍しくない。
しかし、精霊は珍しいのだ。魔法職はエルフとかダークエルフが多いし。
私は精霊ってけっこう強いと思ってるんだけどなあ。
やっぱり物理攻撃力5分の1がネックになってるのかな? 精霊を選ぶと、物理攻撃を捨てなくてはいけなくなるからね。
物理攻撃を捨てても、その分魔法攻撃力とかが強くなれば私はいいと思うが、そう思わないプレイヤーもそれなりにはいるのだろう。
まあ物理攻撃を捨てると、戦略は狭まる。杖で殴るとかが出来なくなるしね。
意外と、魔法職でも、物理攻撃力を高めて、杖で殴ることをメインにしてる人は多い。
私的にはそれって魔法職って言わないじゃん! それ物理じゃん! って感じだけど。
魔法職で多いのは主にこの4パターンだ。
1つ目が完全なるサポート役。回復とかエンチャントをメインにしていて、ほとんどがパーティを組んでいる。これはプリーストとかエンチャンター、アストロジャーが多いかな。後アルケミストもこのタイプかな。
2つ目は、大魔法を使うタイプ。このタイプはウィザーやアストロジャーがほとんどで、魔法攻撃力にステータスを振って、遠くから大ダメージを与える魔法を使っている。
3つ目は、杖で殴るタイプ。魔法はオマケで、ばしばし敵を杖で殴る。このタイプはなんで魔法職をしたのが疑問だ。
4つ目は、魔物などを使役するタイプ。これはほとんどサモナーだね。ソロプレイヤーもけっこういるかな。
私はこの4つのタイプのどれとはいえない。3つ目以外のどのタイプの要素も持ってるし。おそらくリズムちゃんもそうだろう。
どのタイプが1番強いんだろう。
けどシチュエーションとかによって、変わるし一概にどれが強いとはいえないか。
例えば、今度イベントでやるような1vs1のトーナメントだと、1つ目はサポートしか出来ないから、不利なんじゃないかな。
ぶっちゃけ相性によっても変わってくるよね。
そんなことを考えると、思考が深くに沈み、うわの空となっていたらしい。私の様子に違和感を感じたのか、リズムちゃんが私の顔を心配そうに見つめる。
そう言えば、リズムちゃんはトーナメントとか出るのかな? 地下迷宮でレベリングしてるってしっくりくる。
気にはなるものの、敵を探ってるみたいで、嫌だから聞けないな。
私が葛藤していると、リズムちゃんが小さく「あっ」と声を上げた。
「どうしたの?」
「読める文字、見つけました……。あの、少し解読してもいい……ですか?」
「どうぞどうぞ」
遠慮がちに言うリズムちゃんに、私は許可を出す。解読は全然どうぞって感じてある。もしかしたら、内容を教えてもらえないかなって下心もあるけどね。
にしても……、読める文字を見つけたってことは、全部読めるわけじゃないんだ。
リズムちゃんは祈るように胸元に手を当て、真剣な眼差しで、文字を見つめる。
私は手持ち無沙汰になってしまったので、何となくスマホを眺める。皆と連絡が出来ないので、私に出来るのはイベントページを見たり、アイテムボックスの中身を見るくらいだが……。
それでも暇つぶしになる。
それにしても、皆何やってるんだろ。後ろから来る気配がない。何かあったのかな? 少し心配である。
まあ危機的状況なのは、皆より私とリズムちゃんなんだろうけどね。
私がスマホを片手に、ぼんやりとしていると、リズムちゃんが「ふぅ」と息を吐く音が聞こえてくる。
リズムちゃんの方を見ると、解読が終わったようで、振り向いて私を見た。
「あ、あのお待たせしてごめんなさい……。お詫びといってはなんですけど、内容とか興味ありますか……?」
「すっごい興味がある……!」
私が目を輝かせていったからか、リズムちゃんは驚いたような顔をしたあと、文字に目を戻した。
「ここは、帰らずの地。ここに辿り着き、怨念を倒したものに、魔法陣を与えよう……」
リズムちゃんはそこまで言葉を紡ぎ、息を整える。そして、また言葉を紡ぎ始める。
「ただし、怨念を倒すのも、ここを出るのも容易ではない……。覚悟のあるものに、我らの仇を取って欲しい……」
リズムちゃんはそこまで読むと、目を閉じた。
内容は何となく分かった。ていうか、すごい身勝手なこと書いてない? 仇をとって欲しいくせに、ここを出るのは用意ではないとかさ……。
私はこの文字を書いた人の身勝手さに呆れてしまっていた。
ゲームにそんなこといってもしょうがないんだろうけど。
「読んでくれてありがとね。この内容が本当なら、ここから簡単には出れないことになるよね……」
1番の問題はそれなんだよね。ここから出れないのは困る。一応ソウルンも食糧も多少はアイテムボックスに入ってるけど、何ヶ月もここにいたら死にそう。
「そ、そうですよね……。どうしましょうか」
「進んでみる……しかない気がするかなあ」
現状はそうするしかないのだ。他になんの情報もない以上はね。
「ですよね……」
リズムちゃんもまあそうするしかないよなというような表情を浮かべたように見えた。
私達は、この通路の移動を再開する。
歩いていると、いくつかの部屋へのドアがある通路へと出た。
左側に3つ、右側に3つドアがある。
「確かめてみるよね?」
「じゃ、じゃあ、私が右側を見てみましょうか……?」
「なら私が左側を確かめるね。見終わったら、この通路で」
私達はすぐに方針を決め、ドアを入る。1人で行くのは不安だけど、早く脱出したいし、手分けした方がいいだろう。
私は左側の手前のドアを開いた。そしたら、案の定というかなんというか、ゴースト系の魔物が現れた。
そんなに強くないし、呪いと、魔法スキルで簡単に倒していく。
全ての魔物を倒し着ると、土? で出来たような鍵が現れた。
多分重要なものだと思うので、大事に取っておくことにする。私は足早に次の部屋へ向かう。こんな気味の悪いところ、とっとと脱出したい!
真ん中の部屋、奥の部屋と入り、魔物を倒していく。全ての部屋で鍵を落とした。鍵の見た目はどれもあまり変わらないけど、3つもなんに使うんだろ。
私が3つ目の部屋の鍵をゲットして、部屋を出ると、リズムちゃんはもう外で待っていた。