第121話 祭壇の下には
「リズムちゃん……? どうしてここに?」
私はリズムちゃんの手を借りて、立ち上がりながら尋ねる。
「さ、祭壇の下に手を入れたら……、手を掴まれて……、ここに落ちてきました……」
「私と同じだね」
私も祭壇の下に手を入れたら、何かに手を掴まれて、引っ張られた。浮遊感がしたあと、ここに落ちた。多分ここは祭壇の下にある空間だろう。
私達はお互いに起こったことを報告する。そして、私は辺りをぐるりと見回した。
ここは何かの部屋みたいだけど、1つベッドが置かれているだけで、何もない。前を見ると、1つ扉があった。
元の場所に戻る方法も分からない。
「どうやって元の場所に戻るか分かったりする?」
私の言葉に、リズムちゃんは首を横に振った。
「そうだよねーー。どーしようかな」
とりあえず進む? 皆は多分、私が引きづり込まれたことに気付いたら、すぐ来ようとするはずだ。
けど来ないってことは、ここに来れないとか?
私は連絡をしようとしたものの、ここでは電話もチャットも使えなくなっていた。
たまにあるんだよね、電話もチャットも使えないエリアが。
皆をいつまでも待っていても、しょうがない気もする。私がここに来れたのは何かに引きづられたからであって、引きづられなければここには来れないのだから。
うーん、私は指を頭に当て、考える。
少しの迷いの後、答えを出した。
ここにいても仕方がない。先へ進もう。ただ皆がここに来た時に、いないと困らせてしまうかもしれないので、メモを残しておく。
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皆へ
先へ進みます
byアナ
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これを目立ちそうなベッドの上に、テープで止めておいた。多分ここに置いてあったら、目に止まるだろう。
「先へ進もうと思うんだけど、良かったら一緒にどう?」
リズムちゃんは強いプレイヤーのはずだし、1人より2人の方が心強いので、私はそう尋ねた。
リズムちゃんは私の言葉に、少し困ったような顔をして、俯いた。
どうしよう、これ迷惑な誘いだったかな。リズムちゃんはもしかしたら1人で行きたかったのかも。
私は慌てて前言撤回しようとしたが、その前にリズムちゃんが勇気を振り絞るように、手をぎゅっと握って、返事をした。
「あ、その、えと、一緒に行ってもいいんですか?」
「いいもなにも、一緒に行きたいと思ったわけだけど……」
私は予想外の言葉に、しどろもどろになってしまう。
リズムちゃんが私の言葉に、少し嬉しそうにしたように見えたのは自惚れなのかな?
「よ、よろしくです」
「こちらこそ」
私はリズムちゃんに手を差し出した。するとリズムちゃんは少し緊張したようにしながらも、ゆっくりと手を握り返してくれた。
そして、私達は扉の先へと進む。扉を開くと、辺りには黒い壁と黒い床が広がっていた。
それでも辺りが見えるのは、一定間隔に蝋燭が置かれているからだ。
その蝋燭台も歪な形をしていて、不気味だった。相変わらず嫌な雰囲気だな。
隣を見ると、リズムちゃんは足をガタガタ震わせていた。
「大丈夫……?」
「え、あ、はい、だ、大丈夫です! これは武者震いです……」
「そっか」
リズムちゃんは慌てたようにぶんぶんと手と首を振っていったが、到底武者震いには見えない。
そこを突っ込んだら可哀想だから、何も言わないでいるけど。
私達は何も言わずに、長い廊下を進んでいく。静寂が私達を包んでいた。
しかし、ある時、その静寂を魔物の咆哮が打ち破った。
長い廊下を進んでいる時、とてつもなく禍々しい気を纏ったゴーストもどきが現れた。
そのゴーストもどきはこの世の恨みつらみを体現したよう見た目である。
私は鑑定を使う。
水の都の王子の亡霊Lv215
3000年前に、水の都が滅びてから、ずっと悠久の時を彷徨っている。
スキル 闇纏 ダークプレイズン ミッドナイトエル
水の呪縛 3000年の怨念
私は敵のスキルを伝えるかどうか迷った。あんまり、鑑定眼を使えることは、人に話すべきではない。最近は治安も悪いし。
……けど、少しでも戦いやすくするために伝えるべきだよね。リズムちゃんはそんなに悪い子には見えないし。
「あのね、私鑑定できる力を持っているから、あの敵のスキルとか伝えるね」
「それなら大丈夫です……。私も鑑定出来る力があるので」
リズムちゃんは首を振って、私の申し出を断った。
リズムちゃんも鑑定できる力を持っているのかあ。でも考えてみたら納得か。鑑定でも出来ないと、地下迷宮を1人で探索なんて出来ないもんね。
リズムちゃんが持っているのが、私と同じ鑑定眼かスキルなのかは分からないけど……。
ともかく、頼もしい味方なのは間違いなさそうである。
「お互いの戦闘スタイルも分からないし、同じ魔法職……だよね? 好きに戦おっか」
魔法職同士で、前衛がどうとか後衛がどうとか気にしても仕方ない。そもそもお互いの力も全く分かってないわけだし。
いや、私はリズムちゃんを鑑定出来なかったけど、向こうが私を鑑定出来ている可能性はあるか。
「そ、そうですね……!」
リズムちゃんは緊張したように胸に手を当てた後、歌い始める。
「ルールル……♪」
とても美しく、聞くものを惹き付ける歌声。そして、リズムちゃんの歌に合わせて、精霊が舞踊り、敵に大ダメージを与えていく。
って見とれている場合じゃないよね。
私もスキルを使う。
「【破滅の旋律】」
そして、リズムちゃんも精霊を召喚しているので、せっかくならと私も精霊を召喚することにする。
「『呪い精霊王召喚』『呪い精霊召喚』『闇精霊の導き』」
精霊達に援護をしてもらう。私達の周りをたくさんの精霊達が待っていた。
傍から見たらとても幻想的な光景なのだろう。
私、というよりリズムちゃんの精霊達が魔法で大ダメージを与えていた。
多分リズムちゃんの歌声が、精霊達の攻撃力を上げるような効果を持つのかな? 予想だけど。となると、リズムちゃんもエンチャンター?
いや、そうとは限らない。サモナーとかプリーストも、味方の攻撃力を上げるようなスキルがあるし。
「【呪い】【暗黒魔法】」
私はいくつかの呪いスキルや魔法スキルを発動する。とりあえず初手はそこそこのスキルで様子見だ。
私達の攻撃で、敵は確実にHPを減らしていた。そして、敵は今まで闇を纏い、私達に闇のようなものを打ったりするだけだったが、動きが変わった。
急に私達の方へ突進してくる。
「【反転(呪)】【カース召喚】」
私はカースちゃんを召喚して、守ってもらう。そして、カースちゃんに、1度触れ、カースちゃんに、触れてはいけないと思ったのか、今度はリズムちゃんの方に向かう。
リズムちゃんはというと……。
「[大地の歌声]」
リズムちゃんの周りにいくつかの音符が浮き上がる。そして、その音符達が、攻撃からリズムちゃんを守っていた。
これは多分ユニークスキルかな。防御系のユニークスキルっぽい? 今まで見てきたユニークスキルで1番可愛らしい。
「カースちゃん、敵を呪って!」
私はカースちゃんに、敵を呪うように指示を出す。
カースちゃんは私に言われた通りに、敵に近付く。けれど、敵はすばしっこく避けた。
「あ、あの! あの敵を捕まえられたらいいんですか?」
リズムちゃんが私の目をじっと見つめていった。リズムちゃんの目は強い光を帯びていた。
「う、うん! 捕まえたら倒せるんだけど……」
私がそう言うと、リズムちゃんは何かのスキルを使った。
「【音符の支配】」
リズムちゃんが歌うと、音符達が浮かびあがり、敵の体を拘束する。そして、リズムちゃんは私の方を見た。
私は今がチャンスと思い、カースちゃんに指示をを出す。カースちゃんは敵に触れ、呪った。
そして敵のHPは0になった。