第119話 石碑の謎
私達はお互いに悲鳴をあげた後、お互いのことを見つめ合う。そして、悲鳴の相手がプレイヤーであるリズムちゃんだと分かった。
リズムちゃんって子とはよく会うね。地下迷宮で会うの3回目じゃない?
「また会ったね、びっくりさせたみたいでごめんね」
リズムちゃんはおそらく急に私達が現れて驚いたのだろう。そのことについて、一応謝っておく。
「い、いえ……」
リズムちゃんは相変わらず人見知り? を発揮しているっぽい。向こうの立場に立ってみると、怪しげな6人組に声を掛けられているわけだし、少し怖いと思うのも無理はないかもしれない。人見知りならなおさら。
私はあまり無理に話かけてもあれかな? と思い、大広間を物色することにする。というか、私もあまりコミュニケーション能力に自信がないので、なんて話しかけたらいいのか分からないというのもあるが……。
私はリズムちゃんから目を逸らし、広間をぐるっも見回す。そして、やけに存在感のある石碑に目がいった。
「これ、見て! 何か書いてるよ!」
ルージュちゃんも私と同じく、大広間の中央にあった石碑に注目する。石碑には何やら文字が書かれていたが、全く読めない。
これ何の文字だろう。象形文字?? アラビア文字的なやつ??
「我が一族は、海の底に追いやられた……。こ、これは古より続く水の都の成れ果てである……」
私が考えている時、ブツブツと呟くような微かな声がした。リズムちゃんの声だ。我が一族は海の底に追いやられた? どうして急にそんなことを……。
そう思いかけて私ははっとした。もしかして、石碑の内容?リズムちゃんは石碑の方を静かに見つめていた。
「古代王国を滅ぼしたあの男は……、やがて水の都を滅ぼすだろう。だから我らは海底に逃げることにした……」
私達は静かにリズムちゃんの声を聞いていた。
「ここにあの男を倒すための、魔法陣を用意した。どうかあの男を……」
リズムちゃんはそう言うと、石碑から目を逸らし、俯く。
「それ、石碑の内容ですよね? 読めるんですか?」
茶々さんの問いかけにリズムちゃんはびくりと肩を震わせた後、頷く。
「そっかそっか、内容教えてくれてありがとね! リズムちゃん!」
ルージュちゃんの言葉に、初めてリズムちゃんがはにかんだ気がした。
「古代王国を滅ぼしたあの男ねぇ。古代王国ってどっかで聞いたような……」
古代王国ってどっかで聞いた気がするんだよね。どこだっけ。私は必死に頭の中の記憶を思い起こす。
「何でしたっけ……」
あ、思い出した。確か、このゲームがリリースされる時に、自称神が話してた。ゲームのクリア条件に関わるんだよね。
古代王国の宮殿にある扉にENDの宝石を差し込むとラスボスが出現する、あの自称神は確かにそう言った。
しかも私達は古代王国に入れる称号を持っている。称号を手に入れたのがかなり昔だったので、忘れかかっていた。
「思い出したよ、私達古代王国に入れる称号持ってるじゃん! 自称神が古代王国について話してた」
私の言葉を聞いて、皆がああ、とピンと来たような顔を浮かべる。皆忘れかけていたらしい。
まあ普段ゲームをしてて、古代王国というワードを聞くこともないし、そんなものだろう。
「君達も、古代王国に入れる称号持ってたんだ。僕達も持ってるよ。とにかく、この石碑や水の都に何らかの古代王国との関わりがあるわけだね」
「じっくり探索してみよっか、古代王国にも十六夜にも関わってる場所みたいだし」
確かENDの宝石が4種類あって、そのうちの1つが夜の使徒のリーダーを倒すことだよね。
そして、ENDの宝石を差し込む場所は古代王国の宮殿の扉。
古代王国と関わりのある水の都を十六夜が探していた。
これは何か大きなゲーム攻略のヒントになりそうだし、覚えておこう。
後、あの男を倒すための魔法陣を用意したと書いているらしいから、その魔法陣とやらも探してみてもいいかもしれない。
あるかどうかも分からないけど。
「い、いざよ……い?」
リズムちゃんが消え入りそうな声で呟いた。私達は石碑を読んでもらったお礼に、ここに来るまでの経緯を話した。
リズムちゃんは少しは人見知り? が改善されたのか、私達の話を聞いてくれた。目は見てくれなかったけど。
「そ、そう……なんですね……」
リズムちゃんはそれを聞いて、顔を強ばらせながらも、何かを思案し始めたようだ。
「とりあえず一通り建物の中を見てみますか?」
「そうだな」
「なんかお宝とかないかな? 深海の財宝的なの」
「ルージュは、ゲーム攻略よりお宝って感じね」
「えへへ! お宝欲しいもん! トレーダーだし」
ルージュちゃんはふにゃあと笑う。
リズムちゃんは私達をちらりと見た後、広間の向こう側へと去っていってしまった。
「彼女すごいですね、何か解読出来るスキルでも持っているのでしょうか」
「かもねーー」
NPCキラーなんて大体アラトみたいなタイプだと思っていたが、リズムちゃんはそれに当てはまらなさそうだ。
リズムちゃん、彼女は色んな意味で謎が深いプレイヤーである。私は少し興味が芽生えていた。
「あの子の解読能力、気になるわね、後をつけてみる?」
「それはストーカーみたいなので、やめた方がいいと思いますよ、マロンさん」
私達は広間をぐるっと見回し、他に何か手がかりがないかを探った。特に何もなかったので、広間の先へと急ぐ。
神殿の中の魔物を蹴散らしながら進む。相変わらず神殿の壁にはよく分からない文字が刻まれていた。ここら辺の文字とかにも意味があったりするのだろうか。
「文字を解読出来ても、全てを解読するのは骨が折れそうだよね」
「そうかしら? 意外と楽しそうじゃない? ……ルージュはそういうの苦手そうだものね」
「苦手っちゃ苦手だけど! ねぇ、この文字キリル文字っぽくない?」
「キリル文字なんてよく知ってるね」
「見たことあるだけで、勘だけどね、これはルーン文字かな?」
ルージュちゃんがある壁の文字を指さす。私は首を振って、それを否定した。
「こんなルーン文字じゃないよ」
「え、なんで分かるの?」
「昔ルーン文字を覚えたことがあるんだよね」
「アナちゃんよくそんなマニアックな文字に手を出したね……」
ルージュちゃんの言葉に、私は苦笑いしつつも答える。
「ルーン文字ってなんかかっこいと思って」
厨二心がくすぐられるんだよね、ルーン文字って。中学生くらいのころ覚えて、よく分からない文章を書いていた記憶がある。
あ、これって黒歴史?
「いや、私分かるよ。私も昔象形文字に手を出したことがある」
「あるあるだよね」
よく分からない記号みたいな文字ってなんか心が惹かれるんだよね。私達は文字談義で盛り上がる。
そして、神殿の中を進んでいく。神殿の中には相変わらず気味の悪い魔物ばかりがいた。
「【破滅の旋律】」
「[爆裂ウィンク]」
「[物点予測]」
「[花紅柳緑]」
私達は次々と襲い来る魔物を蹴散らしていく。特にはユニークスキルを使って、魔物を躱す。
「【雷電】」
「【風林火山】」
そして、何百体もの魔物を倒す。ここら辺の魔物はもう私達は楽に蹴散らすことが出来た。これも成長している証拠だよね。
私は自分たちの成長をひしひしと噛み締めていた。そろそろレベル200だよね。ゼノンとシグレは200になって、覚醒スキルを覚えてるし、私も覚えたい。
覚醒スキルへと淡い期待を抱きながら、神殿の魔物を倒しまくる。そして、ある時、私のレベルはついに200になった。
ついに、レベル200! 私は感激しながら、200になった特典を色々と確認する。
ーーレベルが200になりました。
ーー覚醒スキルを覚えました。