第117話 エントリー
「あ、そうだ。ルージュちゃん。この【竜爪】ってSSRのスキルいらない? ルージュちゃん一応爪使いでしょ? 使わなくても、スキル売買があるし」
「え、なにそれ欲しい! あ、そうそう。私も魔法職向けのスキルゲットしたから、アナちゃんに渡そうと思ってたんだよね」
ルージュちゃんは【竜爪】に思ったより食いついてきた。私の使えないスキルなので、喜んで使って貰えるなら嬉しい。
にしても、ルージュちゃんがゲットした魔法職向けのスキルってどんなのだろ。
私が期待を込めてルージュちゃんを見つめると、ルージュちゃんは「えへへ」と自慢げに笑った。
「【リジェネエリア】ってSSRのスキルだよ! 自分と味方のHPを持続回復するエリアを作るスキル!」
「え、欲しい。持続回復のスキル持ってないし」
「じゃあ交換しよ!」
「うん!」
私達はルージュちゃんのギフトでスキルを交換した。スキル売買はかなりレアなギフトだ。スキルを売買、または交換できる方法は、今のところスキル売買のギフトくらいしか発見されていない。
ルージュちゃんがその気になれば、スキル売買で億万長者になれるんじゃないかな。本人は冒険重視みたいなので、あまりスキル売買はしてないみたいだけど。
盗賊ガチャを回しまくって少し余ったガチャチケットは、呪いガチャに費やす。
だが、あまりいいのは出なかった。盗賊ガチャで今日は運を費やしたかな。
私は少しショックを受けつつも、盗賊ガチャの結果が良かったので、素直に喜ぶことにする。
呪いガチャはまたスキルチケットが溜まったら回そっと。
「そういえば、十六夜の隠れ家にあるこの地図には、深海エリアへの行き方が書かれていますね」
ずっと地図を眺めていた茶々さんがふと顔を上げた。
「なら、迷わなくてすむわね」
「けっこう遠いの?」
私の問いかけに、茶々さんは首を振る。
「いえ、この辺りです」
「それなら、明日から深海に行くということでいいんじゃかいのか? 地下だから暗さは分からないが、時間的には夕方だ」
そう言って、シグレはスマホの時間を見せる。
確かにもうこんな時間だし、大きな戦闘もあったし、休憩にした方が良さそう。
このゲームにおいて、戦ったり、行動したりすれば疲れる。そして、その疲労は時に命取りとなるからね。
「そうですね!」
私達はずっと動きっぱなしだったので、ここら辺で休もうということで、全員の意見が一致した。
「何か食べる? トレーダーショップでなんでも買えるよ」
ルージュちゃんがスマホを眺めながら、私達に尋ねる。
「いいね! あ、お寿司ある? わさび抜きのやつ」
「あるよーー」
「お寿司いいですね!」
私がお寿司を頼んだのをきっかけに、皆もお寿司を頼み始める。
気が付くと、お寿司パーティ状態になっていた。
私はサーモンやマグロをメインに食べる。もちろんわさび抜きで。わさび苦手なんだよね。
私達がお寿司で盛り上がっていた時だった、お知らせがピコンと光った。
なんだろう、皆が一斉にスマホに手を伸ばして、確認する。スマホを開くと、すぐにイベントのことだと分かった。
武道大会についての詳しい連絡が来ていた。それから報酬についても。
「すごいよ! 上級トーナメントの優勝者は七つの大罪シリーズの武器だって」
「七つの大罪かあ。強そう」
ルージュちゃんが真っ先に声を上げる。七つの大罪シリーズってなんかかっこよくない? 持ってるだけで、強そう。
性能はゲットしないと分からないらしいが、上級トーナメントの1位の商品が強くないわけがないだろう。
ちなみにだが、武器の形態は優勝者が選ぶことが出来るらしい。剣がいいとか、杖がいいとかね。
報酬を色々見てみたが、やっぱり上級トーナメントはベスト16とか参加賞も豪華だった。
ちなみに、メインの優勝商品は、上級トーナメントが七つの大罪シリーズの武器、全員参加が七つの大罪シリーズのメイン防具。
物理職限定が七つの大罪シリーズの靴、魔法職限定が七つの大罪シリーズの靴下である。
戦闘職限定は、七つの大罪シリーズのバッチ、生産職限定は七つの大罪シリーズの建物となっていた。
女限定と男限定は七つの大罪シリーズではなく、王の武器と女王の武器シリーズだった。
中級者限定と、初心者限定はいっちゃなんだけど、そこまでいいものではない。
これどうしようかな。1位狙いなら、魔法職限定トーナメントに参加したいよね。丁度靴下は持ってないし……。
七つの大罪シリーズってなんかかっこいいし、欲しいよね。
上級者トーナメントは、参加賞もいいけど、強いプレイヤーがいっぱいいるだろうから、多分ベスト16入りとかベスト32入りとかは無理だろう。
上級トーナメントの参加賞より、魔法職限定トーナメントのベスト16の報酬が大分美味しいし、魔法職限定とに参加しようかな。
目指すは優勝! 優勝は無理でもベスト16入りはしたい。
「七つの大罪シリーズの建物って何なんだろ。店にも家にも工房にもなるらしいけど」
「確かに。建物が1番謎だよね。あ、ルージュちゃんはやっぱり生産職トーナメント?」
「うん! そのつもり! アナちゃんは結局どうするの?」
「私は魔法職限定!優勝狙いーー」
「マロンちゃんと茶々さんは?」
「私は戦闘職限定にしようかしら」
「拙者は物理職限定にします!」
私達はどのトーナメントに出るかを決めると、参加ボタンを早速押す。申し込み期間は短いし、忘れないうちに参加しないとね。
「ゼノンは上級で、シグレは全員のだっけ?」
「そうだよ」
「ああ」
2人がどれに出るかは冒険者ギルドで聞いたが、報酬を見ても、気持ちに変化はないらしい。
私達は誰も、トーナメントが被らなかった。これなら、遠慮せずに優勝目指して戦えるね。
トーナメントの画面から、参加人数が見えるが、緩やかに参加者数が増えていっている。
1番人数が多いのはやっぱり全員参加だった。私の出る魔法職限定はどちらと言えば、人数が少ない。
「そういえば、七つの大罪って、確か強欲、怠惰、色欲、嫉妬、憤怒……、後なんだっけ?」
可愛らしく小首を傾げるルージュちゃんに、私が答える。
「傲慢と悪食かな」
「それそれ! 七つの大罪シリーズってどれなんだろーね」
「トーナメントによって、どの罪か違うのかも、全部同じ罪なのかも分かりませんよね」
優勝者にしか、どんなものなのかは分からないからね。そう思うと、やっぱり優勝したい。
私達はトーナメント談義で盛り上がる。
「やっぱり七つの大罪の中なら悪食がいいなあ。悪食な建物ってかっこよくない?」
「なんか建物に入っただけで食べられそう」
「人喰いハウスを思い出しますね!」
「人喰いハウス! 懐かしいーー」
茶々さんの言葉に、私は懐かしの人喰いハウスを思い出し、思わず声を出す。
「人喰いハウス? えらく物騒だね」
ゼノンが興味津々といった様子で会話に加わってきたので、概略を説明する。
「そんな魔物が……」
「ゼノン達は面白い魔物とかとあんまり出会わないの?」
ルージュちゃんの前振りに、ゼノンは首を傾げて、考え込む。
「面白い魔物かあ」
ゼノンは少し思案した後、何か思い出したような顔をした。
「面白いかは分からないけど、前カルマ値を下げるために、村の守り神と言われる村を守っている魔物を倒しに行ったんだ」
「鬼畜!」
ルージュちゃんの言葉にゼノンは苦笑いしつつ、話を続ける。
「その時の守り神の魔物は普通に話せたよ。普通にいい魔物っぽかった。倒したけど」
そう言いながら、屈託のない笑顔を浮かべるゼノンに私は少しゾッとした。
中々にえげつないことをするね。色々やらかしてる私が言えたことではないけど……。
私達は十六夜を倒し、様々な情報やアイテムを手に入れたこともあり、話に花を咲かせるのだった。