第115話 vs十六夜
「あのくそインチキ占い師……。やっぱり裏切っていたんだ」
「やっぱりってことはあの占い師、あんまりあなた達に信用されてないみたいだね」
「ああ、あいつへの信頼なんて0だよ」
あの怪しげな占い師は余程嫌われているらしい。十六夜の様子からそれがひしひしと伝わってくるよ。
にしても酷い言われようだね。
「何でそんな信用出来ないやつを夜の使徒に入れたの?」
「あのお方がそう言ったから仕方なかったんだ」
あのお方ってリーダーのことよね? ……なんか自分が招き入れたやつが裏切ってるなんて切ないね?
そんなことを考えながらも私は十六夜への質問を続ける。嫌いな奴のことになると、ペラペラ話してくれるね。
「怪しげな占い師って強いの?」
「知るか、あんなやつのことなど。とにかく僕はお前らを殺す」
怪しげな占い師についてはもう話し切ってスッキリしたらしい。
私達への殺意MAXモードに戻ってしまった。
「これはあのお方に言われ、いざと言う時の為にとっていたけど……」
十六夜は胸につけていたバッチを振り上げる。バッチから赤い光が漏れ、十六夜を包み込む。
「ぐぁぁぁぁぁ」
十六夜は苦しそうに悲鳴をあげる。やがて、十六夜の体から禍々しい気配が増していく。目はさっきより紅くなっていた。
「これが多分敵が覚醒ってやつだね!」
ルージュちゃんが爆弾を手で弄びながらそういう。
「闇の力を受けて的なやつ? 十六夜は闇の力っていうより赤だから血の力! って感じだけど」
「かなり強くなっているな。気を付けろ」
「うん! 忠告ありがとう」
強くなっていてもすることは変わらない。私は十六夜が呼び出した魔物を倒すことに専念する。
隙を見て、ちょこちょこ十六夜の方にも呪いをかけたりしているけど、あまりそちらに私のダメージは与えられていない。というか、皆もダメージをあまり与えられていない。
私達の攻防は長く続く。十六夜のHPはとても高い。元々高かったのが、謎の覚醒のせいでさらに高くなった。それに、中々決定打のある攻撃を当てられないでいたのもあるだろう。
HPが高いこの敵に、私の呪いが1番ダメージを与えているが、もともとのHPが高すぎてね。
私は魔物の相手がメインだし、無限に呪いを打てるわけじゃないし。カースちゃんは守りに徹するのでめいいっぱいだし。
皆は何度もMPポーションを口に含み、スキルを使っていた。
え? 私? 私はMPポーションとは無縁である。
「困ったわね」
そう。私達はジリ貧状態だった。藁人形を使おうにも、十六夜は特に武器なんて持ってないから奪いようがないし。
そう言えば、盗賊向けかなんかのスキルで、アイテムボックスの荷物を奪うスキルがあるらしいんだよね。私もシーフ限定ガチャ回してみようかな。
そんな現実逃避をしつつ、スキルを使う。
「やっぱりタコ殴りにするしかなさそうね」
「マロンさんらしいですね……。まあ他に方法もなさそうですし、持久戦といきますか」
とりあえず持久戦をするしかない。数的にもこちらが有利だし、十六夜は自分を回復する手段がないからいつかは倒せるはずだ。
十六夜は何かをブツブツと呟く。
「【暗黒魔法】暗黒の王よ、全てを闇に包み込め……」
すると、私達を闇が襲う。
私達は持っていたシャイン玉を投げる。周囲を照らしてくれる玉だ。それで闇に飲み込まれるのは回避したものの、少なくないダメージを受けた。
「【アラウンドヒール】」
私達は攻めの手を強める。
ゼノンは雷を全身に纏わせ、全力の大剣を奮う。茶々さんとシグレも素早く鮮やかに刀を奮う。
ルージュちゃんの爆弾、マロンちゃんの散弾が十六夜を追撃する。
私はというと、ひたすら呪いである。
藁人形は体の一部でも使えるんだよね。例えば爪とか髪とか。というか物語の中とかで、人形で呪う時に使うのはものよりも、爪とか髪の方が多いのでは。
けど、いくらなんでも爪とか髪を奪うのは……。難易度高いし、なんか気持ち的に嫌だ。そんな思いもあり、今まで体の一部を奪おうと試みたことはなかった。
うーん、このままじゃ時間がかかりそうだし、贅沢も言ってられないよね……。
「ねぇ、十六夜の髪の毛ゲットできたりする?」
私は小声で、尋ねる。
「……何に使うんだ?」
シグレが少し引いた顔で見てきたので、私は弁解しておく。変な趣味があると思われなくはないから。
私の説明にシグレは納得したように頷く。
「そういうことなら、努力はする」
「拙者もです」
素早さに定評のある2人にお願いする。あの十六夜から髪の毛をすっぱ抜くのは至難の業な気もするけど……。
一応目的は、十六夜の髪ではなく、十六夜を倒すことなのでそこの念押しはしていく。目的と手段が逆になってもしょうがないからね。
私達はその後も十六夜との攻防を続ける。十六夜のHPが高すぎて、全然減らない。半分までは破滅の旋律ですぐ減ったけど、その後がね。
しばらく、攻撃を続けていると、十六夜が大きく手を振り上げる。そして、十六夜の手から赤い光線が出てくる。
本能的にやばいと思ったので、一瞬焦ったが、私の元にカースちゃんが走ってくるのが見えた。
「『身代わり精霊召喚』」
身代わり精霊を1番前にいて、スピードが不安なゼノンにあげる。ゼノンは攻撃を受けていたが、身代わり精霊のお陰でノーダメである。
身代わり精霊ちゃんないす!
そして、十六夜は大技を打ったからか、少し手を痛めるような仕草をする。そこをシグレと茶々さんは逃さない。
茶々さんが斬りかかり、バランスを崩した隙に、シグレが髪の毛を引っこ抜いた。
そして、私に渡してくれた。
私はもちろん藁人形に髪の毛を入れ、五寸釘で打つ。ごすんごすんとね。
そしたら、さっきまで十六夜に苦戦してたのが嘘みたいに、HPが減っていく。
「くそっ……」
十六夜はこちらを睨みつけ、反撃しようとするも、反撃する前に、HPが0になってしまった。
十六夜を倒すと、辺りの魔物が正気に戻った。正気に戻った魔物はパワーダウンしていたので、さくっと全員倒した。
魔物を倒すと、ドロップ品を回収し、ようやく一息つく。
「お見事だよ。アナちゃんは面白いスキルを持ってるね」
「貴様のその藁人形、PKプレイヤーが持っていたらと思うと恐ろしいな」
シグレは遠い目をした。フェリシモ王国でPKにでも襲われたのかな? あ、思いっきり私達業火の地獄に巻き込まれたね。
私はその時のことを思い出していた。
確かにこの藁人形を使えば、PKし放題な気はする。プレイヤーの持ち物を奪えば……、いややめよう。私はPKなんてする気は毛頭ない。
「十六夜のドロップ品、レアアイテムがザックザクだね! それと見て。なんか地図があるよ」
ルージュちゃんに言われて私達は一斉に地図を覗き込む。む、この地図って、今私達がいる地下迷宮の……だよね?
その地図には、今私達がいる場所から少し離れたところに、赤印が記入されていた。ここが本拠地なのではないだろうか。
地下迷宮を拠点に何かの活動をしていたなら、本拠地があってもおかしくないだろう。
「なんかこの赤印が本拠地っぽくない?」
「せっかくですから、行ってみますか? そこまで遠くないですし」
「レアアイテムもあるかもね! 高値で売れそうなものあるかな?」
「あー、ありそう」
「それに、夜の使徒についてなにか分かるかも知れないわ」
マロンちゃんは考え込むような仕草をしながら呟く。
「そういえば、4人は夜の使徒と何回か戦ってるんだっけ?」
「うん! 十六夜の部下と、もう1人怪しいフードの男を倒した! それから、怪しげな占い師。こいつは倒してはないけど。あ、アナちゃんは十六夜の元ペットも倒したかな」
「すごい遭遇率だね。僕とシグレは1人だけだよ。大剣を使う大っきい男だったかな」
大剣使いかあ。
私達はお互いの夜の使徒についての情報を交換する。お互いに分かってることはあんまりないけどね。
週ごとの更新に変更します。月、木、土の週三回にする予定です。