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第111話 神秘の歌声


 私達はアルロとリトビアと魔物一行を倒した後、のんびりと地下迷宮を歩いていた。


「地下迷宮の魔物の経験値は美味しいですね」


「それね! この調子なら神聖アシュタリカ帝国に着く前に、レベル200になるかな? 爆弾の覚醒スキル覚えたい」


 ルージュちゃんは胸の前に手を持ってきて、楽しみだという風に大袈裟に手を振る。レベル200ねぇ。まあ到達出来そうな目標である。


「ルージュちゃんの覚醒スキルは無数の爆弾を操るスキルとかになりそう」


「それかっこよくない? 覚えたらアナちゃんに披露するから、楽しみにしてて」


「私、自爆魔のせいでちょっと爆弾トラウマなんだけど」


「え、さっき私の爆弾投げてたじゃん」


 私達の気は緩んでいた。さっきまで、ハードな戦闘で緊張していたのだが、それが解けてしまったのである。


 まあ皆戦闘になったら、緊張感を取り戻すでしょ、多分。私達がしーんと歩くなんて似合わないしね。


 そんな風に呑気に歩いていた時、どこからともなく歌声が聞こえてきた。一瞬聞き間違えかと思ったが、間違いなく誰かの歌声だ。



「この歌声誰のだろ? 人っぽいよね? 女の人の」


 私の言葉に、ルージュちゃんが反応する。


「やっぱり誰か歌ってるよね? 誰だか知らないけど、綺麗な歌声」


 ルージュちゃんはうっとりとした表情を浮かべた。


 ここからだと微かにした聞こえないけれど、とても美しい声だった。それに聞いていると何だか心地が良い。もっと近くで聞きたいくらいである。


 ていうかこれプレイヤー? 地下迷宮にいるNPCといえば、十六夜とその仲間くらいだと思うんだけど。


 十六夜の仲間は他にもいるのだろうか。もう2人倒した。


 プレイヤーだとしたら、こんなところで呑気に歌ってて大丈夫なのかが疑問だ。けっこうここ危ないし。



「歌の方向に行ってみるか?」


「そうね。気になるわ。行きましょう」


「そうだね、進行方向だし」


 丁度私達の向かっている方向から聞こえてくるしね。敵のNPCにしろプレイヤーにしろ行くのはありだろう。


 私は沸き立つ好奇心を抑えられなかった。


 私達は歌の聞こえる方へと歩く。


 歌の方へ近付けば近付くほど、歌声は大きくなる。そして、歌声はより美しくなる。


 歌に導かれ、私達が進んでいると、シグレが前方の人と魔物の気配を察知する。


「人と魔物がいるな」


「問題ない。進もう。襲ってきたら僕が何とかするからさ」


 私達は頷き合う。


 私達は魔物のいるところへと、大きく踏み出す。そして、私達はいよいよ魔物と歌声の持ち主と対面した。



 しかし、魔物達のHPはほとんど残っておらず、私達が攻撃をする前に、全滅してしまっていた。


 私は改めて歌っている人を見た。とても美しい桃色の髪の女性。女性の周りでは精霊たちが、女性の歌に合わせて舞っていた。この女性はプレイヤーだ。


 美しい声に、美しい容姿。まさしく歌姫と言えるような女性だ。


 ちなみにこの人、鑑定は出来なかった。まあここに1人で来てる時点で私よりレベル高そうだもんね。


 この人、多分種族は精霊だよね? 辺りの精霊、女性の外見からそう予想する。


 何となく同じ種族っていうシンパシーを感じるのよね。


 職業は分からないけど、魔法職? 歌いながら戦うなんて聞いたことがなかった。


 そこまで考えて、ん? となる。待てよ、この人、つい最近みたような……? あの時はフードで顔がよく見えなかったけど、この人、リズムじゃない?



 服装もさっき見かけた時と、同じだし間違いない。手配書の姿とも一致してるし。


 それにしても、リズムは1人で魔物を……?


 リズムは私達の視線を感じたらしい。驚いた顔を浮かべた後、逃げるように立ち去ろうとした。


「ちょっと待ってよ。君、すごい綺麗な歌声がだったから、なんか引き寄せられちゃって。びっくりさせたならごめんね?」


 ルージュちゃんがリズムに歩み寄りながら話しかける。ルージュちゃんはリズムに興味津々といった様子だった。


 リズムはそこでぴたりと足を止めて、私達のことをじーっと見つめる。


「あ……ず……で……」


 リズムは俯き、なにやら小声で呟いたが、周囲の雑音が多くて、聞き取れなかった。


「歌すっごい上手かったよ。あ、それとあなた多分精霊だよね? 私も精霊なんだけど、精霊って中々会えないなら」


 私も同じ精霊仲間にあえて嬉しいので、話しかけてみる。精霊ってほとんどいないんだよねーー。


 リズムは私が精霊だというと、少しこちらに興味を示したらしい。ぎゅっと手を握りしめ、私の顔をまじまじと眺める。


「あ、えっとその……」


 リズムはおろおろとしながら、口を開いた。


 声を聞く限り思っていたより、気が小さそうというか、大人しそうな子だなあ、というのが今の印象だ。


 破壊者なんていうから、勝手に怖そうな女の人を想像していた。


「私、り、リズムっていいます……」


 やっぱりあのリズムであっていたらしい。リズムはペコりとお辞儀しながらも、恥ずかしそうに顔を赤らめる。


「リズム……ちゃんは、1人でここに来たの?」


 ルージュちゃんは明るい声で、リズムちゃんとの会話を続ける。


「は、はい……。人が苦手で……」


「すごいね、地下迷宮けっこう強い魔物多いのに。大勢の魔物の群れと出会わなかった?」


「出会いました……」


 ルージュちゃんが積極的に話しかけ続けるものも、あんまり話は続かない。多分この子あんまり人と話すの得意じゃないんだろうな。私もコミュ力ないから人のこといえないけど!



 リズムちゃんは歌はあんなに綺麗な声ではっきり歌ってたのに、普通に話す時はあまり自信がなさそうである。


 この子みたいな子、アニメキャラでいたら人気出そう。普段は人見知りな美少女が歌うとめちゃくちゃ上手いみたいな。


 そんな関係ないことを私が考えていると、リズムちゃんはジリジリと後退していた。



「あ、えと、その。さよなら……」


 リズムちゃんは顔を伏せながら、走り去っていってしまった。私達はただただその後ろ姿を眺めていた。


「極度の人見知りっぽいですね……」


「大人数で話しかけたから怖がらせてしまったのではないかしら?」


 後ろで、ルージュちゃんとリズムのやり取りを見ていた2人は思わずといった様子でそんな感想を口にする。


「悪いことしちゃったかな?」


 ルージュちゃんはそう呟いた後、言葉を紡ぐ。


「でも破壊者なんて言われている割には、大人しそうな子だったよね?」


「人は見かけによらないっていうからねーー。あの歌すごかったし。戦闘になると人格変わるタイプいるじゃん」


「戦闘になると、人格が変わる人なんているのかい?」


 ゼノンの問いかけに、私とルージュちゃんは一斉にゼノンの方を見た。


 私達の視線に気付いたゼノンが「え?」と困惑した顔をする。


「ゼノンが壁を破壊した時と今は別人格だよ?」


「あの時は深夜テンションだったというかなんというか……。厨二病が発動したというか……。もう忘れてくれ、あれは。黒歴史なんだ」


 ゼノンは苦虫を噛み潰したような顔をしながら、頭を抱える。


 あれってやっぱり黒歴史なんだね……。私は何とも言えない気持ちになっていた。


 私達の沈黙に耐えきれなくなったのか、ゼノンが取り繕う。


「とにかく、先へ進もう。十六夜を探すんだよね」


「そうだな」


 シグレもゼノンを気の毒に思ったのか、フォローを入れる。


 私達は地下迷宮への前進を続ける。


「どんくらい進んだんだろね。ここがどこなのかが分からない」


「それな、ルージュちゃん」


 辺りの景色は全く変わり映えしない。土の壁と床が永遠と続いていた。せっかく、泳げるスキルを手にしたんだし、それを活用したいのに。



「何か面白いこと起こらないかしら?」


「あんまり危険すぎるのは勘弁だけどね。私達よくトラブルに巻き込まれるし」


 ウキウキするマロンちゃんに、呆れた顔でルージュちゃんが釘を刺す。


 しかし、噂をすれば何とやら……というやつである。


 私達が進んでいると、右に謎の「?」と書かれた扉が現れた。

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