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第107話 呻き声

「中々に手強かったね、あともう少しでユニークスキルを使おうかというところだったよ」


 そう言いながら笑うゼノンはまだ余裕がありそうだ。ゼノンとシグレのユニークスキル、興味ある。1回見てみたいな。


「あの魔物、やっぱり十六夜のせいで、強くなってるっぽかったよね」


「てか、ここの魔物、十六夜のせいで普段より強くなってるのに、経験値は普段通りなんて、損だよね」


 ルージュちゃんが愚痴を零す。


「十六夜はいっぱい経験値持ってるかもよ?」


「え、十六夜倒そ」


 私の言葉にあっさり手のひらを返したルージュちゃんに、皆は苦笑いだ。



 私達は気を取りなおして、また進む。廊下は真っ直ぐ続いているので、私達は真っ直ぐ歩く。


 真っ直ぐ真っ直ぐ……。なんかこんなフレーズの絵本を昔読んだ気がする。


 私達は数時間歩き続ける。そして、何体もの魔物を倒していた。私のレベルはついに150になった。やったね!


 ちなみに倒した魔物たちは皆夜狂状態になっていた。


「後ろから来るぞ。多分人だ」


「え?」


 そう言われて後ろを振り返ると、こちらに走ってくるフード服の人物が見えた。敵なのか味方なのか分からないので、警戒しつつ、その人物を見つめる。



 その私達の後ろを走っていた人物も私達に気付いたのか、立ち止まる。そして、私達の方をじっと見つめる。フードの中から覗かせる顔は女性っぽい。


 私が鑑定してみると、そのプレイヤーがけっこう有名なプレイヤーだと分かった。


 彼女はバルムングの破壊者リズム。確か、始まりの街の西の街であるバルムングを壊滅状態に追い込んだことからそんな通り名が付いたんだっけ。


 ペガサス王国を中心に活動してるって噂の有名なNPCキラーのプレイヤーである。


 色んな街を破壊しているとかなんとか。いつもフードを被っている孤高のプレイヤーらしい。


 なんか私、けっこう有名なプレイヤーとの遭遇率高いよね。何でだろう。


 フードの女性は棒立ちしたまま、私達を見つめる。私達を長い沈黙が襲った。え、何この間。めちゃめちゃ気まずいんですけど。


 こんな時に限って、私達の中で1番コミュ力のあるルージュちゃんは黙っていた。私が声をかけるべきか迷っていた時だった。


 フードの女性は沈黙に耐えられなくなったのか、急いでいるのか、私達の横を通り抜けて走り抜けようとした。


 意外なことに、ゼノンがそれを引き止めた。


「ちょっと待ってよ、君。ねぇ、十六夜っていう人を見なかった?」


 ゼノンの問いかけに、フードの女性はゼノンの方を一瞥した後、何も言わずに去っていってしまった。


 私達は呆然と女性の後ろ姿を見つめていた。



「あの子、鑑定で見たけど、バルムングの破壊者リズムだよ」


「僕も聞いたことあるよ。一時期話題になったよね。バルムングとどこかの大きな街を破壊したんだっけ」


「一時期冒険者ギルドの手配書でアラトさんの隣に並んでましたよね」


「あれ、今は並んでないの?」


 私も前に、アラトとリズムの手配書が並んでいるのを見た。けど、今はなくなったのだろうか。私の疑問にルージュちゃんが答えてくれた。


「リズムって子の金額が膨れ上がりすぎて、リズムの手配書が1番大々的に貼りだされてるよ」


「へぇ、そうなんだ」


 アラトは最近フェリシモ王国に拠点を移したのと、真っ当なレベリングをしているのとで、懸賞金があまりあがっていないのだろう。


 それとは反対に、リズムは街での破壊活動を続けたから、懸賞金が圧倒的になったのかな。


 懸賞金システムはよく分からないけど。私お尋ねものになったことないし。いや、まあフェリシモ王国の城とかで、お尋ねものになりそうなことはしたけど、正体隠しのフードを被ってたし。


「そう言えば、ゼノンはお尋ねものじゃないの? 前城に正体隠すもの身につけないで、侵入してたじゃん」


「ああ、誰にも見られてないから大丈夫だよ。僕は最悪お尋ねものになってもいいや、くらいの気持ちで活動してるし」



 お尋ねものになるのを気にしないタイプか。そう言えばこの人カルマ値0で固定するためなら、なんでもする感じの人だもんね。



「そういうアナちゃん達はお尋ねものとか気にしてるよね。城では、あの悪魔のアラトだっけ? そいつらとかなり大胆なことをしてたけど」


 ゼノンの言葉に私は苦笑いするしかなかった。


「ゲームとはいえ、お尋ねものに貼り出されるのは嫌だよ。お尋ねものになると色々不便そうってのもあるかな」



 なんか、街中に自分の手配書が貼られてるの嫌じゃない? 例えゲームでも。NPCとかに追われるのも怖いし。


 もはや私達の話題はリズムのことから、お尋ねものの手配書の話に変わっていた。



「あ、ここから先は道が分かれてるっぽいね」


 私達の手配書談義がピークを迎えた頃、私達の目の前には無数の別れ道が現れた。


 道は5つある。選べるのは1つ。どの道もこっからだと、大差がないように見える。


 適当でいいんじゃない? これは。運だよね。


「どれにする? 俺はどれでもいいぞ」


「ぶっちゃけ運だよね。選びたい人ーー?」


 私の呼び掛けには誰も反応しない。誰も選びたくないのか。


「なら、1番右はどうかしら?」


 マロンちゃんの言葉に全員がのった。


「右だな」


「いいんじゃないでしょうか」


「本当に右でいいの?」


 言い出しっぺのマロンちゃんが不安そうに確認する。ぶっちゃけどの道でもいいというのが本音である。


 私達は右へ進んだ。最悪この道嫌だなあと思うことかあれば、引き返したらいいでしょ。


 地下迷宮は迷宮と言われるとおり、色んな道が入り組んでいる。この先何回も道を選ぶことになるだろうし、どの道がいいのか悪いかなんて気にしてならキリがないだろう。



 右の通路は狭かった。私達が今まで進んできた廊下は広かったけど……。


 そんなことを考えながら歩いた時、体に異変を感じた。なんだか体が重たいような、気だるいような……。強い倦怠感が私を襲った。


「まずい、毒ガスだ」


「え?」


 シグレに言われて、近くの空気を鑑定すると、毒ガスが充満していることが分かる。


「ルージュちゃん、フダラの毒ガスの解毒剤!」


「え? あ、うん! 分かった」


 ルージュちゃんは慌てた様子でトレーダーショップを弄り始める。


「この毒ガスはどこからなのでしょう。魔物の仕業かそれとも……」


「この辺りに魔物の気配はしないが……」


 私の感だけれど、これは多分魔物じゃなくて、地下迷宮の仕様なんじゃないかな。


 シグレが察知出来ない範囲より遠くの魔物がここまで毒ガスを送っているってのは考えにくいし。



「あった! フダラの毒の解毒剤」


「ないす、ルージュちゃん!」


 私達は急いで、ルージュちゃんが配るフダラの毒の解毒剤を飲む。解毒剤は即効性なので、体の倦怠感はすぐに収まった。


「トレーダーはこんな便利なことが出来るんだね」


 ゼノンは関心したように呟く。冒険してるトレーダーはあまりいないので、トレーダーの便利さは知られていない。


 そもそもこんなバリバリの魔物地帯にくるトレーダーというか、生産職はほとんどいないからね。


 私達はトレーダーと一緒に冒険する便利さを覚えてしまったので、もうルージュちゃんなしでは冒険出来ないかもしれない。


 ルージュちゃんがいたら、いつでも物を自由に買えるから、事前準備がいらないのよ。


 しばらくは解毒剤の効果が体を回っているので大丈夫だろうが、この毒ガスはどこまで続くのだろう。


 私達はあまり息をしないように、毒ガスの中を歩いていた。息を抑えても意味はなさそうだけど、毒ガスがあるって分かってるところで普通の呼吸なんて出来ないじゃない?


 その時だった、前方から呻き声が聞こえてきた。


「グルゥ……」


 気味悪い呻き声。おそらく魔物の呻き声だろう。なんだかすごく悲痛な呻き声だ。


「キャハハハハハハハハハハ」


 それと同時に人の者と思われる笑い声が聞こえてくる。


 魔物の苦しそうな声と、人の狂気的な笑い声。人が魔物に何かしている? まさか、十六夜?


 私はこの気を逃してはいけないと、小走りで魔物と人の声が聞こえる場所へ向かう。


「アナちゃん? 急にペースアップ? 気になるのは分かるけど」


「行きますよ!」


「え、茶々さんまで」


 私は小走りで移動する。いくつかの別れ道があったが、声の聞こえる方に向かう。


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