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第105話 フェリシモの森

 私達は魔物とほとんど出くわさなかったので、夜になる前にフェリシモの森に辿り着いた。


 特にあの4人組がいっていた十六夜とも出くわさなかった。十六夜はフェリシモの森とかにいるのか、それとも違うところにいったのか……。


 まあ会ったなら戦えばいいし、出会わなければ普通にレベリングするだけである。


 フェリシモの森には暖かな日差しが差し込んでおり、木々は青々しく茂っていた。そして、ところどころ葉っぱに雪がつもっていて、春の訪れを感じさせる。この景色は雪解けを迎えた春の森のようだ。



 フェリシモ王国では雪とか氷とか冬の景色ばかり見てきたから、なんだか新鮮なら気分だ。春の暖かな日差しで、心がポカポカする。


 こんな素敵な森だし、ピクニックに来たような気分になりそうだ。恐ろしい魔物が実際にはいるから、慎重にならなきゃいけないんだけどね。



「とりあえず今日は、休むところを探しつつ、進むということでよろしいですか?」


「僕もそれでいいと思うよ」


 特に茶々さんの声に対する異論もなかったので、私達は歩く。私も疲れてきたけど、頑張るよ。最近は靴のお陰で足の疲労が大分ましだ。前より疲れにくくなった気がする。



 私達は日が暮れるまで、フェリシモの森の探索を続けた。気味の悪いことに魔物とは一体も出くわさなかった。



 私達は日が暮れると、丁度いい岩陰があったので、野営をすることにする。2人ずつ順番で見張りを決めて、休みをとる。私とルージュちゃんは1番最初の見張りだ。


「ねぇ、アナちゃん。私達がアレラム村で戦った繊月のこと覚えてるよね?」


「もちろんだよ」


 繊月との戦いは、夜の使徒の一員との戦いだったし、よく覚えてる。


「繊月もそれなりに強かったけど、私達でもそんなに苦労せずに勝ったじゃん。だから、十六夜も何とかなりそうな気はしてるんだよね」


「それはあるかも。私達もあの時より大分強くなったし、ゼノン達もいるし」



「夜の使徒を倒せば。ゲームのクリアに近付くことは間違いないよね。……少し話が変わるんだけどさ、アナちゃんはこのゲームをクリアして、元の世界に帰りたい?」


 珍しくルージュちゃんが真剣な顔で話をする。


 私はルージュちゃんの問いかけを心の中で反芻してみた。


 元の世界に帰りたいかどうかなんて考えたことはなかった。このゲームの世界は割と楽しい。けど、ずっとここにいるっていうのは良くないことのような気もする。


 答えられない私の瞳を見つめて、ルージュちゃんは緊張した顔を緩ませて、笑う。


「私はずっとこのゲームの世界にいてもいいかな、なんて」



 冗談めかしていったけど、その言葉は本心に聞こえた。ルージュちゃんは元の世界に帰る気はないんだ。


「このゲーム楽しいもんね。まあ元の世界どうこうは置いといて、今はゲームを楽しもうよ。十六夜を倒したり、リーダーを倒したらすぐクリアってわけでもないし」


「そうだね!」


 私は先のことはそこまで考えていなかった。とりあえずこのゲームの世界にいる間は楽しめばいいんじゃない? なんて思っていた。


 まだこのゲームについては、分かっていないことが多い。主催者は何のために始めたのかとか、どうやって私達をここに連れてきたのかとかいう疑問はある。


 これらの疑問はゲームのクリアに積極的なプレイヤーがいずれ解き明かすのではないだろうか。あれ、私楽観的すぎかな?



 その後私達は全然関係ない。他の話で盛り上がっていた。ルージュちゃんとは趣味が同じだから話が合うのよね。


 しばらく話していると、あっという間に見張りの交代時間が来たので、私達は眠りにつく。




 そして、次の日。


 私達は今日から本格的にフェリシモの森の探索をすることになる。昨日はすぐに日が暮れて、ほとんど進めなかった。


 一応地下迷宮への入口がフェリシモの森を真っ直ぐ進んで半日くらいのところにあるとは聞いたけど……。


 簡単に見つけられるかな。桜子ちゃんの情報だと、大きな岩穴の中にマンホールのようなものがあって、そこに手を翳すと、地下への道が現れるらしい。


 大きな岩穴とやらを探しながら、真っ直ぐ進むことになるだろう。幸いにも一本道で、道が分かりにくいということはなかった。


「今日も魔物と全然出会わないねー」


 ルージュちゃんが愚痴っぽくそう言う。


 やっぱり十六夜の影響なのかな? それならこの近くに十六夜がいる気がする。


 そして、私の感だけれど、十六夜とはこの先出会うことになりそうな予感。予感だけどね。


 私達が魔物と全然会わないという話をしていると、シグレと茶々さんが魔物の気配を察知したらしく、私達に伝える。


「魔物が来るぞ」


「噂をすれば何とやらってやつだね。私、見事にフラグ回収したよ」


 私達はそんな軽口を叩きながらも、戦闘準備を整える。私達の目の前に現れたのは、狼だ。しかし、何だか様子がおかしい。


 苦しそうに呻いているし、瞳が恐ろしいほど赤く光っている。こんなに凶暴そうな魔物は初めてだ。


 どの魔物も凶暴っちゃ凶暴なんだけど、この魔物は凶暴を通り越して、暴れ狂ってるというかなんというか……。



「様子が可笑しくない? あの魔物。もしかして、あれも十六夜となんか関係ある?」


「アナの言う通りだわ。少し、いやかなり変よ」


 とりあえず、鑑定してみる。すると、魔物はある状態異常に掛かっていることが分かった。


シルバーウルフLv150

スキル 咆哮 威圧 鉤爪 シルバータックル

状態異常 狂化



 狂化。この状態異常になると、元々あまりない理性がさらに消え、より凶暴に、より強くなる。


 この魔物が凶暴なのは、多分狂化が影響だろう。狂化の状態異常になってるだけなら、十六夜とは無関係ぽいかもね。


 それにしても、狂化してる魔物なんて始めてみた。他のプレイヤーの仕業なのか、この森にはそういう魔物がいるのか。




「咆哮、威圧、鉤爪、シルバータックルってスキルを持ってるよ。後敵がやばそうなのは、状態異常が狂化になってるせいかな」


「ああ、狂化か。前に1度だけ見たことあるけど、これと似たような状態異常だったな」


 ゼノンはシルバーウルフに向かって、走り出しながらそう呟く。


「【破滅の旋律】『呪い精霊王召喚』」


 私もスキルを発動し、前でシルバーウルフと戦うゼノンとシグレと茶々さんの援護をする。


 前衛3人組は、相変わらず凄まじい攻撃を連発する。3人の技には圧倒されるものがある。


「【30連射】」


「[爆裂ウィング]」


 そして、マロンちゃんとルージュちゃんの攻撃が炸裂する。


「【呪い】【黒魔法】」



 私達の攻撃を受けて、シルバーウルフは苦しそうにもがく。シルバーウルフはただひたすらに暴れる。スキルを乱発し、近付くものを殴ろうとするその動きはむちゃくちゃで、次の動きを予測しにくい。



 以外とこういう動きを予測できない敵って厄介なのよね。


「【カルタフィルスの呪い】」


 敵のHPが25%をきった頃、この呪いスキルを発動し、シルバーウルフのHPを全て削りきった。


 シルバーウルフは消滅する時、赤く充血していた瞳は黒くなり、穏やかになったように見えた。狂化が解けたのかな。



「中々に手強かったね。もしこの森の魔物が全部狂化してるなら、骨が折れそうだ」



「だな。だが強ければ強いほど、いい」


 シグレはそう言って不敵な笑みを浮かべる。この人も戦闘狂な感じ?



 私達は休む間もなく、その後も森の探索を続ける。途中出会った魔物は全て狂化状態だった。


 そして、夕方頃、ついに地下迷宮の入り口と思われる岩穴を見つけた。中に入ると、マンホールがあったから、間違いなくここだ。


「ここに手を翳せばいいんだよね?」


 ルージュちゃんは少し緊張しているようだ。


「うん!」


「じゃあ翳すよ?」


 ルージュちゃんがゆっくりと、マンホールに手を翳すと、マンホールは大きな光を放った。


第2章はここまでです。第3章の地下迷宮編は、番外編とかを何話か投稿してからになります。これからもお付き合いいただけると嬉しいです。

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