第100話 人魚姫(5)
私達が後ろで隠れていると、アリアちゃんはいつの間にか王子様のお城に行くことになっていた。
ここは物語通りだけど、王子様も王子様じゃない? 結婚が決まってるのに、女の子をお城に招待ってどうなの?
私は御伽噺にそんな邪念を抱きながらも、様子を伺う。そんな時、アリアちゃんがこちらを振り返った。
「アナちゃん達も一緒に行きましょ! あの人達は私を助けてくれた命の恩人なの」
命の恩人っていうのは大袈裟すぎると思うけど。まあ今後泡になる運命のアリアちゃんを助けたという意味では命の恩人なのかな?
「そうなのかい? なら一緒に」
あっさり王子様からおっけーが出た。そんなにあっさりなんだ、そう思いつつも、ストーリークエストを進めるために同行する。
私達は衛兵に囲まれ、移動する。護衛のためだとは分かってるんだけど、気分は連行される人だ。
「あの、王子様。私のことを覚えていらっしゃいませんか? あの日私は海に溺れた貴方を……」
そういいかけたアリアちゃんに王子様は首を傾げる。
「君みたいな美人にあったら忘れないと思うけど」
王子様は設定通り、アリアちゃんのことを忘れているみたいだ。
王子様の返答を聞いて、アリアちゃんは悲しげな顔を浮かべる。
「そう、そうよね」
「とにかく、僕の宮殿へおいでよ。君達みたいな可愛い子は大歓迎だよ」
この王子、爽やかな顔で言ってることは中々にゲスじゃない? 隣国の姫と結婚するんじゃなかったのかよ。
しかも複数人の女性に可愛い子たちは大歓迎とか言ってるし。
ルージュちゃんも訝しげな顔で王子様の方を見ていた。
私達は王子様とアリアちゃんの会話を聞きながら、宮殿へと向かう。その途中に私はそれとなく、隣国の姫のことを聞いてみる。
「そういえば、王子様は海で溺れかけたこととかないの?」
私の質問にアリアちゃんが息を飲む音がした。
「あるよ。海で溺れかけた時に隣国の姫に助けて貰ってね。その子と今度結婚するんだ」
王子様のその返事を聞いて、アリアちゃんは体を震わせる。王子様のためにここまできたのにね……。
なんか私の質問のせいで、アリアちゃんを傷付けてしまったかもしれないと、少しの罪悪感が芽生えた。
とはいえ、この王子、諦めた方がいいんじゃないかな? アリアちゃん。恋愛経験0の私に言われたくないかもしれないけど、ロクなやつじゃないよ、この王子は絶対。
「だったら私達、宮殿にお邪魔しちゃって大丈夫なの?」
ルージュちゃんがまともなことを言う。全くもってその通りである。
「構わないよ、僕は可愛い女の子はいつでも僕の宮殿に歓迎するよ」
王子様のセリフに、今度は私とルージュちゃんだけでなく、茶々さんやマロンちゃんも怪訝な顔をする。皆何となく察したようである。
この王子、何股する気なんだろうか。人魚姫の王子ってこんな男だっけ。
アリアちゃんも複雑そうな目で王子様のことを見つめていた。あの目は多分、王子様への熱が冷めかけてるな。
それで私達は宮殿へと向かっているわけだが、ここでまた、3つの選択肢が現れた。
1つ目は隣国の姫のいる宮殿が魔物に襲われる。
2つ目は私達のところに強い魔物が襲ってくる。
3つ目は人魚姫が王子に嫌われる。
1つ目の選択肢がを選ぶと、隣国の姫が魔物に襲われて死ぬらしい。2つ目を選ぶと、強い魔物が私達を襲う。3つ目を選ぶとそのままで、アリアちゃんが王子に嫌われるわけだが……。
この選択肢ってなに? どれも物騒すぎない? 私達は顔を見合わせて相談する。この選択肢によって、ストーリーがどう動くか変わるんだよね、多分。
「どれにします?」
「2つ目はどうかしら? 強い魔物を倒したいわ」
「確かに、経験値がいっぱい貰えるかも」
私達は全会一致で、2つ目を選び、魔物に襲ってもらうことにした。
襲ってもらうっていう言い方は変だけど、私達からすれば経験値が歩いて来てくれるという感覚である。
私達が選択肢を選んでから歩いているが、魔物は一向に襲ってこない。何してんの、魔物。ここに来る途中に倒された? そんなことはあるはずないんだけど……。
私のそんな疑問はやがて杞憂に終わった。私達が宮殿にたどり着くころ、大きな魔物の大群が現れたのだ。
絶対あれだな。
私は鑑定を使う。
御伽の破壊者Lv150
スキル 魔導破壊 ブレイクダウン 破壊の衝動
称号 御伽の破壊者
1番デカくて禍々しいこの魔物が多分ボス魔物だろう。こいつがボス魔物じゃないはずがない。この御伽の破壊者は黒い禍々しい紋章が体にある巨大な魔物だった。
大きな魔物の大群に、人々は逃げ惑う。王子や衛兵達も怯えていた。
「あのような魔物は見たことがない。一体どうして……。早く逃げよう」
「しかし、王子様……。逃げようにも追いつかれるかと……」
「何を言っている! お前らが囮になってでも何とかしろ」
王子と衛兵がなにやら揉めている。揉めているというか、王子が一方的に責めているだけだけど……。
その光景を見たアリアちゃんはドン引きした。この王子の様子を見たら百年の恋も冷めるよね……。
王子は1人衛兵を押し倒して、走っていった。何人かの衛兵が王子を追う。人魚姫の王子ってこんなに残念な王子だっけ……?
何はともあれ、私達はあの魔物と戦わないと。私は3人に魔物のスキルを伝え、アリアちゃんには後ろに下がるように言う。
何人かの衛兵達も一緒に戦ってくれるらしい。正直衛兵はあまり役に立ちそうにないけど、気持ちだけ受け取っておくよ。
私達は魔物が私達の射程圏内に入るのを待っていた。
「【反転(呪)】【破滅の旋律】[カース召喚]」
私は初めから出し惜しみせず、呪いスキルを使う。カースちゃんは御伽の破壊者に近付き触れるも、圧倒的な力で振り払われる。
「[爆裂ウィンク]」
ルージュちゃんの爆弾もあまり効いていない。御伽の破壊者の体の周囲の闇のようなもやもやに吸い取られている。
あのもやもやが邪魔だね。
そう思っていると、茶々さんが刀で御伽の破壊者の周囲に浮かぶ闇を切り裂いてくれた。
「[花紅柳緑]」
その隙に、ルージュちゃんの爆弾が御伽の破壊者の胴体へと命中し、大ダメージを与える。
私はある程度呪いをかけると、今度はエンチャンターとしての仕事をする。
「【アラウンドヒール】『防御力デバフのプレゼント』」
周りにいた雑魚魔物はというと、衛兵達がなんとかしとくれていた。ないす、衛兵!
そして、私達が攻撃を続けると、敵のHPはマロンちゃんのライフル攻撃で、25%を切った。
「【カルタフィルスの呪い】」
ラストとばかりに私がこのスキルを使うと、敵のHPは一気に0になり、消滅した。このスキルが効いてくれて良かった。効かなかったら、また時間を喰うところだったよ。
御伽の破壊者を倒すと、私のレベルは147に上がった。一気にレベルが上がったね。
しかもなんかレアそうなアイテムいっぱいゲットしたよ?
その中には強いのもあったが、中には一体何に使うの? というようなのも数多くあった。
泡沫の雫とかね。これを体にかけると、一定時間泡になれるんだって。泡になってどうするんだろうね? まあ珍しいアイテムなのに変わりはないから大切にとっとくかな。
「アナちゃん達はすごいわね、あんな大きな魔物にあんなに戦うなんて」
アリアちゃんは戦いを終えた私達にゆっくりと近付いてくる。そして、ある決意をしたようで、真剣な顔で言う。
「私も冒険者になることにしたの」
「へ?」
思わぬセリフに私の口からは変な声が漏れた。他の3人もアリアちゃんのことを「嘘でしょ?」というように2度見する。
「私もいつか絶対にアナちゃん達みたいな冒険者になってみせる!」
アリアちゃんがそう言って微笑む。そして、クエスト終了のアナウンスが流れる。
ーーストーリークエスト「人魚姫」のエンド「人魚の冒険者」をクリアしました。
私達の前に魔法陣が現れたので、アリアちゃんにお別れを告げ、魔法陣の上に乗る。
すると私達は魔法陣に包まれ、元の世界に返される。クリア報酬として、アイテムや称号等を色々ゲットした。