第99話 人魚姫(4)
私達は蔦を乗り越えた後も、たくさんの魔物と出くわす。その全てを倒していたらかなりの時間を要した。レベルが141に上がったからいいけど。
「さっきの気配が強くなってる……怖い」
アリアちゃんは肩を震わせる。
「アリアちゃんのお城を狙った魔物だよね……。そいつがボス魔物かな」
かなり歩いているし、そろそろボス魔物がいても良さそうである。ていうかボス魔物に会いたい。
「それならボス魔物は近そうね。同じ敵ばっかりで飽きてきたし、強い魔物と戦いたいわ」
「そうだね」
マロンちゃんの言葉に私は頷いた。
「全然話変わるけどさ、このクエストの終わりってなに? 私達、人魚姫と王子様に出会わせるんじゃなかったっけ」
ルージュちゃんそれな。私もさっきから思ってた。私達人魚姫の物語に入った気が全然しない。
「細かいことはいいじゃない、ルージュ」
「えーー、そうかな? まあこういう人魚姫もありなのか?うーん」
いや、この人魚姫は絶対になしだと思うよ。御伽噺としては。人魚姫が冒険者と一緒に魔物を倒して、人間になるための宝石を手に入れるなんて。こんな勇ましい御伽噺のお姫様いる?
何が起こるのか分からないって意味では、このクエスト面白いけどね。淡々とストーリーが進むより、選択肢とか選べた方が物語に参加してる気になるじゃん、なんか。
「そろそろ大きな魔物の気配がしますね」
茶々さんが迫りくる魔物の気配を察知したらしい。私達は交戦準備を整えつつ、足を進める。
体を震わせるアリアちゃんを背後に庇いつつ、私達は闇海の洞窟のボス魔物のいる場所へと足を踏み入れる。
一目でそいつがボス魔物だと分かった。その姿はまさしく闇そのもの。闇海の魔物、と言われるのも納得である。この洞窟が闇海の魔物が住むから闇海の洞窟と呼ばれると言われても私は納得する。
私は鑑定で、敵の能力を確認する。
闇海の魔物Lv140
スキル 汚濁 闇纏 黒魔法 闇の空
称号 闇海の洞窟のボス魔物
「闇系のスキルをいっぱい持ってるよ。闇纏と黒魔法でしょ、それから触れたものを闇で包む汚濁スキルがあるよ。後、全てを闇で包む闇の空とかいうスキル」
私が鑑定で見たことを簡潔に伝えるのは定番になっていた。私の情報を聞き、3人は頷く。
「分かりました」
「敵に触れたら闇に飲まれるかも。注意して」
自分で言って、どう注意するんだろうとは思ったが、とりあえず言っておく。
触れたら包まれるって、近距離戦闘職はどうしようもないよね。茶々さんは刀だから、触れないように気を付けてとしかいいようがない。
私達が攻撃を仕掛けようとした時、敵の魔物がスキルを使う。すると辺り一面が闇に覆われ、視界が暗くなる。
「【破滅の旋律】『呪い精霊王召喚』」
私は呪いスキルを発動する。この【破滅の旋律】は広範囲なので、見えなくても問題ない。
「視界が暗くなるというのは中々に厄介ね。狙いにくいわ」
「私の爆弾、あたってるのかな? 効いてる気がしないんだけど」
敵の実体は闇であり、敵の闇の空というスキルにより、闇と敵はほぼ同化している。
なんて厄介な敵なの……。私達が苦戦していると、闇が蠢く。闇の塊のようなのが飛んできて、私達はダメージを受ける。
「【アラウンドヒール】」
私はみんなのHPを回復する。
「【反転(呪)】[カース召喚]」
そして、ユニークスキルを使って一気に攻め込む。闇の塊を飛ばす時、敵が動いたので、何となく敵のいる方向は分かった。
「[爆裂ウィンク]」
「[花紅柳緑]」
「[物点予測]」
敵はまたもや闇の塊を飛ばそうと蠢く。しかし、攻撃に転じれば隙が生まれる。私達はその隙を逃さない。
一気にユニークスキルを使い、高火力攻撃を叩き込む。
私の呪い、ルージュちゃんの爆弾、ルージュちゃんのライフル、茶々さんの刀で、敵のHPは0になり、消失した。私のレベルは142に上がった。
そして、私達の目当ての闇海の宝石を落とした。
辺りの闇は消え、元の闇海の洞窟の美しいサンゴ礁と光る魚で埋め尽くされた景色に戻る。
まるであんな異形の魔物なんて初めから存在したかったかのようだ。
「あの魔物を倒したんだ……。ありがとう、冒険者の3人とも……。闇海の宝石のことも本当に」
瞳を潤ませたアリアちゃんは感謝の言葉を述べる。
「どういたしまして!」
可愛い人魚姫姫に褒められてルージュちゃんは満更でもなさそうな顔である。
「時間もありませんし、元来た道を引き返しましょうか」
「そうね」
ここに来るまでに、時間を掛けすぎたので巻きで行こうと思う。私達は来た道を辿り、闇海の洞窟の入口を目指す。
私達は闇海の洞窟を足早に出て、魔女のおばさんのいる家に向かった。
魔女の家に着くと、私は相変わらず気味の悪い家だと思いながらも中に入る。
「お邪魔します! 闇海の宝石見つけたよ!」
ルージュちゃんが闇海の宝石をおばさんに見せながら言う。魔女のおばさんは心から驚いたような顔を浮かべた。
「まさか本当に取ってきたのかい」
「うん! これがあったら、アリアちゃんを人間に出来るんでしょ?」
食い気味で言うルージュちゃんの剣幕に押されながらも、おばさんは頷く。
「あ、ああ。もちろんだとも。さあその宝石を置いて、あそこの椅子にお座り」
おばさんは怪しげな魔法陣の上にある椅子に座るように即す。あの椅子、安全なの? 変な呪いとか掛けられたりしないのかな。
私なら絶対に座りたくはないが……。
アリアちゃんも少し、いやかなり不安げな顔をしていたものも、ここまで来たら座りませんとは言えないだろう。覚悟を決めたように椅子に腰をかける。
すると、魔女のおばさんは宝石を片手にアリアちゃんの頭の上に手を翳す。するとおばさんの手から光が生まれ、アリアちゃんの体を包み込む。
その光はとても暖かく、綺麗な光だった。アリアちゃんの体はしばらく光に包まれたままだった。おばさんが最後の仕上げとばかりに、手を振りあげると、光が一気に収束する。
光から開放されたアリアちゃんは完全な人間になっていた。
「私、人間になってる……。ありがとうございます。冒険者のあなた達も、魔女様も」
アリアちゃんは心から嬉しそうな、華やかな笑顔を浮かべる。
どういたしまして。なんか良かったね……。
これで物語も中盤くらいまできたのかな? 確かここから、アリアちゃんは王子様に会いに行くんだよね。
「私はこれから王子様に会いに行くわ。あの日助けた王子様は私のことを覚えていないかもしれないけど、私の王子様への気持ちは本当だから」
アリアちゃんは顔を赤めてそう言う。恋する乙女だね。恋したことない私には無縁の話であるが。
でもここから原作だと悲劇が待ってるんだよね……。
確か人魚姫の本来のストーリーだと、人魚姫が海に溺れている王子様を助けるんだけど、王子様は人魚姫じゃなくて、隣国の姫を命の恩人と勘違いして、求婚するのよね。
人魚姫は王子様が忘れられず、声を失ううえに、王子様が他の女と結婚すると、自分が泡になるという条件で人間にしてもらって、王子様に逢いに行くんだけど、王子様は隣国の姫と結婚することになっている。
お姉さんにナイフで王子を殺せば人間に戻れると言われるけど、王子様を殺せず、泡になってしまうという悲しい話だ。
これが声を失わず、王子様が他の人と恋に落ちても泡にならないとなると一体話はどうなるのか……。
私達は先の話が全く読めないまま、人魚姫に同行したのだった。
私達はおばさんの魔力で私達は浜辺に飛ばされた。私達4人はちゃんと意識があったが、アリアちゃんは意識を失っていた。
そこに王子様と衛兵達がやってきたので、私達は慌てて身を隠す。
「隠れる必要ありました?」
「ないかも。けどフェリシモ王国とか、異界で衛兵に追われたせいで、衛兵が来たら隠れなきゃって感じになってるんだよ、私の中では」
「アナちゃん犯罪者みたいなこと言わないで」
私達はそんなこそこそ話をしながらも、アリアちゃん達の様子を伺う。