序章
嵐の夜、海は荒れ大波がうねり風は猛烈な強さで吹いていた。
そんな猛烈な嵐の中を人魚の大群が跳ねていた。
彼らは牙を剥き出し、眼を光らせて何かを捜していた。
この嵐の中を数時間、捜したがなかなか見つからない。
「おい!そっちは見つかったか?」
「駄目です。見つかりません。それどころか宝石の気配もありません‼︎」
「クッ……早く見つけなければ…。」
そこへ大きな波が連続で人魚たちを襲った。
「……ッ⁉︎やむおえん、一旦潜って場所を変えるぞ!」
一人の人魚が手を上げて合図をすると一同は海底に潜り、暗くて深い海へと潜っていった。
周りから人魚たちの気配がなくなると岩陰から一人の少女の人魚が出てきた。
彼女は安心したのかそっと息を吐き、胸を撫で下ろした。
そして再び人魚たちが戻ってきた時に見つからないように岩場の岸の上に登った。そこは外側から見るとただの岩場だが、中に入ると周りが岩の壁で囲まれており真ん中には高い塔のように細長い岩がそびえ立っていた。
少女は何とか登りつき、安心したのか大雨の中、腕を大きく広げて寝転がった。
強い雨に打たれながらかのじょは静かに眼を閉じた。
ここで束の間の休息を取ろうとしているのだろう。
ここなら流石の人魚もここまでは追って来れない。
安心した彼女はゆっくり眠りにつこうとして寝返りをうとうとしたとたん、
「っ…イタッ……。」
耳についた大きくトンがった白巻貝のピアスが頬に刺さってしまった。
ピアスの他にも金とサファイアで贅沢に施された首飾りに純金の金の腕輪と足輪どのを取ってみても手を込んで造られており素晴らしくサイズもピッタリ合わせて造られていた。
だが、今窮地に立たされている彼女には必要のないものだった。
動くといちいち音が鳴る耳障りなピアス、純金で出来ている首飾りと腕輪は重量がありとても動きにくかった。
必死に砦から脱出して身体も精神的にもイライラが募っていた。
すると突然、少女は身につけていた大きな金とサファイヤで贅沢にあしらったピアスに腕輪、ブレスレットを乱暴に外して投げ捨てた。
そして彼女嵐の夜空を見つめた。
それは闇雲に真っ暗でまるで雲が何かの生き物のように渦巻いていて君の悪い夜だった。
彼女は首から下げていた小瓶を取り出した。
中には緑色の液体が入っていた。
彼女が蓋を開けて飲もうとした瞬間、大きな波が岩を砕いて襲ってきた。
彼女はそのまま波に飲み込まれてしまい海中の中に叩きつけられてしまった。
海中に入った途端、何かに尾びれを掴まれてしまい抵抗してもなかなか離そうとしなかった。
そして次々と身体を掴まれた。
焦った彼女が自らの牙で掴んでいたものに噛み付いた。
始めこそ気づかなかったが暗闇の海中の中、無数の目のようなものが光っておりだんだんとその“何か”が浮かび上がってきた。
それは先程まで彼女を捜していた人魚たちだった。
「族長が捜しておられました。至急、お戻りください。」
「嫌よ。」
「お戻りください。」
「嫌。」
〈がぶっ!!!〉
「っ!?!?!!!」
彼女は一人の人魚にいきよいよく噛み付いて逃げ出した。
「っ!!!!追えっ!!どんなことをしてでも捕まえるんだ!!!!」
人魚は泳ぐスピードが速くなかなか捕まえようものなら至難の技だ。
彼女は荒れ狂う海の中を無我夢中で必死に逃げた。
追われて高鳴る焦りと鼓動
族長からの解放
もうすぐ近く“自由”という夢の実現
いろいろな感情が入り乱れ彼女は必死に泳いだ。
すぐ後ろには追手が牙を剥き出してすぐそこまで追ってきていた。
彼女は先程いた波で崩れた塔のような形をした岩場に戻った。
岩場は先程とは違い元の形は無くなっており唯一、残ったのが岩の塔だけだった。このまま、陸まで泳ごうとも思ったが体力が限界に近づいてきた。
逃げ出せるならどんな手段でもやる。
彼女は塔へと飛び乗り腕を使って登っていった。
「お辞めください!危険です‼︎」
彼女が塔の頂上まで登り切ると首から下げていた小瓶を上に高々と上げた。
その手は血だらけだった。
「あ、あの液体は……。まさか…!」
「私はもう、族長の人形なんかやめたわ!これからは“人間”として自由に生きるの!!」
そして彼女は小瓶の蓋を開けた。
「おい!速く行って止めるんだ!!!」
追手の人魚たちが次々と岩に飛びつき彼女の元まで行こうとした。
急がなければ…
追手はもうすぐ目の前まできている。
彼女は意を決して液体を飲み干した。
「しまった…⁉︎」
すると彼女の身体から光が溢れて徐々に身体が人間の姿に変わっていった。
尾ひれは二本の足に変わり、手の水掻きが消え、身体中に所々あった鱗はきれいに剥がれていった。
(やった…これでやっと自由になった。)
光が消えて彼女は完全な人間の女の子になった。
そしてゆっくりと塔から落ち波に飲み込まれて暗い海に沈んでいった。




