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第6話 第一章・5 鑑定士、伝説の賢者を駆る

邪神の眷属を前にリュークが見せる力とは――?

第一章、ボス戦スタート!


次回の更新は4月25日の18:00を予定しています。

 俺が唱えた「(オープン)」は、対象物のアニムの顕在化度合いを、自在に上昇させる術。だがもちろん、こいつを九十九パーセントのフォリスに向けても意味がない。

 それよりも、奴と戦うに相応しい「武器」が、ここにはあった。

「きゃっ!」

 オルタが短い悲鳴を上げる。なぜなら、自分の身に着けていたアクセサリーが、思いもよらぬ変異を遂げたからだ。

 胸元を飾る白銀の星が、弾け、巨大な光の帯となって伸びる――。そう、俺が魔力の宿った右目で捉え、アニムを開放したのは、さっき手に入れたばかりの、()()()()()()()()()だったのだ。

 そして光は、オルタの胸元を起点に、真正面へ。そこには、迫るフォリスの顔があった。

「グワァァァァッ!」

 フォリスの咆哮が、苦悶に満ちて溢れ出た。

 伸びた光は、さながら巨大な(もり)のように、フォリスの眉間を易々と貫いていた。

「こ、これは、いったい……?」

 オルタは声を震わせながらも、自分の身に起きた状況を、懸命に理解しようとしている。

 その視線が光に向かう。貫かれたおぞましい怪物は、傷口からどす黒い瘴気を噴き出し、絶叫する。

 その悲鳴が断末魔となった。遺跡に蘇った邪神の眷属は、呆気なく霧散し、塵となって滅び去った。

 だが――まだ()()()()()()()

「さあ、始まるぞ」

 俺のその言葉に合わせ――黒ずんだ壁が、ガラガラと崩れた。

 おそらく、今の衝撃のせいだろう。これまで行き止まりだった先に、突如として「続き」が現れる。

 そこには――広大な森があった。

 青々とした草。立ち並ぶ樹々。どんよりと渦巻く曇り空。

「ど、どうして遺跡の中に、こんな森が?」

「ロストサークル。遺跡内のあちこちに存在する異空間。あんたは初めて見るだろうが、そう珍しいものじゃないさ。それより――」

 新たに展開した視界の中、俺はすでに、無数の殺気を視認している。

 ……フォリスの群れ。この森に、ざっと数十体。そいつらが揃って、俺達を獲物と認識した。

 俺は、即座に動いた。胸から英雄の紋章を外しロミィにパスすると、その空いた手を、オルタへ――彼女の胸から伸びる光の帯へと伸ばす。

「オルタ、こいつを借りるぞ!」

 つかむ。同時に鎖が外れ、光がオルタの身を離れる。閃光が弾け、その正体が露わになる。

 それは――白銀に輝く、巨大な「鍵」だった。

「リューク、それってまさか!」

 ロミィが察し、叫んだ。その声に俺が頷くと同時に、ゴォッ! と樹々が唸る。

 枝葉を貫いて、瘴気が吹き荒れる。無数のフォリスが飛び立ち、殺到してくる。だがそれよりも早く、俺は鍵を手に、森の中へと躍り出た。

「――数ばかりだな」

 小さく呟き、鍵で地を突く。弾みで大きく跳躍した俺は、そのまま鍵を振り上げ、前転の要領で体を縦に回転させる。鍵が宙を裂き、溢れ出た光が周囲のフォリスを蹴散らす。さらに不運な数体が、回る鍵にかすり、肉を裂かれて地に落ちる。

 苦悶の咆哮が森を震わせる。ああ、さぞ苦しいだろう。なぜならこの鍵は、かつて賢者がお前達の(あるじ)を封印するために用いた、伝説の代物。

「――()()()()

 着地した俺はニヤリと笑い、息一つ乱さず、その名を口にした。

「改めて、鑑定結果を教えよう。このペンダントのアニムは、《終焉大戦》。この鍵は、百五十年前の伝説そのものの具現化だ」

 その言葉を終えるよりも早く、フォリスどもが群がる。俺は即座に鍵を両手で握り、やつらを突く。

 正面。背面。棒状の形は前後のどちらにも応用が利く。さらに片手で握って周囲を()ぐと、俺を囲んでいたフォリスが横一文字に斬られ、次々と消滅していく。

 完全なるワンサイドゲーム――。いや、もはや戦いとは言えない。俺にとってこの立ち回りは、ただ、新たに手にしたレリックの力を試しているに過ぎない。

「なかなかいい拾い物をしたな。始めからこの顕在化度なら申し分なかったが――」

 残念ながら、「開」の効果を長時間維持することはできない。いや、俺の能力的には可能だが――もしそんなことをしたら、モーナがうるさいだろうからな。

 俺は軽く笑い、最後の一体にとどめを刺したところで、もう一つの鑑定魔術を唱えた。

「――クローズ

 こいつは、一度オープンにしたアニムを、元のパーセンテージまで戻す能力だ。俺の声に合わせて、賢者の鍵は瞬く間に収縮し、元の星型のペンダントへと戻った。

 ……瘴気はいつしか消えていた。森は静寂を取り戻し、ただ黒ずんだ樹々だけが、俺を囲む。

「片づいたぞ。こいつはあんたに返しておく」

 俺は振り返り、ペンダントをオルタに渡した。

 そんな俺を、オルタは唖然としながら見つめている。だが次第にその表情に赤みが差し、たちまち興奮と憧れの感情に満ちる。

 ……いや、「(サーチ)」の効果で見えたわけじゃない。純粋に、顔に出ているからな。

「すごいです、リューク!」

 まるで飛びつかんばかりの勢いで、オルタは叫んだ。

「あんなにたくさんのフォリスを、たった一人で倒してしまうなんて――。それなのにレベル1の非戦闘職だなんて、絶対おかしいです! リューク、あなたはいったい何者なんですか?」

 それは――ちょくちょく訊かれる質問だ。今みたいに、人前でやむなく腕を振るっちまった時にな。

 だから俺は苦笑し、いつものように答えた。

「――ただの鑑定士だよ。Fランクの、な」


 フォリスが一掃された森の奥には、新たな階層へと続く亜空間ゲートが、静かに開いていた。

 このリムルフ・ルートは、第二十階層までとされている。だが今、ここに新たな道が開けた。問題は、こいつがどこまで深く続いているか、だ。

 だが――期待はできる。賢者の鍵。終焉大戦。フォリス。邪神。いくつものキーワードが、この先の深さが相当なものであることを示唆している。

 だから俺は迷わず、ゲートに足を踏み入れかけた。

「リューク、ストップ」

 それを引き止めたのはロミィだ。……ああ、そうだ。そうだったな。

「……戻るか」

 俺が振り返って言うと、ロミィがこくりと頷いた。このまま進めば、俺はともかく、オルタの受けるリスクが一気に高まってしまう。だがそいつは、お忍びで冒険者を始めたばかりのお姫様にとって、決して望ましいことではないはずだ。

 ――まったく、俺としたことが、気が逸っちまった。

 自嘲気味にひとり笑い、俺は(きびす)を返す。ロミィがオルタを促して、後に続く。こうして俺達の、リムルフでの最初の遺跡探索は、幕を閉じた。

まずは成功を収めた最初の探索。

しかしこの後、リュークにとって想定外のことが――?


お読みいただきありがとうございました。

次回は第一章クライマックス!

更新は4月25日の18:00を予定しています。

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