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第3話 第一章・2 鑑定士、姫騎士様とパーティーを組む

酒場で出会った姫騎士様。リュークは何事かを考え、彼女とパーティーを組むことに――?

そしていざ、ダンジョンの中へ!


次回の更新は4月22日の18:00を予定しています。

 突如酒場の入り口に現れた第一王女・オルタは、スタスタと中に入ってくるや、物珍しそうに店内を(うかが)い始めた。

 そこへドーリスがおずおずと近寄る。明らかに、俺が相手の時とは態度が違う。

「オルタ様、あの……お一人なのですか?」

「はい。父からは護衛を付けると言われたのですが、新米冒険者が仰々しく護衛を連れて酒場を訪れるというのも妙に思いましたので、撒いてきました」

「ま、撒きましたか……」

「はい、撒きました。ところで、ここでは何か注文した方がいいのですか? ……あ、私もこれを一つ!」

 俺とロミィのテーブルに運ばれてきたオムライスを見るや、オルタが興奮した面持ちで叫んだ。姫様は、この手の料理は初めてのようだな。

「なあ、よかったらここに座らないか?」

 俺が余っていた椅子を差し出すと、オルタは「はい!」と元気よく頷いて、俺達と同じ卓についた。途端にドーリスから「無礼者!」と声が飛んでくる。俺は無視して、トロトロの玉子をスプーンで掻き分ける。

 食事をするふりをしながら、俺は右目で注意深くオルタを捉えた。鑑定魔術は、対象物を「見る」ことによって働く。

 ――「サーチ」。レリックのみならず、その対象は人の感情にも及ぶ。

 もっともこの「視」は、幼い頃から日常的に使っていた影響で、今やすっかり視力と一体化している。つまり、俺は意識せずとも、自然に相手を「鑑定」してしまう。おかげで、人の世に満ちる悪意にもすっかり慣れた。

 さて、この自称姫騎士様は、いったいどんなやつなのか――。

 ――クラスはただの剣士。上級職の騎士じゃない。レベルはもちろん1。ランクはE。新米だから当然だな。……と、ここまでは、オルタの胸に付いている「英雄の紋章」の形と色を見ることで、簡単に識別できる。紋章は身分証でもあるからだ。

 本題は、ここから。このオルタという少女が持つ本質を、俺は読み解く――。

「――不思議な瞳を、持っているのですね」

 ふと俺の視線に気づいてか、オルタが微笑んだ。

「左右で色が違う――。初めて見ました」

「ああ、オッドアイ、というやつだ」

 答えながら、俺はオルタの感情を見る。

 ――悪意の欠片もない。抱いた感情を、ただ素直に表に出している。

「神秘的です」

 彼女が俺の瞳をそう評したところで、テーブルに新たなオムライスが運ばれてきた。オルタは「いただきます」と恭しく一礼して、玉子を口に運び始めた。

「ふぅふぅ、はふ……。はっ、これは! トロトロです!」

 とてつもなく幸せな感情が溢れている。俺の右目には、そう映っている。

「――ロミィ、行けそうだぞ」

 俺は小声で、ロミィに囁いた。

「……リューク、まさかこのお姫様を?」

「――ああ、打ってつけだ」

「……どう考えても足手まといだよ?」

「――しかし装備は充分。颯爽として、いかにも姫騎士って感じがする。少なくとも、見た目の『強さ』に説得力がある。そいつが肝心なんだ」

 俺は、呆れ顔のロミィに小さく頷いて内緒話を終えると、改めてオルタの方を見た。

 もうこの上ないほど幸せそうに、オムライスを頬張っている。

「オルタ、と言ったな。よかったら、俺とパーティーを組まないか?」

「パーティーですか? いいでしょう。喜んで」

「――ちょ、ちょっと待ったぁ!」

 途端に横から怒鳴り声が飛んできた。ドーリスだ。

「お、オルタ様、お待ちください!」

「はふはふ、何事ですか、ドーリス?」

「あ、あのですね。オルタ様が今日からお忍びで冒険者を始められることは、私達にも、あらかじめ国王陛下から通達が来ておりまして」

「やれやれ、父上にも困ったものです。勝手に言いふらして……。これはお忍びなのに」

「そ、それでですね! 姫様を危険な遺跡に一人で行かせるわけにはいかないから、この街で最もランクの高い冒険者であるこの私が! こ、の、わ、た、し、が! 姫様とパーティーを組むようにと、国王陛下から、直々に承っているのですが!」

「……そうだったのですか。それは知りませんでした」

 オルタが眉根を寄せ、ドーリスと俺を交互に見る。

 ここでオルタの感情が揺れる。俺達の誘いに乗ろうとしていた気持ちが動き、ドーリスの方に傾きつつある――。だが、そのまま傾かせるつもりはない。

「オルタ、実は、俺は鑑定士でな」

「鑑定士ですか。確か、レリックの鑑定をするクラス、ですよね?」

「そうだ。いわゆる非戦闘職だが、そこに問題がある。――遺跡に入るには、パーティー内に最低でも一人、戦闘職がいなくちゃならない。マスターがそう決めてるんでな」

「なるほど。つまり、あなただけでは遺跡に入れない、と?」

「そういうことだ。鑑定士が一人。冒険者ですらない連れが一人。この二人だけじゃ、遺跡には挑めない。というわけで俺達は、同行してくれる戦闘職を探しにこの酒場へ来たんだが――。さて、あいにくここにいる連中は、どうもレベル1の鑑定士と一緒じゃ気が乗らないようでな。俺達は誰からも相手にされずに困っていたってわけだ」

 そこまで言って、俺は再度、オルタの感情を読む――。

「分かりました。やはり私はあなたと組みます。困っている人を助けるのは、冒険者の務めですから!」

 いや、読むまでもなかった。彼女はあっさりと、俺の方に寝返った。ついでにパンの兄ちゃんが何か叫んだが、無視だ。

 俺がほくそ笑み、ロミィに視線を送ると、「あーめんどくさー」という表情を返された。まあそう言うな。どうせ同伴者が誰であれ、俺達にはあまり関係のない話じゃないか。

 だったら面白いやつと組んだ方がいい。その点、なかなかの逸材だぞ、このオルタという姫騎士様は。

「自己紹介が遅れたな。俺は鑑定士のリューク。こっちは、連れのロミィだ」

 俺が手を差し出す。オルタはスプーンを置き、笑顔で「よろしくお願いします!」と俺の手を握り返した。

 ああ、面白いやつだ。何しろ――俺が鑑定士だと知ってなお邪険な態度を取らない冒険者なんて、オルタが初めてだからな。


 遺跡の入り口は、リムルフ領内の森の中にあった。

 広大なロストミュージアへと通じる空間の裂け目は、世界中に分布している。ただし、その先ですべてが一つに繋がっているわけではない。

 入り口の数だけ遺跡内のルートが存在し、そのほぼすべてが途中で行き止まりになる。遺跡の最深部――というのが、いったいどれほど深くにあるのかは分からないが、少なくとも、そこに辿り着くルートを発見した冒険者は、まだいない。

 ただ、リムルフの森にある入り口は、すでにその候補からは外されているようだ。すでに多くの冒険者がこの「リムルフ・ルート」に挑み、二十階層という浅い位置で行き止まりにぶち当たっている。

 それでも、遺跡内で次々と生み出される宝箱を目当てに、人は集まる。楽に安定して稼げる場所というのは、誰からも重宝されるものだ。

 そんな、いまいち緊張感のないリムルフ・ルートの入り口に、俺達はやってきた。

 すでに俺は、遺跡探索用の装備に着替えている。……と言っても、ありふれたレザー製の服以外は、右手にグローブをはめ、腰にダガーを差しただけだがな。

 正午を少し過ぎた時分だ。短いルートを探るにはちょうどいいだろう。

「ようこそ、ロストミュージアへ。――戦闘職を確認。行ってらっしゃいませ」

 遺跡の入り口に立ったメイドスタイルの受付嬢が、俺達を中へと通した。

 世界中のどの入り口にも立っている娘だ。皆同じ顔をしている。もちろん人間じゃない。旧冒険者時代の魔法駆動技術を再現して作られた、いわゆるゴーレムの一種だ。

 ちなみに、戦闘職がいない状態で中に入ろうとすると、力ずくで止められる。俺は面倒だから試したことはないが、Sランクの冒険者すら薙ぎ倒すほど強いらしい。もったいないな、受付嬢にしておくのが。

「いざ、参りましょう!」

 オルタが凛とした声で言い放ち、まず颯爽と進み出した。見た目は頼もしい限りだ。さて、新米姫騎士様のお手並み拝見と行くか――。

 ……俺がそう思った時だ。

 不意に、すぐ先の曲がり角から、巨大な影が、ぬっと顔を出した。


 ――俺達の暮らす世界ルネーグは、百五十年前に、一度破滅の危機を迎えた。

 大いなる闇の力を孕んだ、一匹の強大な魔物が、世界を滅ぼそうとした。人々はそれを、邪神と呼んだ。

 邪神は大勢の眷属を従え、冒険者の軍勢とぶつかった。その力は、世界を絶望に陥れるには充分だった。

 だが人々が諦めかけた時、一人の女賢者が起ち上がった。彼女は邪神に劣らぬ強大な魔力をもって、自らの体を無数の鍵に変え、邪神を自分もろとも異次元に封印したという。

 その事件を、《終焉大戦》と呼ぶ。今は古びた伝説の一つだ。


 そして――このロストミュージアでは、終焉大戦以降失われていたものが現れる。例えば、今俺達の前に現れた巨大な影が、それだ。

 漆黒の巨大な、蛇のような鎌首に、無数の赤い目が輝く。口の隙間からは、燃えるような瘴気を溢れさせ、あらゆる光を食らわんばかりに闇を携え、そこに鎮座する。

 いったいこの狭い通路のどこに、そんな巨体が収まっているのか。何にしても――いきなり、ずいぶんとレア物が出てしまったな。

「じゃ、()()――っ!」

 オルタが叫んだ。目の前に現れた巨大な怪物は、どこからどう見ても、邪神だ。

 俺はロミィと視線を交わし頷き合うと、それからツカツカと前に踏み出した。

 敵に威圧され動けずにいる、オルタの前へ。彼女を背に庇い、通路いっぱいに詰まった邪神の鎌首を見上げる。

 さて――いきなりこういう展開になってしまうのは不本意だが、こいつばかりは、俺が動くしかない。

「オルタ、せっかくの機会だ。一つ、俺がレクチャーしよう。この遺跡のルールと――それから、()()()()()をな」

 そして俺は、紫の右目で、邪神の巨躯を睨み据えた。

いきなりラスボス的なアレに遭遇してしまったリューク達。

次回は決戦……と見せかけて、実はまだまだチュートリアル?


お読みいただきありがとうございました。

次回の更新は4月22日の18:00を予定しています。

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