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第25話 第四章・6 鑑定士、《魔導の大要塞》を制する

ついに始まった《魔導の大要塞》ビヨンドとの戦い!

リュークがロミィの魔法壁を利用して繰り出す秘策とは――?


次回の更新は6月2日の18:00を予定しています。

「ロミィ、魔法壁だ。――囲い込め。俺とビヨンドを、な」

「了解! ドラゴンの檻にゴブリンを入れるような感じね?」

「そいつは、なかなかいい喩えだ」

 もちろん、ドラゴンは俺の方……と行きたいところだがな。

 そう苦笑する俺の背を起点に、魔法壁が左右へと素早く展開していく。それは急カーブを描きながら、俺の、そしてビヨンドの両サイドを駆け、さらにやつが籠る砦の真正面へ――。まるでカーテンのように、ビヨンドの視線から岩壁を遮り、そこで両端が結び合う。

 瞬く間に完成した三百六十度の包囲網。もちろんその頭上にも壁は広がり、蓋を載せた水槽のように、俺とビヨンドを完全に一つの空間に閉じ込める。

「何だこれは!」

 ビヨンドが戸惑いの声を上げる。それに対して、俺は事も無げに答えた。

「見てのとおりさ。こいつは《砦》だ。あんたを通さないためのな」

「愚かな! 我こそが砦ぞ!」

 そう叫ぶや、ビヨンドの全身に雷球が灯る。

 ――来るか。だが、させない。

 やつが呪文の詠唱を終える前に、それを阻止してやる。俺はニヤリと笑い、すかさずロミィに新たな指示を出した。

()()()()()

「わぉ、チャレンジャー」

 ロミィが茶化し、俺とビヨンドを取り囲む魔法壁の空間を、ギュッと収縮させた。

 周囲の壁が瞬く間に迫る。俺はその壁に背を押されるようにしながら、ビヨンドとの間合いを一気に詰める。

 もっとも、雷球の灯る砦に触れれば、ダメージは免れない。だから体が相手に密着する寸前で踏み止まる。

 この時点で周囲の魔法壁は、俺達二人から二十センチとない位置にまで近づいている。俺はロミィに合図を送って、壁の狭まりをストップさせると、ビヨンドに訊ねた。

「一つ質問だ。その雷撃を放った場合、何が起きると思う?」

「……何?」

 ビヨンドがくぐもった声で返す。だが、いくら視界が乏しくたって、今の状況を見れば分かるはずだ。

 やつの射程限界は、魔法壁までのわずか二十センチ足らず。そんな至近距離に着弾した雷は、そのまま()()の砦を素通りし、やつの全身を焼く――。

「……我自身が、巻き込まれる――?」

「正解だ」

 俺はニヤリと笑って頷いた。

 ビヨンドが呻く。同時に砦に灯っていた雷球が、すべて消失する。

 雷撃はキャンセルしたか。賢明な判断だ。

 ……さて、これで攻撃魔法は封じた。ただし、ビヨンドはこの状況を変えるために、「ある別の魔法」を行使するはず――。

 この予想は違わなかった。俺の思惑どおり、やつはすぐに新たな呪文の詠唱へと移った。もちろん、魔法壁の中から逃れるために。

「――テレポート!」

 そう、瞬間移動魔法だ。

 ビヨンドが砦ごと、その体を消失させる。そして念じた地点へと、一気に移動……することはない。残念ながらな。

「何っ、無効だと?」

 瞬間移動が不発に終わり、再び狭い魔法壁の中に出現するビヨンド。当然だ。この壁は、あらゆるものを通さない。たとえそれが、()()()()()()()()()()()()()()だ。

 そして、今の不発に終わった瞬間移動こそが、ビヨンドの――いや、「邪神」の命取りとなる。

「一ついいことを教えてやろう」

 変わらずやつの背面に立ち、俺は言った。

「アクセサリーの姿で砦に閉じこもった邪神に干渉するには、どうすればいいか――。答えは二つ。その一つ目が、()()()()成功した」

「……何だと?」

 ビヨンドがハッとする。やつの動揺が、「サーチ」を介して伝わってくる。しかしもう遅い。なぜなら――そう、俺の右手が今どうなっているかを知れば、分かることだ。

 すでに俺は、ビヨンドが瞬間移動魔法の詠唱に入った段階で、右手に用意していた。

 ――()()()()。即ち、《瞳》の本質アニムを持つダガーを。

「……何だ、そのダガーは?」

「こいつの名はアルゴス。この切っ先は、常に俺の右目と繋がっている」

 そして、その切っ先が今どこにあるかは、言うまでもない。

 ああ、()()()だ。


 ……簡単に説明すると、こういうことだ。

 つい今、ビヨンドは砦ごと一度消失した。その瞬間に俺がアルゴスを突き出す。直後、魔法壁に阻まれたビヨンドが、再び同じ位置に現れる――。

 すると、当然()()()()

 再構築された砦に、一瞬前まで存在しなかったアルゴスの刃が埋まり、俺はそのアルゴスを通して、ビヨンドの体を()()()()()()ことが可能となる。

 もちろん理論上は、俺自身が砦に顔をめり込ませることもできたが――いや、そいつはさすがに無茶だろう。あいにく人体ってのは、鋼鉄にめり込んだ状態を長時間維持するには不向きな代物だ。少なくとも、このダガーよりはな。

「これが一つ目の答えだ。砦に閉じこもった邪神に干渉する方法――。()()()()()()()()()()()。簡単だろ?」

「くっ、小癪な! 我が力がいかづちばかりと思うな!」

 そう叫び、ビヨンドがまた新たな呪文を唱える。この呪文は……なるほど、《睡眠スリープ》か。催眠魔法ってことは、こいつはつい最近覚えたてのものだな。以前から習得していたなら、あのオールドワーム戦で役立てたはずだ。

 まあ、どうあれ――その魔法は、俺には効かない。

「――()()()()、だろ?」

 やつの背中の仮初の「目」に向かって、俺はニヤリと笑ってみせた。

 ビヨンドが再び呻いた。やれやれ、焦りすぎて、自分のマナの残量さえ見えていなかったか。

「思い出せよ。さっきの瞑想は俺が中断させた。なのにそれからあんたは、視界確保、雷撃、瞬間移動と、立て続けに魔法を使った。まあ、最後の瞬間移動は実質無効だったが、それでもマナを大きく消費しちまったのは痛手だったな」

「な、なぜ分かった? 我のマナの量が……」

「むしろ、なぜ分からないと思った? あんたは俺達を襲撃した時から、ずっと雷撃と瞑想を繰り返していた。だったら、魔法の種類に応じたマナの消費量から計算して、あんたのマナのキャパもだいたい読めるってわけだ」

 そう、つまりビヨンドは、始めからずっと手札を晒していたに等しい。

 よりにもよって――()()()に対してな。


「さあ、ここからが本番だ。ビヨンド、あんたを蝕んでいる邪神を回収させてもらう」

 俺はそう言うと目を凝らし、アルゴスの切っ先を通して、ビヨンドの全身を観察した。

 俺の視点は今、やつの右肩の上にある。中は暗いが、()()()と連動している以上、そこは問題ない。あとはこの視界にほんの一瞬でも「それ」が映れば、鑑定魔術による干渉が可能となる。

 さて――「邪神」は、どこにある?

 キクノの時は指輪だった。だが「アクセサリー」と総称で呼んだからには、指輪以外にも種類があった可能性が高い。

 ……やはり指には見当たらない。首も違う。胸元にも、何もない。だったら――。

「――見つけた」

 右の腕に嵌る、黄金のブレスレット。そのアニムが間違いなく《邪神》であることを見抜き、俺は今一度アルゴスの柄をしっかりと握り締めた。

「さっきの続きだ。砦に閉じこもった邪神に干渉する方法。その二つ目の答えを教えてやる」

 そして俺が、ブレスレットに対して行使する鑑定魔術は――もちろん()()しかない。

オープン!」

 その言葉に合わせて、ブレスレットに異変が起きた。

 金色の表面が黒ずみ、むくむくと、まるで窯の中のパンケーキのように、威勢よく膨らみ出す。

「ぐぉぉっ!」

 腕を圧迫され、ビヨンドが獣じみた悲鳴を上げる。だが砦を解く様子はない。当然だ。邪神に心を支配されている以上、やつはブレスレットを守ることしか考えられないのだから。

 しかし、これも予想内のことだ。俺は右手に力を込め、アルゴスの刃を勢いよく引いた。

 砦から刃が抜かれる。鋼鉄の表面に亀裂が残る。抜け道を作ってやったことで、その穴目がけて、砦の内側から漆黒の塊がせり上がってくる。

 そう、この塊は邪神と化しつつあるブレスレット、そのものだ。言わば邪神の一部が、砦の外にはみ出そうとしている――。

「これが二つ目の答えだ。()()()()()()()()()()()()()。どっちも簡単だったな」

 俺は笑い、最後の仕上げにかかった。

 今ここに具現化しつつある邪神を倒すとなれば、おそらく俺の愛用の武器、タイラントをもってしても難しいだろう。だが、そいつはあくまで、直接的な火力の問題だ。

 それよりも、もっとストレートに、この邪神を無力化させる方法がある。

 その手段となるものは――すでに俺の手袋パンドラの中に回収済みだ。

「来い、空ろなる遺物!」

 右手を強く握り締め、叫ぶ。その甲に浮かんだ紋章から、瞬く間に「それ」が飛び出す。

 俺は、空いた左手でそいつを素早くキャッチすると、剥き出しの邪神に突き付けた。

 ――宝箱。岩の宝剣が入っていたもの。当然中身は、今は空っぽ。

 ただし、忘れちゃいけない。この箱に仕掛けられた()()()()は、まだ生きている。

「……眠りな。永遠に」

 宣告とともに邪神に向けて、俺は迷わず蓋を開いた。

 刹那――青白い炎が飛び出し、腕となって、邪神に襲いかかった。

 《魂封印ソウル・シーリング》――。冥界の手が、邪神の肉体からその魂を、容赦なく引きずり出す。

 俺が蓋を閉じるのと、ビヨンドが砦を解いて崩れ落ちるのと、同時だった。

 その右腕に絡みついた漆黒の塊は、もはやピクリとも動かない。邪神と言えども所詮は魂ある存在。冥界の力には抗えなかった、ってことだ。

「――クローズ

 俺は鑑定魔術で邪神を再びブレスレットの形に戻すと、ビヨンドの腕から、そいつを慎重に抜き取った。

 回収完了。……やれやれ、これでようやく二個目か。

「ロミィ、片づいたぞ」

「お疲れ。なかなか楽しいショーだったよ」

「そいつはどうも」

 気楽な相棒に、同じ気楽な調子で返し、俺は岩壁の方に向き直る。

 さて、片づいたとは言ったが――()()()はこれから、だな。

 俺は肩を竦め、(そび)え立つ岩壁を、右目で凝視した。


 さあ、今度はオルタを助ける番だ。

エルマンの一方的な支配を回避するため、リュークが冒険者達に示した提案とは?

そしてついに、エルマンの野望が明らかに――。

次回、第四章クライマックス!


お読みいただきありがとうございました。

次回の更新は6月2日の18:00を予定しています。

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