ドーナツ
「そのドーナツを見せてくれないか?」
彼は言った。
そして、ドーナツを手に取ってまじまじと観察した。
どうやらドーナツの穴の奥を眺めているようだ。
「なるほど」
と彼が呟いたのは観察を始めて20秒ほど経った頃だった。
ドーナツを穴に指を入れ、くいっと引いた。
「ありがとう、返すよ」
ドーナツを手渡した彼。
そのドーナツの穴はなくなっていた。
そのことを尋ねると彼はこう言った。
「穴は僕がもらった」
穴がなくなったドーナツを目の当たりにして茫然とする中、彼は見えないものを投げて遊ぶようにして去っていった。