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小雀恋模様  作者: 28号
圓山と弟子の章
24/30

04 圓山、聞き耳を立てる


「カーくん、デートしましょうデート!」

「すみません、今日は獅子猿(ししざる)兄さんを慰める会があるので無理です」

「私よりゴリラを選ぶんですか!!! 浮気ですか!!」


 今日も今日とて、小雀が五月蠅く喚いている。


「浮気したのは獅子猿兄さんの彼女です」

「ゴリラさんはもう、浮気される星の下に生まれたんですよ! だから慰めなくていいですよ!」

「そういって、誰も慰めなくなったせいで俺にお鉢が回ってきてるんですが」

「回ってきてもスルーして下さい!」

「したい所ですが、来週手伝いに行く独演会の打ち合わせもかねているので」

「カーくん最近、手伝いとか飲み会に呼ばれすぎです!!」

「小雀姉さんだって呼ばれてるでしょう」

「でもみんなの前じゃイチャイチャ出来ないし、デートがしたいんですデートが!」


 言いながら、小雀は夜鴉にべったり纏わり付いている。

 そんな状況でも、顔色一つかえずに洗濯物をたたむ夜鴉はすげぇなと思いながら、俺はお茶を啜っていた。

 こういうときは傍観するに限ると思っていたが、駄々をこねていた小雀がそこで不意に俺の方へと顔を向けた。なるべく気配を殺していたつもりだが、どうやら意味はなかったようだ。


「師匠も加勢してください」

「何で俺が」

「カーくん、師匠の言うことは聞くじゃないですか」

「俺の命令で渋々デートしてもらっても、うれしくねぇだろ」

「嬉しいですよ! 手を繋いで、イチャイチャして、あわよくばキスとか出来るんですよ! 渋々上等ですよ!」


 噺家のくせに、俺は言葉を間違えた。

 こいつは、こういう奴だった……。


「ピーナッツパン買ってこいって言う感じで、デートしてこいって命令してくださいよ!」

「弟子に嫌われたくないから嫌だ」

「いま、私のこと弟子じゃないって遠回しに言いましたよね」

「お前も、言葉の裏が読めるようになってきたじゃねぇか」

「カーくんだけじゃなく師匠まで冷たい!」


 言いながら、小雀が干したばかりの夜鴉のシャツに顔を埋め、唸る。

 まるで子供だと呆れていると、そこで夜鴉の携帯電話が鳴った。


「女ですか。ゴリラですか」

「後者です」


 ゴリラだと言わないあたり、小雀と違って礼儀正しい奴だなと感心する。

 そういう男だから、獅子猿を筆頭に先輩からも気に入られ、よく勉強会や飲み会に呼ばれている。

 そしてたぶん、小雀はそれが面白くないのだろう。

 かといって邪魔をすることも出来ず、小雀は苛立ちをこらえるように洗濯物をぎゅっと抱え込む。


「くやしい……」


 そんな言葉をぽつりとこぼし、小雀は洗濯物を抱えたまま、膝を丸めて小さくなった。

 泣いているわけではなさそうだが、悲壮感漂う背中を見ていると居たたまれなくなり、慰めてやるべきかと少し悩む。

 だが俺が腰を上げるよりさきに、通話を終えた夜鴉が小雀を覗き込んだ。


「少し遅い時間になるが、待てるか?」


 そして奴は、小雀の耳元でそんな言葉を囁く。

 小さな声だったし、敬語が取れていると言うことは小雀だけに聞かせるつもりだったのだろう。

 だが俺は、無駄に耳が良いのである。そしてこの手の会話を盗み聞きするのが好きなので、じっと耳をそばだてていたのである。


「少し遅い時間でもよければ、ドライブにいこうか」

「……ッい、いく……ます」


 そして普段アレだけ押せ押せなくせに、小雀は不意打ちにめっぽう弱いのだ。


「海……うみ……いきたい」

「なら、今こっそりポケットに入れた俺のパンツを出せ」

「……あい」


 すっかり夜鴉のペースに乗せられ、乙女モードで惚けている小雀に俺は苦笑する。


「お前も、ずいぶん扱いが上手くなったな」


 小雀から洗濯物を取り返した夜鴉にそう言うと、奴は苦笑を浮かべる。


「むしろ、昔より下手になっているかと」

「どこがだよ、前の方が小雀の勢いにやられっぱなしだったじゃねぇか」

「それは今もですよ」


 でも昔と今ではやはり何かが違うなと首をかしげていると、嬉しそうに寝転がっている小雀に夜鴉が視線を向けた。

 見てるこっちが恥ずかしくなるような、愛おしさに溢れた穏やかな笑みを見て、俺はようやく合点がいく。


「そうか、お前は我慢をやめたのか」

「え?」

「いや、こっちの話だ」


 気にするなと手を振って、俺は茶を啜る。


「でも、お前が小雀を受け入れてくれてよかったよ」


 うっかりそんな言葉をこぼし、俺は二人の弟子に笑顔を向ける。

 そうしていると、雀が庭先に落ちてきたときのことがふと頭をよぎる。


「あれからもう10年か……」


 あの頃はまだ、俺もまだ髪がそれなりにあった。

 そして夜鴉を藤と呼んでいたなと、俺は懐かしい記憶をぼんやりと思い出し始めた――。


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