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小雀恋模様  作者: 28号
圓山と弟子の章
21/30

01 圓山、拾う鳥を間違える


 うるさい雲雀(ひなどり)が庭先に落ちてきてから、気がつけばもう10年である。


 あの日、俺は幼い頃から何千回と聞いてきた牡丹灯籠(ぼたんどうろう)を、初めて怖いと思った。

 そして同時に、目の前に落ちてきたこのひな鳥を、どうしてやるべきかと頭を抱えたものだ。


 あれから10年経ち、ここにきてようやく、俺はその答えを見つけた気がする。


「鴉ばっかりずるいいい、私にも稽古つけてよ稽古おおお」

「……ほんと、こんなの拾わなきゃよかった」


 ひな鳥と言えども鳥は鳥。

 飛び方など教えなくても勝手に飛んでいくのだから、放っておくのがちょうどいい。むしろこいつの飛び方は誰にもできない曲芸飛行だから、教えてやろう育ててやろうという方が傲慢なのだ。


「師匠、そろそろ構ってやらないと、小雀姉さんがまた家出しますよ」

「でも俺、お前に稽古つけてぇ」


 自由気ままなひな鳥と違い、俺に進言した夜鴉(よがらす)は覚えもいいし打てば響くからやりがいもある。


「ありがたいです」

「それはこっちのセリフだ。ありがとう、10年ぶりに弟子を指導してるなって感覚を覚えた、感動した」


 途端に私はどうなんだ! 弟子じゃないのかとうるさい鳴き声が聞こえたが、無視する。


 そのせいでさらに小雀がぐずったが、膨れつらで震えている背中を夜鴉がポンポンと叩けば、最後はそのままバタッと床に伏し、動かなくなった。


 その上あんだけ騒いでいたのに、よく聞きゃ寝息まで聞こえてくる。


「小雀を一発で黙らせるなんて、お前さんすごいな」

「姉さん、昨日寝てないから機嫌が悪かったんですよ」

「寝てないって、まさかお前ら……」

「鯛焼き食べすぎてお腹痛いって、深夜にたたき起こされました」

「……しょうもなさすぎて腹立つな」

「まあ、このまま寝かせておけば、夕方にはけろっと直るでしょう」


 そこでもう一度小雀の頭を優しく撫でてから、夜鴉は凜々しい面立ちに戻り姿勢を正す。


「そのオンとオフの切り替えも、小雀に覚えさせてぇよ俺は」

「たぶん無理です」

「わかってるよ。でもあれだ、年甲斐もなくサンタクロースを信じたい気持ちになることあるだろう。あれと同じだ」

「それ、姉さんが起きてる時に言わないでくださいね」


 めんどくさいことになりますからと、苦笑する夜鴉に俺もふっと笑みをこぼす。

 最近、この男の笑顔は前より柔らかくなった気がする。

 だがそれでもまだ、奴はふと暗い表情を浮かべている時がある。

 それを見る度、俺はこの利口な鳥が、小雀くらい馬鹿で賑やかになればいいと思わずにはいられない。

 むしろそうなれるように、育ててやるのが俺の仕事だと思っている。


 最近気づいたが、俺は多分、拾う鳥を間違えた。

 10年前、俺は庭に落ちてきた自由気ままなひな鳥ではなく、手負いの鴉を構ってやるべきだったのだ。

 ひな鳥なんかよりよっぽど頭はいいが、その賢さ故に人に疎まれる鳥を、俺は育ててやるべきだったのだ。


 だから俺は奴と向き合い、いっちょ稽古をつけてやるかと袖をまくるのだ――。

「別視点って言うから鴉が来ると思っただろ!!ところがどっこい俺だよ!!」

 と言うことで、師匠の章です。(でも内容は夜鴉こと藤先生の章です)

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