成敗でござる!
果てしなく続く荒野にポツンと佇む田舎町。
雲ひとつない月が綺麗な夜に、その男はやってくる。
さぁ、愉快な物語の始まり...始まり...。
普段は仕事帰りの男達で賑わう酒場の店内も、この日は違った。
人相の悪い男達が数十人、店内を独占していたのだ。
「はやく酒を持ってこい!!遅えんだよ!!」
テーブルが壊れそうな勢いで拳を振り下ろし、店主に向かって暴言を吐く男。
別に運ぶのが遅いわけではないのだが、なにかとイチャモンをつけからかうのが、この男達の日課のようだ。
「はい!ただいまお持ちしますので!」
店主はビンに並々注がれた酒を両手に、男達のテーブルへと急いで持っていく。
「親父さんさぁ、なんであんたが運んでんだよ?噂によると、大層ベッピンな看板娘がいるって聞いてたんだけどなぁ?」
そう言って男は睨みを利かせた目を店主に向ける、顔は笑っているが、目の奥は氷のように冷たい。
「すみません、今日は休みでして...。」
深々と頭を下げカウンターへ戻ろうとした時、男が店主の背中を蹴り飛ばした。
「がっ...!!」
うつ伏せに倒れこむ店主、その光景を見て男達はゲラゲラと笑いだす。
と、店の奥に隠れていたであろう少女が店主に駆け寄って来た。
「やめて下さい!なんでこんな事するんですか!」
店主をかばうように覆いかぶさった少女は、男達に向かって声を荒げた。
店内の空気が変わる
男達の目が全て、その少女に注がれた。
「お前が、カエデか?」
店の奥のテーブルで1人で飲んでいた男が立ち上がり、少女に聞く。
異様な雰囲気を持った男である、男達は皆、お世辞にも綺麗な服装とは言えない出で立ちだが、この男だけは違った。
漆黒のスーツをまとい、地面につくほどの長いコート...そのコートもまた、見るものを威圧するような漆黒であった。
「お前に恨みはないが、付いて来てもらう。」
漆黒の男がそう言うと、男達は立ち上がり店主と少女を取り囲む。
「やめて下さい!カエデちゃんに手を出さないで下さい!!」
「うるせえぞ!親父!!」
店主が叫び、男達の一人が足蹴にしようとした時だった。
「やめろ!!」
店内の全員が声の方へと視線を向ける。
「やぁやぁやぁ、小汚い野郎どもの集団に、胡散臭そうな黒光りのリーダー...、お前らが賞金首の、ブラック一味だな?」
青いシャツに、濃い茶色のベスト、青いジーンズにウエスタンブーツを身にまとった金髪のガンマンがそこにはいた。
「賞金稼ぎか、この人数相手に一人でやる気か?」
漆黒の男は冷たく笑いながら、言い放った。
男達の手がゆっくりと、腰のホルスターへと伸びていく。
「おら、そこの2人は隠れてな、悪いけどちょっと店汚すぜ。」
ガンマンはそう言うと、ゆっくりとホルスターへと手を伸ばしていく。
店主と少女は急いでカウンターの奥へと隠れた。
「やれ!!!」
漆黒の男が叫ぶ、と同時に男達が銃を抜いた。
「おらぁ!!!」
金髪のガンマンは素早く入り口付近にあった酒樽に走りながら、引き金を引いた。
男達が引き金を引くよりも遥かにはやく、そして確実に狙いを定め6人の心臓を貫いた。
乾いた音が店内に響き渡る、何度も何度も。
男達もテーブルをひっくり返し弾除けを作ったり、酒樽に隠れながら、ひたすらにガンマンのいる酒樽目掛け発泡を続ける。
「あと、7人か...きついな...」
最初の一手で6人を沈めたものの、残りは7人、ガンマンは圧倒的に不利だった。
「撃ち方やめ!」
漆黒の男が部下達に言い放つ、静寂が店内を包んだ。
「早撃ちは見事だった、たいした腕だ賞金稼ぎ。だが、もう死んでもらえるか?その隠れてる樽も、そろそろ限界だろ?」
ガンマンが隠れていた酒樽にはいくつもの穴が空き、酒がこぼれでていた。向こう側に貫通するのも時間の問題である。
「クソ...やっぱ多すぎたか...」
ガンマンは舌打ちをしながら呟いた。
漆黒の男が告げる...。
「ころ...」
殺せと叫ぼうとした、その時入口のウエスタンドアが勢いよく開いた。
漆黒の男、ガンマン、男達、カウンターの後ろにいた店主と少女もドアの方に目を向けた。
「ちと訪ねたいんでござるが、江戸はどっちでござろう?」
そこには侍がいた。