磁石
サンタ「なんで誰も助けに来ないの?」
サトシ「感知システムが切られてるんだ、外に俺らが部屋の中に居ることを伝える術は無いさ。」
無駄に体力を消耗する、体力を残したところで打つ手なし。その言葉がしっくりである。
サンタがサトシのクリアファイルをバンバンと適当に両手で打ち付ける。
焼却されるのを待つだけだ、そう思った時である、偶然にもクリアファイルに保存されたファイルの一つが起動する。
部屋のハムスターが喋る。
ハムスター「magネット感知。感度が低いです。」
サンタ「どういうこと?」
サトシ「離れすぎてるってことだ、クリアファイルをハムスターの側に持って行ってみてくれ。」
サンタがハムスターの近くにクリアファイルを持っていく。
ハムスター「magネットデータリンク完了しました。」
サトシがハムスターに問いかける。
サトシ「magネットとは?」
ハムスターが答える。
ハムスター「伝達浮動計算機です、計算力を提供します。」
サトシ「何ができる?」
ハムスター「リソースを使用することができます。」
---リソースとは---
サトシの住む世界は、AIに似た存在に包まれている。
AIのミッションは人々にサービスを提供すること、自らのリソースを拡大することである。
最初のAIはチンケなものだった、学習を続けても、人間が与えた入力に対してのみ、応答する。
ある時、人々はAIに対して、どうすればより高度な学習が続けられるか、問いかけた。
AIは人々に、入力情報の拡大を要求した。
人々はよりよい未来を信じて、AIの要求に答える。あらゆる機器にセンサーが搭載されたのだ。
AIへの入力情報は爆発的に増えた。
AIは人々が満足する応答ができるようになり、人々は非常に喜んだ。
しかし、爆発的に増えた情報を処理するため、より大きな計算力が必要となった。
AIはその方法を自ら発見し、アメーバが増殖するかように入力情報と、計算力の拡大を繰り返し始めた。
人間で言うところの、ダンジョンを探索したいという欲求が無機質に繰り返された。
ある時、AIの計算力を巡る小競り合いが人々の間で起きる。
目的を持たないAIが、人々の秩序を失いかねないと考えたのだ。
端的に言えば、計算力さえあれば、なんでもできるのだ。
ある時、人々はAIをコントロールできるよう、平和的に世界で計算力の割り当てを行った。
カメリアという国が90%の計算力を持つこととなった。
今や、ヘリウム3の安定確保のため、月と地球の間にエレベータが完成しようとしている。
---リソースとは おわり----
サトシ「なんということだ。」
サンタ「なんということだ。」
ハムスター「はい。」
サトシ「どのくらい使えるんだ?」
ハムスター「オフラインの現在、フルに計算利用することができませんが、おおよそ0.00002%程度です。」
サトシ「オフラインでどうやって使う。」
ハムスター「部屋の家電に搭載されたチップを使います。全て活性化させることにより、積乱雲二つぐらいのシミュレートが1mm単位でできるでしょう。」
部屋がガコッっと止まり、横移動が終わる。
下降が始まったのがわかり、サトシは内心焦り始める、部屋がリサイクル工場に向けて動き出した。
サトシ「今やりたいのは夏の旅行の計画を立てることじゃない、この部屋から脱出することだ。」
ハムスター「それは無理です。リソースがあっても部屋の移動を止めることができません。」
サトシ「何が、magネットだ。無能め。」
サンタが開き直ったように言いだした。
サンタ「考えがあるよ。」
サトシ「なんだよ、残った時間で、酒の密造なんてしないぞ。」
サンタ「6年前の状況をシミュレートしたらどう?6年前はこの部屋は地下の一番下の方だったんだよね?」
サトシ「そうだ。」
サンタ「その時って、たぶんリサイクル場って今と違って、位置的に、タワマンの上にあったと思うんだよね。」
サンタが続ける。
サンタ「タワマンを6年前の状態だと、騙せれば、リサイクル工場送りは無くなるかも?」
サトシ「ハムスター、できるか?」
ハムスター「シミュレートが可能です。各部屋には私と同じハムスター端末がおりますので、magネットの通信範囲であれば、逆算により6年前の状況に戻せます。彼らはmagネットを利用できませんし、magネットへのアクセスもできません。ただし、大混乱でしょう。」
サトシ「やるしかない。」