務め
サンタがサトシの住むタワマンに到着する。日は暮れている。
高層階から漏れる灯りは神々しく、地上の日常とは切り離されているようにも思える。
サンタはトナカイと庭付きの家より、タワマンへの憧れを持っていた。
ある程度、サンタのイメージを守るのもサンタの務めであるから、タワマンは諦めていた。
行政区には7塔のタワマンがある。
タワマンとは名ばかり、普段は地下に格納されている。
敵が襲ってきたような緊急時、地上に競りあがり、武装して戦うことができる。
しかし、サンタが生まれてから、敵が襲ってきたという話は見たことがないし聞いたことも無い。
6年前、行政区の配管トラブルにより、街が洪水になったことがある。
その時、行政区は地下に格納されたタワマンが水没しないよう、慌てて地上に競りあげた。
連日ニュースで報道され、サンタは一連の出来事をあきれ顔で見ていた。
タワマンは今、地下に格納されることなく、悠々とそびえ立つ。
サトシの住む部屋はタワマンの3階だ。
昇降機を使うのは無駄、非常階段を使う。4年前、サトシが部屋を決めるときに言っていた。
サンタはトナカイを機械式駐車場に留め、駐車ボタンを押す。
あからさまに入り口を主張するエントランスは無い。
住人のプライベートを守るためという理由ではなく、1階部分は元々は地下の最下層であるからだ。
サンタは駐車場から人の行きかう通りを抜け、街頭の薄暗い公園を廻りこむ。
木陰に隠れた非常階段を、スコッチをぶら下げコツコツと登り始める。
緑のEXITのランプが点灯している。サンタは毎回思う。
サンタ「これから、入るんだけどな。」
次の瞬間、サンタの目が強い、赤色の光線でくらむ。
薄暗い非常階段を、無数の赤外線の点がサンタを照準するように這っていることに気づく。
サンタ「このいやらしい動き、サトシ!!」
サンタはタケシの家の扉を開ける。
スコーン。プラスチック製の空玉がサンタの額に命中する。
スコーン、スコーン、スコーン、2発目、3発目、4発目。
サンタ「神がかった命中率。」
サトシがエアガンを構えながら言う。
サトシ「卓球部だから、当たり前だろ、コントロールが命だ。」
サンタが切り返す。
サンタ「卓球部なら、ラケットを使ったらどう?」
サトシ「極悪非情なサンタにはラケットじゃ対応できねーよ、今の俺はジャングルの中のランボーだぜ。」
サンタ「どう解釈すればいいの。」
卓球部のお泊り会がはじまった。