テツコ
体の芯まで冷え込み、マフラーを被る雪の降る寒い夜。
こんな夜はクラムチャウダーがいい。
暖をとりながらゆっくりと具のうま味を啜るのだ。
薪がパチと燃え、飛び出した火の粉の行く先はどこか。
温められた鍋からは、湯気が立ちのぼる。
蓋を開けると、濃厚な香りで心が満たされる。
そんなサンタ、ちょっと憧れてた。
LEDにIHコンロ、ピザーラの空箱を見ながら、サンタは学生服に着替えた。
今日はハイスクールで同じ卓球部での、サトシのお泊り会に呼ばれている。
学生は外出する時、学生服でなければならない。そう決まっているのだ。
お泊り会に持っていく土産のスコッチも選び終え、ハーブを吹かしていた。
キラークイーンを聴きながら、ブカブカのソファーでいい気分でくつろいでいた。
突然、家の外から重低音の爆音が聞こえてくる。
閉じたカーテンを開け、ぼやけてあいまいな焦点を良く凝らしてみてみると、新品のランボルギーニが停まっていた。
芝生と木陰の境界が曖昧になった夕闇でゴルフバックが動いている。
遠くから、救急ドローンのサイレンが響いている。また死人だろうか?
サンタは意味もなく嬉しくなり、とにかく庭に飛び出す。
サンタがゴルフバッグに駆け寄る。
ランボルギーニから、ゴルフバックを引きずった跡はあるのに、家の扉まで半分で途切れている。
ゴルフバッグがピクピクと動く。
サンタがおそるおそる、ゴルフバックを持ち上げる。
サンタは下に人が埋もれていることを発見した。
オレンジに黒のストライプの入った、少しよれたリサイクル工場の作業着を着たのテツコの姿である。
サンタは喜びを隠せず、ハイになったまま口にする。
「リサイクル工場の人ぅーが、ゴルフバッグに潰されてるぅ~。なんでぇ~」
テツコはサンタを知っているが、サンタはテツコを知らない。
学生服姿のサンタなんて、知る人の方が少ない。
テツコのサンタファンの入れ込みようとしては徹底していた。
子供の頃からクリスマスのプレゼントの謎解きに夢中だったからだ。
テツコが今、リサイクル工場で働いているのも、サンタにリサイクル品を届ける仕事があるのを知ったからだ。
サンタ好きのテツコを知ったサトシが紹介してくれた仕事だ。
サンタの家に仕掛けようと画策していた、隠しカメラの設置場所を考えている最中の紹介だった。
いつ出かけるの?どうやって配るの?普段は何しているの?テツコのサンタへの興味は止まることを知らなかった。
サンタがテツコを知らないのもこの時点で奇跡である。
テツコには探偵の素質があるのだろうか。
本当のところ、サンタへの興味が無ければ、テツコには労働する理由がない。
隠しカメラそのものに興味も無い。