水族館とゴルフ場
タケシは病院への搬送中、こんなことを思っていた。
ハリウッドスターに憧れて死ぬとは思わなかった。
英語で遺言を残そうとするも、リストカットの綴りがわからず、結局書けなかった。
辛い人生だった。
よく考えるとそこまで辛くなかった。
飢えることなく、教育を受け、病にかかれば十分な薬が手に入る。
部屋の側にゴルフコースもあった。
俺の体はぐちゃぐちゃで、まるでチョコレートの様だ。
これではジョニーデップのチャーリーとチョコレート工場だ。
ギリギリで生きてる。
トム・クルーズみたいな、タフさが欲しかった。
意識がなくなる前、頭に浮かんだのは台所のハムスターの人形の姿だった。
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タケシは自室の所有権を手放した。
自ら意思表明することができないので、後見人によりそうされた。
タケシの部屋のハムスター人形は洗濯機と電子レンジと照明器具などの家電とデータリンクする。
部屋はモーターの駆動音とともに下降をはじめた。
ゴルフコースの横を下り、水族館の横を下り、下層部に到達する。
部屋は家電ごと、アンブレラ社のリサイクル工場に運ばれる。
テツコ「部屋のハムスターの回収終わったよ」
先生「部屋のハムスターより、部屋の主のことを少しは想いなさい」
テツコ「ジョニーデップになりたかった人?」
先生「違う、たぶんスティーブンセガールだ」
リサイクルマシーンのランプが黄色から緑に点灯し、部屋がまるごとリサイクルされたことが通知される。
コイルが励磁され、部屋の中の有機物がプラズマ化し、掃除は一瞬で完了する。
テツコ「新しい部屋になったね」
先生「新しい部屋だよ」
テツコ「このゴルフバックはどうするの?」
先生「今年のクリスマスに13階のサトウさんにあげなさい」
テツコ「サンタの靴下に入らない!!」
部屋は再びモーターの駆動音とともに上昇をはじめた。
下層部から水族館の横を登り、ゴルフコースの横を登り。
テツコ「ハムスター載せ忘れた」
先生「新しい部屋の主が来る前に、後で届けてきなさい」