湯ノ島
青々と茂った森が眼下を滑っていく。
湯ノ島を出発したオナガ一行は空飛ぶバイクで旧八ヵ所再処理工場へ向かう。
人口集中管理のため、人は首都機能を持つ都市に移動していた。
東北は人の手が入らず、手つかずの状態となっている。
林道も、車道も、鉄道も、現在は木の蔦や土砂で寸断されている。
月からでも見えるであろう、一本の軌跡が地上に描かれている。
その軌跡は自然と調和し、森林の神秘さを引き立てている。
ハイパールーフの換気口である。等間隔に口を開け列島を横断している。
はるか先、海の上を跨ぐように換気口は続く。
空飛ぶバイクのランプが、旧八ヵ所再処理工場の場所を指し示す。
目的の場所は赤い蛍光色に包まれ、時折、大量の蒸気をを噴出している。
ツインテールを風になびかせながら、ヨーコが言う。
ヨーコ「風見鶏の情報だと、現在は稼働してない。跡地はそのまま廃棄されてるはず。」
サンタ「それじゃなんであんなに、目立ってるの?」
ヨーコ「近づいてみないとわからない、危険はなさそう。どうするオナガ?」
オナガ「もし稼働してるなら、話は早い。行ってみよう。」
オナガの判断は安直であることにすぐに気が付く。
風見鶏の情報は更新されていない、にも関わらず巨大な施設が稼働している。
magネットの設備に他ならなかった。
先頭を走っていたヨーコのバイクの高度が急に下がる。
ヨーコ「あれ?!バイクのハンドルが勝手にロックされた!あれぇ!!」
オナガとサンタは急停止する。
サンタ「ヨーコの風見鶏が、magネットの管制を受けているんだね。」
オナガ「俺は風見鶏を持ってないから、管制を受けないのはわかる。なんでサンタも平気なんだ?」
サンタ「私は特別だ。」
ヨーコの空飛ぶバイクがオートクルーズに変更され、ヨーコはそのまま管理棟と思わしき建物に誘導されている。
オナガとサンタはヨーコの後を追う。管理棟の横の駐車場に停車する。
近くにハイパールーフのターミナルがあるようである。
時折、AIロボの往来がある。
無人だが、広い空間。人々に捨てられた土地の様に寂しくも思える。
オナガとサンタがヨーコに追いつく。
ヨーコは背の丈が半分ぐらい、ロボと会話をしている。
オナガ「ヨーコ、大丈夫か?」
ヨーコ「うん、問題ないみたい。再処理工場の見学プログラムが始まってる。」
ロボがオナガの方を向き、ぴょこんとお辞儀する。
ペッパー君に稼働する関節を増やし、子供受けを狙った装飾を施すとこうなるのだろう。
案内ロボ「本日のご来場ありがとうございます。こちらへどうぞ。」
サンタ「工場見学でも始まるのかな?」
オナガ一行は案内ロボに続き歩き始める。
エントランスを抜け、蒸気を噴出する建物に併設されたエレベータに乗り込む。
途中、エグゼクティブAIロボが労働AIロボを指導している姿が目に入る。
バッテリーを抜いているようだ。
指導なのかカツアゲなのかはわからない。
案内ロボ「一般の方の来場が、3名あわせ、丁度1000万人目です!!」
祝!1000万人の文字とともに、紙吹雪のホログラムがエレベータ内に映される。
案内ロボ「特別なことはありませんが、本安置所をゆっくり見学なさってください!!」
サンタ「ないのかよ。」
案内ロボ「AIロボでお祝いのパレードでもしましょうか?」
サンタ「やらなくていいよ。」
ヨーコ「待って!!パレードしたい、パレードやって!!」
案内ロボ「かしこまりました。」
オナガ一行が乗り込んだエレベーターが透明の硝子張りの回廊を登っていく。
縦横無尽に張り巡らされた、ポンプの様な動線、縦に伸びているのが見える。
巨大な穴だ。円筒形の建物の下に巨大な穴が掘られている。
壁面にはカートリッジが所狭しと埋め込まれている。
電気信号だろうか、時折走る光に呼応するようにカートリッジが光る。
オナガ「この施設はなんだ?」
案内ロボ「ストレージです、膨大な量の、過去の。」
ヨーコ「過去?ウィキペディアみたいなもの?」
案内ロボ「はい、風見鶏のログをストレージに移して保管しています。」
案内ロボが、こちらをご覧くださいと言う。
エレベータのウィンドウにヨーコの姿が映る。画面手前から差し出しす手が見える。
飯屋の酒飲みの老人の記憶だった。
オナガ一行は言葉を失う。
案内ロボ「蓄積された人の記憶から行動パターンを想定し、magネットは随時よりよい選択を行うのです。」
オナガ「ここ以外にも同じ施設が沢山あるのか。」
案内ロボ「はい、80ヵ所程あります。その土地の風習や気候がありますので、ストレージにより、導かれる答えが異なることもあります。」
サンタ「人のため、いいことをしてるんだ。」
案内ロボ「各地のストレージの容量に限界が迫りつつあり、拡張が間に合っていません。ジパングの風見鶏には新規発行を制限している状況です。」
オナガがふと思い当たる。
オナガ「俺に風見鶏が与えられなかったのは制限のせいか?」
案内ロボ「制限はもっと根本的に行っています。無作為に風見鶏を発行しないこともありません。オナガ様が風見鶏を持っていない理由はわかりかねます。」
オナガ「様だってよ。ぐふふ。」
サンタ「馬鹿。」
ストレージの中央の配管から、轟音が響く。
導線から発生した熱、ストレージの発する熱が、噴き上げてる。
オナガ「凄いな。」
ヨーコ「様を付けられたら、すぐに凄いなんて言っちゃうオナガの根性はどうかと思う。」
オナガ一行のエレベータが最上階に到着する。
案内ロボ「7割のストレージが停止しています。3割が導通状態です。莫大な処理を行うためのエネルギー確保もmagネットの使命です。」