ミニマリスト
空っぽのタンカーは青森県、湯ノ島に横付けされる。
もとい、島が碇となるよう、完全に固定された。
屋根には太陽パネルが設置され、船内には一応の照明が通る。
大豆栽培でも始めてみようかと、水栽プラントを設置する。
廃棄物が出るであろうから、分解用バイオプラントを設置する。
タンカーの中で、炭素と窒素の簡単な循環設備のできあがりである。
人をタンカーの中に放り込んでみたとしよう。
人工の照明を浴びて、大豆を食べて、寝る。
分解用バイオプラントでは熱も回収できるから、湯を沸かしてシャワーを浴びて清潔を保つ。
オナガが白い目で言う。
オナガ「ミニマリストならこれで十分、アルコロジーの完成だ。」
ヨーコ「娯楽が全くないよ!大豆でおはじきでもして遊ぶぐらいしかできないじゃない。それに病気とか怪我をしたらどうするの!!」
オナガ「動かなければけがはない、楽しさは心の中から自然と湧きあがるものだし、与えるものじゃない。」
ヨーコ「即身仏になるのは嫌だよ、もっと提案していかないと。」
オナガは我に返る。
自ら選択し、労働することはこの上ない喜びである。タケシは性善説を持ち出して話を進める。
オナガ「労働か?労働こそ人の最大の楽しみだよな。」
ヨーコも性善説派であった。
ヨーコ「そうだね、労働が必要よ!」
大豆をもぎ取り、食品に加工する工場がタンカー内に設置される。
AIロボは導入しない。
オナガ「住人1号を決めないといけないんだ。」
ヨーコ「私たちは1号にはならないんだね。食品加工場で働いてくれる人を探さないと。」
オナガ「1号の称号は他の人にあげるべきだと思う。誰がいいと思う?」
ヨーコ「集落の飯屋で酒を飲んでる老人がいいんじゃないかな、食券あげた人。」
オナガ「連絡を取ってみてくれ。」
ヨーコは風見鶏に対して問いかけを行う、ところが何度呼び掛けても返事が無く、応答もない。
ヨーコ「死んじゃったみたい。」
老人は死んでいた、発展するサマラタウンの中で、酒を飲み続け、肝硬変でぽっくりと逝ったという。
肝硬変の原因を疑われる酒と交換のできる、食券を渡したヨーコは少しバツが悪かった。
ヨーコ「あの時、食券を渡さなければよかったかな。」
オナガ「渡した食券を老人の勝手だ。あの時ヨーコは腹が減っている老人に飯を食べて貰いたくて、渡した。肝硬変とは関係ないさ。」
集落が賑やかになり、老人が酒を飲みながら楽しい晩年を過ごせたのだと、オナガはヨーコに説明した。
オナガ「食券を渡さずに、いやしい思いが湧かなかったら、今のアルコロジーやサマラタウンも無かったかもしれない。」
ヨーコがタンカーを見上げながら言う。
ヨーコ「いやしさから生まれたんだね、これ。」
アルコロジーの実験を進めるため、特区の住人に移住を提案する必要がある。
外から見れば、食料は大豆だけ。生活空間は薄暗い鉄の檻の中。監獄とも揶揄されても仕方が無い。
移住者募集に人が集まらず、オナガとヨーコが何がいけなかったのか自らを疑い始めた時、一人の志願者が現れる。
サンタである。
サンタ「私が協力するよ。」
オナガとヨーコは自分たちの信念に確信を深めながら、自分たちもサンタと一緒にタンカーに住むことにする。
ヨーコ「サンタと一緒なら、楽しくなりそう。」
オナガ「俺じゃ駄目だったんだな。」
サンタが言い出す。
サンタ「私はミニマリストにはなれない。タンカーの中を自由に創造できる豊富なエネルギーが欲しい。」
ヨーコ「サンタの言うことは確かだね、何かいい方法ある?」
サンタ「エネルギーを確保する必要がある、八ヶ所再処理工場を稼働させよう。」
ヨーコ「核融合炉をタンカー内にれば、八ヶ所再処理工場で臨界させるエネルギーが確保できるね。風見鶏もいるし、技術的には大丈夫。」
オナガが口を出す。
オナガ「住人1号の意思に従うとするよ。エネルギーが手に入ったら超ヨーコって呼んでいいか?」
ヨーコ「なにそれ?」
オナガとヨーコはサンタと一緒に八ヶ所再処理工場の稼働と、タンカー内へのトカマク炉建設に着手することになる。