効率
ヨーコが引き連れていたのは船団だった。
特区の住人たちが、千島列島沖までならということで迎えの船を出していた。
ベーリング海から吹き付ける凍える風と荒波に、カニ漁でも始めるか、と自虐し始めたころである。
サマラタウンはmagネットにより、快適な街になっていたから、財政不安を除き住人たちは外界の過酷さを忘れ始めていた。
特区の住人がヨーコに詰め寄る。
住人「最近、オナガの姿が見えないと思っていたら、カメリアか。説明してもらおう。」
ヨーコ「オナガが抜け駆けなんてしない、またみんなのところに戻ってくる。」
オナガのアルコロジー計画は皆に周知の事実だった。
ところが、巨大なタンカーをカメリアで仕入れると言い残し、2年も戻らない。
皆、きな臭さに変わり、徐々に不安へと変わる。
つまるところ、この船団はサトシの迎えではなく、サトシを追いかける集落の住人の集まりである。
ヨーコはオナガを追いかけようとする、集落の住人を静止することができなかったので、ヨーコも向かうことにしたのだった。
風見鶏がオナガの存在を予期する、相対速度で82ノットで接近するタンカーからの反応である。
船団は慌てる、このまま突っ込んできたらひとたまりもない。
回避行動をするも、慌てて距離を保てず、衝突する船も数隻ある、借り物の船もあるというのだからタチが悪い。
迫りくるタンカーの動線上から離れたかと思った矢先、そのタンカーが漂流を始めたとのことだから、慌ただしい。
かくして、集落の住人たちは散り散りになったり、団子の様に集まったりして、オナガの乗ったタンカーを見つけた。
集落の住人たちが、オナガから行先を聞くと、安堵する者や、逆にがっかりするものもいた。
オナガと供に青森を目指すものも居たが、中にはそのままカメリアに行きたいものも居たのである。
船団は海上で航路を東西に分けたのである。
曳航されたオナガのタンカーが青森の平舘海峡を渡る。
オナガは悩みを抱えることとなる、エネルギー源を失ったタンカーでどうやって生態系を作ろうか。
そんな悩みを解決する秘策は無い。
物思いにふける、オナガに向かいヨーコが言う。
ヨーコ「そんなにふさぎ込んでどうしたの?」
オナガ「アルコロジーを作るだけの燃料が無い。」
ヨーコ「燃料は沢山あるでしょ、magネットが配電してる。」
オナガ「電気を盗むのか?電気をくださいってお願いしてみろとでも。」
ヨーコ「そうだね、お願いしてみるのがいいんじゃないかな?」
生態系の分離はmagネットからの分離が必要であった。
magネットは一部、生態系に馴染んでいるから、そのエネルギーに頼った場合、完全に自立型の都市とは言えなくなる。
オナガはできれば風見鶏だけに頼りたかった。
オナガ「その昔、核燃料のリサイクル場があったと聞く。稼働できないんだろうか。」
ヨーコ「無理だよ、私たちの知識じゃ動かせないし、仮に動かせたとしても、magネットがどう動くかわからない。」
ヨーコは続ける。
ヨーコ「私たちってさ、いつのまにか反magネット勢力なってない?」
小舟13隻、風見鶏34機、タンカー1隻。動くかわからない古代の原子力発電所。
娯楽を生み出すため、膨大な資源が投入されていることにオナガが気づく。
オナガ「効率悪いな。」