炉
オナガは思案していた。
人の独創性を成長させる方法を。ある結論にたどり着く。
自己完結型の都市を作るのだ。
人は本当の意味で生態系から自立する必要がある。
特定の空間で、エネルギーの生成、消費、分解、生産のサイクルを完結させるのだ。
アルコロジーの建設である。
使い古しの巨大タンカーの払い下げを受け実験を始めることにした。
オナガは26歳になっていた。
サンディオゴを出発する巨大タンカーにオナガの姿がある。
太平洋を北西に向けて横断し、ベーリング海付近をかすめる。
目的地は青森県、陸奥湾の奥、湯ノ島。
突然、緊急ブザーがタンカー内に響く。タンカーの核融合炉の出力がフルになる。
カメリア領海内、EEZまでおおよそ50海里。
ドカンと爆音が響く、炉の出力の急上昇に老化したシャフトが耐えきれず、曲がったのだろう。
500mを超す長さの船体が一瞬左に傾いた後、異常な加速を始める。
遠くから見ると、全速力で波を蹴りながら突っ走るモーターボートに見えるだろう。
船員A「質量ミサイルです!」
オナガ「科学アカデミーへの申請書には民間転用と書き、輸出審査もパスしてるんだがな。」
アルコロジーの建設は公にされている、人はアルコロジー計画を許可していた。
秘密裏に攻撃される理由はない。
船員A「着弾まで12秒、風見鶏が回避行動を始めています。」
オナガは柱にしがみ付きながら言う。
オナガ「見りゃわかる。」
人が気が付くころ、戦いは既に終わっている。
magネットはカメリア製、風見鶏はジパング製である。
性能差は言わずと知れた者かな、月とすっぽん。
オナガ「タンカーに風見鶏は、何個接続してあるんだっけ。」
船員A「搭乗員7名分です。」
オナガ「magネットが当てる気なら、沈むか。」
船員B「レーダーが質量ミサイルを捉えました、2発です!」
着弾まで7秒、6,5,4,3が飛ばされ、画面にはいきなり2秒と表示される。
ドバーン。晴れた海に巨大な水しぶきが上がる。
巨大タンカーは水しぶきに飲まれ大きく傾き、軋む。
復元力いっぱい、海面がオナガのすぐ横の窓に迫るのが見えていた。
核融合炉が大きすぎる質量のため、船外に放り出され、青い稲妻を放ちながら前方に飛んでいくのが見ええた。
オナガ「あっ、大事なものが。」
船体は大きく蛇行し、というより制御不能になり、鉄の塊が海面を滑っていく。
ドバーン。二度目の爆発がタンカーを襲う。今度は核融合炉が着水した時の、水蒸気爆発だ。
炉は海に落ちて冷えれば停止するが、水蒸気爆発の大きさはエネルギーの凄まじさを物語っていた。
船体こそ無事だったものの、オナガのタンカーは動力を失い、太平洋のど真ん中で漂流を始めることとなってしまった。
オナガが呟く。
オナガ「magネットは核融合炉を渡したくなかったみたいだな。」
日没が近く、悠然と佇むタンカーが海に影を落とし始めていた。
船員Bが、波間の遠くに無数の黒い点を見つける。
黒い点は次第に大きくなり、船団ということがわかる。
風見鶏に通信が入る。
ヨーコ「迎えに来たよ!!」
オナガが答える。
オナガ「はやいね。」