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再会⑥

 ドラゴンは一向に地上へ降りる気配を見せず、ただ悠々と旋回をしているだけだった。

 そして、橋の前では一人の少女が繰り返し魔法を放ち続けていた。


「キリがないわね······。ドラゴンに備えて少し魔力をセーブしたいわ。ジャック、少し頼んでいいかしら?」

「あぁ」


 ミーナは、後方にいるフィリカとスライにも手で合図を送る。

 前に来た二人も、彼女の事情を聞いた。


「作戦変更よ。プランBで行くわ」

「わかりました。じゃあ、私たちは東を担当しますね」

「えぇ。お願い」


 ミーナは、作戦変更の旨を大砲付近に待機する兵長にも伝える。それはさらに橋向こうの兵士にも伝えられる。

 橋の中程には弓を構える兵と、数人の剣を持つ兵士が陣形を作る。


「とりあえず、後ろに行った敵は彼らに任せましょう」


 そしてミーナは時折連絡を取れるよう、フィリカと『コンタクト』をしておく。


「それじゃあ、そっちは任せたわよ」


 彼女に返事をするフィリカとスライ。

 右を向いた二人は、目を合わせると頷き、大群で押し寄せている狼の群れの前に向かっていった。






 ――スライは槍を首の後ろに乗せ、両腕を掛けていた。


「んじゃ、やってみようかねー」

「はい」


 二人は、同時に丸薬を飲む。だが、スライは白、フィリカは灰の薬だ。


 最初に行動を起こしたのはフィリカだった。

 彼女は地面に一度触れると、両手を前に差し向け、魔力を集中する。すると、それと同時に地面が高々と隆起し、魔物の行動を制限する。

 扇状に伸びた通路は二人に近づくにつれ細くなり、やがて魔物の一体がなんとか通れるだけの一本道となっていた。

 

「さてと、どれだけ抜けるかねぇ」


 乗せていた槍を下ろしたスライは、器用に手元だけでクルクルと回す。そして、準備運動を終えた彼は切っ先を空に向け、槍をストンと落とすと、隣にいた彼女に言う。


「じゃ、フィリカちゃんお願い」


 彼女は「はい」と言って、左手で槍にちょん、と触れる。それを確認したスライは念のため、彼女に下がるように言う。


 数歩分、距離を取るフィリカ。


 攻撃の準備を終えた二人は、時を待った。やがて、十秒後には接触する距離まで、狼がやって来る。


 そこまで来て、ようやくスライが動いた。


 彼は、槍を宙に軽く上げると、ステップを踏んだ。そしてその途中、槍を逆手で掴むと魔力を集中し、勢いを殺さないまま一気にそれを投げ放つ。




 ······音は無かった。




 彼が投げた先——一本道に広がっていたのは、何が起きたのか認識出来ず、風穴を開けた狼達だった。

 彼らは二秒ほど遅れて、死を意識したように同時に崩れ落ちた。


 それからすぐ、遠くへ投げられたはずのスライの槍が、彼の手元へ戻ってくる。太陽に照らされた槍は、血の色に輝いていた。


「ありがと、フィリカちゃん」

「いえ」


 フィリカはスライが投げる直前に、道の奥で土の壁を作っていた。そのため槍はそこで止まり、回収が不能になることはなかった。


 二人は通路の彼方まで広がる、屍の数々を見る。


「ミーナさん、弾丸だなんて言ってましたけど、はっきり言って······全然それ以上ですね······」

「ホントに。ちょっとした兵器だね······」


 自分達の攻撃に、つい二人は言葉を失う。しかし、それも短い間だが。

 それは通路の奥に、再び黒い影が見え始めていたからだった。


「——けどやっぱ、流石に全部は無理か。んじゃ、一回一掃して、『箱庭』行こっか」

「分かりました」


 スライは大きく腕を振り、橋向こうの部隊にサインを送る。それを受け取った兵士の一人が白い旗を振って確認のサインを送る。


「いいよ、フィリカちゃん」


 フィリカは手を前に出すと、左から右へと腕を振った。隆起した土が川のほうへと一気に押し運ばれ、狼の死体と共にボロボロと落ちていく。

 中にはまだ生きている狼もいたが、溺死するか、すぐに、川岸で待機していた弓兵によって片付けられる。


 そしてフィリカはもう一度地面に触れ、地形を構成する。


 北に長く、高く作られた壁。

 東には複雑に張り巡らせた通路。


 今度は迷路のようなものだった。

 二人の前にはその入り口が広がっている。


 スライは先ほど魔力を全て使ってしまったため、チャージタイムが必要だった。そのため二人は『箱庭』——回復するまで、接近戦で片付ける作戦へと戦い方を変える。


「ドラゴンはいつまで待ってくれるかね?」

「知りませんよ。聞いてみたらどうです?」


 フィリカは鞄から小銃を取り出しつつ、適当に彼をあしらう。その様子を見たスライが軽く肩を落とす。


「なんかあれ以来フィリカちゃん、俺の扱い雑になったよね······」

「気のせいじゃないですか」

「いやいや、そういうとこ」


 思わず指摘をするスライだが、「まぁ、いいんだけどね」と気持ちを切り替える。


「じゃ、行こっか」

「はい」


 二人は、土の迷路へと走り出した。

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