表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/91

絆⑧

 ——それから二時間後。


 二人は結局話し合うことなく、ミーナの言うがままだけのことをやっていた。


「はぁ······最低ね。そろそろ薬の効果も切れるし、休憩よ」


 ぶっきらぼうに言った彼女は、腰から下げていた水筒の水を飲む。


「私だからついて行けるけど、あんな動き、フィリカにはまだ無理よ」


 しかし、ジャックは黙ったまま何も言わない。彼は端にあった自分の水筒に手を伸ばすも、すぐにそれを止める。中身は既に空になっていたからだった。


「······飲まないの?」


 その様子を見てたミーナがジャックに尋ねる。しかし、彼はそちらに反応を示したものの動きはせず、黙ったままだった。

 ミーナは首を傾げる。


 一方、ジャックは言おうかどうか迷っていた。それは、元々があの水のことから生まれた軋轢なのだから。

 言えば負けたような気にもなる。だが、言わなければまた同じことを繰り返す。


 散々葛藤した結果······彼は意地を捨てた。


「······無いんだよ、水が」


 何故、ジャックだけ早く無くなったのか。

 それは、彼が"天井で動いていたから"もあるが、主な要因はミーナとの連係が上手くいかないことにあった。それがつまり、より彼に多くの疲労を与えていたのだった。


 そのことは、ミーナも気付いていた。


「ったく······」


 彼女は短く息を漏らすと、腰からぶら下がる水筒の紐を解き、何気ない顔でそれを差し出す。


「はい」

「······なんだよ」

「ここで上手くいかないのは、私とあなたの問題なんだから、責任は半々なのよ」


 そう言うとミーナは、彼から目を逸らす。


 彼女の手元を見たジャックは「······わるいな」と言って、水筒を受け取る。彼は一瞬、間接キスだとか考えもしたが、しかし、そんなことはすぐに忘れる。

 水筒に、思いのほか軽い感触を覚えたからだった。

 彼は容器を少し揺らしてみる。


 中身は恐らく、四分の一もなかった。

 それは、彼女も同様に疲労を重ねている証拠に、他ならなかった。


 それをようやく理解したジャックは、彼女に声を掛ける。


「なぁ······少し、話していいか?」


 ミーナは一度目を合わせると、また視線をそらし、


「······少しだけよ」


 と言った。





 遠くで練習をするスライとフィリカ。

 投げた槍をフィリカが引き戻し、それをスライが受け取る練習をしている。


 そんな光景を見ながら、二人は壁の側に座っていた。


「ごめん······この間は」


 自分の手元を見ながらだが、ジャックが最初にそう謝ったことに面食ったミーナは、彼のほうを見ると「別に······」と言って、目の前に視線を落とす。


「······ずっと気付かなかった。無茶苦茶な奴に合わせるのが、そんな大変だったなんて」


 彼は、手に持った水筒の中を、まだ飲んではいなかった。


「あなたはまだ······未熟だもの。仕方ないわ、その事に気付かなくて」


 彼は素直に、その言葉を受け入れていた。

 そして今度は、彼女が謝った。


「私のほうこそごめんなさい。あなたをどこか、特別視していたみたい······」


 ジャックは「別に······」と言って言葉を返す。


「さっき、"フィリカにはまだ無理"って言葉を口にして、ようやく気付いたわ。あなたも同じなのよね······出来る出来ないがあるのは」


 彼女は天井を見上げる。


「私は焦って、あなたにはこうあって欲しいと、理想に囚われてたみたい。——あなたの言う通りだわ。自分勝手ね······」


 膝を山にして座っていたジャックは、彼女のほうを一瞥する。


「もういいよ、そのことは」


 彼の中ではもう、その蟠りは溶けていた。

 しかし、彼女のほうはもう少しだけ残っていた。


「でもね、一つだけ、許せないことはあるの」


 今度は横目で彼女を見て「なに?」と言うジャック。


「ねぇジャック。なんであの時、"魔法なんて必要ない"って言ったの?」


 それを聞いたジャックは、顔をミーナに向ける。膝を抱えて俯く彼女は、ただ哀しい顔をしていた。


 彼は先日の口論を思い出す。

 あの言葉は、決してそういう意味を持って放った言葉ではなかったが、ミーナの心中を察した彼は立ち上がると、彼女の隣へと座る。

 そして、もう一度謝った。


「ごめん、ミーナ。············でもあれは——」

「ううん、分かってるの。アレに深い意味がないってことは」


 膝を抱える彼女は顔を埋め、そのまま喋り続ける。


「······ジャック、覚えてる? あの日のこと」

「あの日?」

「私が魔法を作りたいって言った日。まだ小さい頃の話」

「······あぁ。覚えてるよ」

「私ね、あの日から本当に魔法を好きになったの。あなたが"いいんじゃないか"って言ってくれたから」


 弱々しい声で話す彼女に、彼は改めて痛みを覚える。


「だから、そんなあなたに"必要ない"って言われたことが、ショックで仕方なかった」

「······ごめん」


 彼女は、指先で右目を拭う。


「お前がそんな想いを抱えてたなんて、知らなかった。ましてや、それで傷付いてたなんて······。——ごめん。もう、二度と口にはしないよ、そんなこと」


 消えそうな声で、ミーナは「うん······」と頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作はじめました。
宜しければこちらもお願いします。

《出遅れ魔法使いとなった俺は、今日も借金を返すために少女とダンジョンへ潜り込んでレアアイテムを探索する》

小説家になろう 勝手にランキング
↑よければ応援クリックお願いします。一日一回可能です。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ