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絆③

 二週間前に来たあの工房へ、今度は四人で来た彼らは、開口一番、エドワードにそのことを聞いていた。


「武器取りに来たぞー、エドじい」

「おぉ、お前さんらか」


 彼はタバコを吸って一服をしていた。


「頼んでおいたもの、全部出来てるかしら?」

「あぁ。追加の二つも含めて、作っておいたぞい。わしが言うのもなんじゃが、とんでもない代物じゃ」

「おぉ、マジか! 早く見せてくれよ!」


 はやる気持ちが抑えられないジャックは、煙を吐く彼を急かす。


「まぁ、落ち着くんじゃ。そこに置いてあるからの、見てみるがよい」


 エドワードが指差す先——ジャック達から見て左手には、大きな布が掛けられた一つの机があった。

 その前に移動する四人。


「ミーナ! はやくめくってくれ!」


 彼女は呆れ顔でジャックのほうを一瞥すると、一気に目の前の布を剥がした。


「おおおおおおー······お?」


 布が外されると、そこには五つの武器があった。

 一本の槍と二本のロングソード。そして、鞘に同じ装飾をしたダガーが二本。


「これ、剣と槍と······ダガーだよな?」

「そうね」

「あれ? でもミナっち。魔石は四つ分しかないんじゃなかったか?」

「そうよ。ダガーは短いから、これで一つ分なの」

「なるほどね······。ん? それってもしかして、双剣ってことか!?」

「ふふっ、御名答」


 ニヤリ顔でそう言った彼女は、一本のダガーの柄を持ち上げる。


「エドじい。性能はどうなのかしら?」

「切れ味、耐久性、今まで作った中で最高の出来栄えじゃ。······そんな武器が作れるとは、わしも鍛治師冥利に尽きるの」

「それは良かったわ」


 そうして彼女は、武器の一つ一つを彼らに渡していく。


「ロングソードはあなた達、一本ずつよ」

「サンキュ」

「ありがとミナっち」


 二人は軽く鞘から剣を抜いて、その刃先を確認する。


「綺麗だな······」

「何処となく妖艶だな······」


 魔石を含んだその刀身は、光の当たり方によって、あのゴーレムの核と同じ、血のような赤を滲ませていた。


 一通り剣を眺めた彼らは、それを鞘に収める。


「それで、残りも二人の武器なんだけど······」


 と言って、ミーナは視線を移動する。

 彼女の視線先——机の上には槍と二本のダガー。

 それを見たスライが何かを予感する。


「ミナっち、もしかしてだけど······俺が槍か?」

「そうよ」

「うわー、やっぱりか! 羨ましいぞジャック! 俺そっちが使いてぇ!」

「ふふふ、悪かったな」


 含み笑いをするジャック。


「くそー!」


 スライは頭を抱えて悔しがる。

 そんな彼の姿を見て、力のない目をするミーナ。


「あなたそんなにこっちが良かったの? それだったら、ジャックと同じのにするべきだったわね······ゴメンなさい」

「いやミナっち、謝らないで。別に嫌ってわけじゃ——」

「この槍、魔法と組み合わせれば弾丸にも劣らないのに······」

「えっ」

「残念······。スライの腕なら上手く扱えると思ったんだけど······」

「待ってミナっち。弾丸ってどういうこと?」

「あぁいいの気にしないで、こっちの話だから。じゃあ魔法に使う予定だった魔石で、追加のダガー作ってもらうことにするわ」

「いや、その前に説明だけでも——」

「エドじい、新しいの頼めるかしら?」

「構わんぞ」


 何処となくバツの悪さにいたたまれなくなるスライ。


「ゴメンってミナっち! ほんとゴメン! 槍いいと思う! めっちゃいいと思う! 俺使いたくなってきたなぁ!」

「あら、そう?」


 ケロっとした顔をするミーナ。


「うん! だから弾丸ってどういう意味か教えて?」


 両手を合わせて、彼女に懇願をするスライ。

 すっかり彼女に振り回される様子を、ジャックとフィリカは半目で見ていた。


「しょうがないわね。——エドじい。これの耐久性ってどんなものかしら?」

「そうじゃのぉ。正確には計り知れんが、石に向かって突いても微塵も刃こぼれしない程じゃったから、どんなに荒っぽく使っても、そう易々とは壊れんと思うぞ。ちなみに持ち手も、強度は同じじゃ」


 刃の部分程ではないが、鉄で出来た柄の部分にも、魔石の赤は見受けられた。


「だそうよ?」

「ん? つまりどういうこと?」


 彼にはまだピンと来ていなかった。


「つまり、そこに身体強化の魔法を使って、ゴーレムに向かって投げたよう槍を飛ばせば、弾丸にも劣らない威力が得られる、ってことよ」

「はぁー、そういうこと。そういえば、親父の槍、一回投げて使い物にならなくなっちゃったからな」

「えぇ、可哀想な程にね。だけど、この槍なら耐えられるはずよ。だからそこに、あなたの投擲精度が加わったら······まさに鬼に金棒じゃないかしら?」


 首を傾げて、彼女は同意を求める。


「なるほど······合点がいったよ。そこまで考えてたのねミナっち」

「当然よ。ただ、もう少し先も考えてるけどね」

「もう少し先?」

「それは後で教えるわ」


 そうして彼女は両手にずっしりとくる槍を、スライに渡した。


「待たせたわねジャック。これがあなたのよ」


 彼女は机にある、残りの武器を手に取った。

 ジャックは、先に受け取った長剣を腰にセットすると、彼女からその双剣を受け取る。


「剣と一緒に持つと、少し重いけど我慢しなさい。これはあなたにピッタリの武器なんだから」

「これが?」

「えぇ。あなた、自分で気付いてるか分からないけど、思ったより機敏なのよ? おまけに目もいい」


 目もいい、という言葉に若干の不快さを滲ませるジャック。


「あの勇者と同じこと言うんだな······」

「あら、彼がそう言ったの? じゃあ尚更確かなことじゃない」

「ふーん······」

「俺も薄々感じてたけど、お前になかなか攻撃が当たらんのはそういうことか」


 スライは、顎に手を当てながら頷く。


「なんにせよ、魔法とそれらがあれば、相手の懐に入るのなんて、あなたなら容易いはずよ。もしそれが無理な時は、剣のほうで対処してちょうだい」

「······わかった」


 剣を交えたあの短時間で、既に、クレスタに素質を見抜かれていたことは癪だったが、今はそれも踏まえて、この新しい武器の有用性をジャックは感じていた。


「剣だけじゃなくて、これもちゃんと使えるようにするよ」

「えぇ、そうしてちょうだい」


 尾骨辺りに双剣を納められたら、と思ったジャックだが、今はそういったベルトをしてないため、片手ずつにそれを持つことにした。


 ミーナは「あとは······」と頬に手を当て首をかしげると、忘れてないことがないかを考える。


「ミーナよ。これじゃろう?」


 それを察したエドワードが、自身側の机に置いてあった小さな木箱を手渡す。彼の片手に収まるそれは、煤けた色をしていた。


「あぁそう。それだわ」


 彼から箱を受け取ったミーナは、今度はそれを黒髪の少女へと手渡す。


「これはフィリカよ」

「えっ、私ですか?」

「えぇ。新しい小銃用の矢が入ってるわ」

「でもまだ、替えの矢は幾らかありますよ?」

「それは麻痺のやつでしょ? これは、石化の矢。バジリスクの、あの粉を混ぜたものよ。サンドワームとか通用しないのもいるだろうけど、無いよりはマシなはずよ」

「そうでしたか。ありがとうございます」


 フィリカはその箱が誤って開いてしまわぬよう、鞄の底で水平にしまう。


「間違っても自分に刺したりしないでよ? スライから治し方は聞いたけど、面倒そうなんだから」

「はい、気をつけます」


 フィリカは威勢よく、彼女に敬礼をする。


「まぁ、こんなところね。エドじい、今回のお代はどれくらいかしら?」


 持ってきていた小袋から金貨を出そうとしたミーナだが、その手を、パイプを持った彼が止める。


「お代は······ええよ」

「あら、どうしたの? 太っ腹じゃない」

「ゴーレムの魔石を加工できたからの」

「そんなことで?」

「大したことじゃ。正直わしはそんな経験、生涯できると思っておらんかったからの。久々にわしも、心が躍ったよ」


 しみじみと語る彼は、左手に持ったパイプを肺の奥深くまで吸う。


「······そう。そういうことなら、お言葉に甘えさせてもらうわ」

「あぁ、構わん」


 エドワードは、タバコの煙をふーっと、天井に吐く。


「また面白いものが手に入ったらタダでやってやるわい」

「感謝するわ」


 彼は鼻で笑って返事をする。

 さっき吐いた煙は、既に空気に溶けていた。


「エドじい。それにしてもよく、ゴーレムの魔石のこと知ってたな」

「同じ仲間鍛冶に聞いたんじゃ。奴はかなり自慢しておったよ。······まぁそん時は、心底羨んだもんじゃが、今はもう、おかげでなんとも思わなくなったがの」


 フォッ、フォッ、フォッと豪快に笑う彼は、ここにいる誰よりも、生き生きとした顔をしていた。

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