オアシス 後編⑥
ここから未改稿になります。文章力の低下、齟齬を招く場合がありますので御了承ください。
「さて······どんなもんの位置だ?」
ミーナの考えた作戦は石像を倒すものだが、その方法は勿論、敵の攻撃を当てるもの。そして、その事前準備――“削っての微調整“も同じ方法だった。それを聞いたジャックは当然呆れ顔をしたが、今は真剣にその位置を確認。
「足の前のほう——膝下辺りを削れるのが望ましいわ。一発目はそこで、二発目は右足の芯に当たるようによ。ゴーレムと像の傾いた方向が一直線になってることを怠らないようにね。その辺りは私達も遠目ながら確認するけど、あなたがいけると思ったら狙っていいわ」
ジャックはさらに前線へ行くことになるため、まだ不明瞭の――近距離でのゴーレムの攻撃を少しでも避けられるよう、白い丸薬を飲んでその能力を高める。
「今はあなたと『コンタクト』してないから、何かあれば声で直接伝えるわ。けど、無理に耳を傾ける必要はないから、避けることを一番に集中して」
「オッケー」
「それじゃあ、気を付けて」
「あぁ、お前も」
そうして彼女は一つ後ろの像へ走って移動。安全であろう場所へ隠れた彼女を見るジャックは、その彼女に“行く“と目で合図し頷いてから、修復を終えた敵の前へ姿を現す。
「近くで見るとやっぱでけぇなぁ······」
しかし、一撃を喰らえば軽傷では済まないであろうに、キメリア火山で出会ったドラゴンよりも一回り大きくあるのに、それでもあの琥珀の眼や牙、凶刃のような威圧感に比べれば、無機質だからだろうか――この石の巨人にはどこか冷静になれるものがジャックにはあった。
「もうちょい、こっちに来てくれないかねぇ······」
そして、ゴーレムの腕が届くか否かという所まで行ったジャックは、ジリジリと足を擦りながら横に歩く。相手はこちらを“最優先の敵“と認識。近くまで来たこちらを徐に振り向いて、狙いを定めたように右腕を振り上げる。その動きを見たジャックは足に魔力を送り、攻撃に備えた。
振り下ろされるゴーレムの腕。
その瞬間、ジャックは左に数歩脱兎の如く跳んだ。直後、元居た所へと激突する石の塊。飛び散る破片。それが目に入らぬようジャックは自身の腕でカバーしながら、地面に当たり損傷したゴーレムの身体を見る。先程ではないにしろ、敵は修復が必要な状態だった。
「案外、近くのほうが避けれそうだな······」
こちらの狙いは『砲撃のような切り離した腕』のため、ジャックは相手が修復するのを待ちながら近距離での分析。また、自分の魔力の微調整も省みながら次の攻撃に備える。
そして、先より早く修復を終えるゴーレムは鈍重な身体を動かし、のっそりと一歩ずつこちらへ歩く。ジャックはそれに合わせて数歩後退。そうして絶妙に間合いを取りながら少しずつ、像の右足――その一部へ流れ弾が飛ぶよう敵の位置を移動させていく。一つ目の狙いである“その位置“までもう少しだった。
――が、その時だった。
ゴーレムがこれまでにない動きを見せる。それは、腰を捻るようにして右腕を横に振りかぶるような動作。想定外の動きに、咄嗟に危機を覚えるジャック。後ろへ下がるも、自分よりいくらか高い――壊れた像の左足に背がつく。
「マジか······」
そう呟いた直後、ゴーレムは横に振りかぶっていた腕を切り離しながらこちらを攻撃。
「嘘だろ······」
自分のほうへと転がってくる瓦礫の群れ。とてもその数と大きさには、左右に跳んで避けることも敵わず、瓦礫と同じ方向へ走るも逃げ切れるとは思えない。ジャックは、壁のように押し寄せる石が一つ一つ跳ねながら、殺意を持って襲ってきているような錯覚に陥りながら、どうする、どうする――と、刹那の間に思考を巡らせる。
しかし、その一番手前で襲ってくる大きな石が地面を跳ねるのを止めて転がるのを見た時、ジャックに船での経験が甦る。それは、あの銛を持った魔物――ギルマンに追い詰められた時のこと。
「くっ······!」
ジャックは急いで足に魔力を込め、像の左足を蹴っては高く跳び、さらに、転がる一番手前の大きな石に足を飲まれぬよう素早く蹴って跳ねると、欠けた像の左足へと転がるように跳び乗った。
だが、ジャックはまだ動きを止めない。
元の自分の力で足に力を込めると祭壇側へ走り、像の左足から飛び降りる。そして、転がるようにして三点着地しながら、自分の身長よりも高い位置から飛び降りた際の勢いを軽減。
「はぁ、はぁ······」
なんとか無事、埃が付いた程度の着地で済んだジャックは、自分の居た場所を見る。石像の左足は瓦礫の群れによって砕け、群れが通った後の床は凸凹に抉れていた。
「あっぶね······」
腕を飛ばすのが大砲なら、群れのほうはまるで散弾銃。近距離でも逃げ場が完全でない時は気を付けねば、とジャックは反省。魔法を未熟ながら駆使して攻撃を避けたジャックは、改めて自分が命の窮地に立たされていることを思い知る。
しかし――、
「······でもこれで、後は腕を飛ばさせるだけだな」
もう少しだけその危険の中を駆けねばならないものの、逃げ場がより確保されたこと、これ以上の攻撃がないだろう――と思うジャックには、今度こそ行けるという確信のようなものが生まれていた。
「大丈夫!?」
「あぁ、問題ない」
そうして、いつの間にかさらに一つ後ろの像へ移動していたミーナに無事の合図を送ると、ジャックは、修復中のゴーレムの前を通って片足だけの像の前へ立った。今度は敵と距離も取って。
その後、修復を終えたゴーレムが、ジャック達の狙い通りと言わんばかりに腕を縦に振り右腕を飛ばす。ジャックはすかさず像の陰に隠れるジャック。腕の軌道、当たる位置などを予想して考えると、遠くへ逃げる必要がなかった。
そしてその読み通り、敵の攻撃は石像の一部をかすめ、残りはその勢いのまま壁へ衝突。弾けるように石が散るも、砂埃がジャックの元まで流れ、視界と敵の姿をボヤかすだけだった。
「どうだ、ミーナ!?」
「待って! ············いいわ! 後はそのまま倒すだけよ!」
「オッケー」
よし。と、心でも思うジャックは、視界が晴れるまで像の陰で一息つこうとする。だが、
「ジャック! 来るわ!」
突如、砂埃で姿の見えぬミーナが声を上げる。ジャックは即座に、何を指しているか察した。先程のゴーレムが、もう片方の腕で攻撃を仕掛けようとしているのだと。案の定、像から顔をサッと覗かせると、ボヤけた黒い影のゴーレムがこちらに振りかぶっているが見える。
すぐさま魔法を使い、砂埃の中をジャックは駆ける。行く先は見えぬが、おおよその像の配置、また、先に聞こえた幼馴染の声の方角を頼りに転ばぬようにだけ気を付けた。そして、
「こっちよ!」
そのまま駆けぬようとした時、左から声が。
急いで横へ切り返し、そこへ隠れるジャック。
「よく分かったな、俺が通るって」
「サーチを使ったの。あの子ほど読めないけど、動いてるあなたぐらい動きで分かるわ」
やや気に掛かることもあるが「そりゃどうも」と、今は先に居た場所――ゴーレムのほうを集中するジャック。そして、像からそっと顔を覗かせようとした瞬間。これまでのように、ドオオオォン、と大砲のような爆発音が鳴り響く。ゴーレムが攻撃したに違いなかった。――と、同時だった。
「上手くいったわ」
ジャックが先まで居た場所――その上のほうを覗くと、砂埃から飛び出た石像が徐に、ミーナの計算通りゴーレムのほう傾いていくのが見える。そして、それが砂埃の中へ消えると共に揺れと落雷のような轟音が。ジャック達は再び、いま居る像にピタリと背をつけ、小石や砂埃などが隣を通り過ぎていく状態が収まるのを待つ。
「やったか?」
「恐らく」
そうして、二度目の腕を飛ばした敵が追撃してくる可能性は薄いため、もう少しだけ砂埃が収まるのを待ちながら、
「けど、よく分かったな。この砂埃の中、像がちゃんと敵のほうに傾いてるって」
「フィリカにも確認してもらったの。傾いてるおおよその方向と敵の位置を――床のマス目を使ってどんな状況か」
「ふーん、なるほど」
ジャックは、そんなこと出来るのか、と思いながら、足元の互い違いに重なる長方形を改めた。全て均等に測られたような大きさのマス目だった。
「それと、相手が腕を飛ばしてくるのに気付いたのもあの子よ」
「へぇ、だいぶ遠くだろうによく分かったな。魔法でだろ?」
「えぇ、あの子も密かに成長してるみたい」
「そっか。まぁ、サンキューって伝えといてくれ」
「はいはい」
そしてミーナは左耳に手を当てる。――と、その時だった。
フィリカに伝言をしたであろうミーナがパッと目を開く。
「どうした?」
「赤いモノ——恐らく核よ。それが肉眼で確認出来たみたい」
「ホントか!?」
「えぇ。でも――」
と、向こう側の彼女と会話するミーナ。程なくして、
「残念だけど割れるまでには至ってないみたい」
「そこまでは流石に厳しいか」
「そうね。けど――」
ミーナは、白い丸薬を取り出して飲む。
「今なら直接、攻撃を仕掛けられるわ。修復される前に行きましょう。あなたの剣と身体強化で、もしかしたら壊せるかもしれないわ」
「いける可能性は?」
「二割ってとこかしら。あの像を食らって割れないんだから」
「あぁ、そうか······」
「でも、そこはやってみなきゃ分からないわ。とりあえず行きましょう」
「りょーかい」
報告を聞いたジャック達は、少し落ち着いた砂埃の中をどこか焦るようにして走り、ゴーレムの元へ向かった。