表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/91

オアシス 後編⑤

 一方、隠れながら観察の指示を受けたフィリカとスライは、ゴーレムを警戒しつつ別の事を話していた。


「大事な像、欠けちゃいましたよ?」

「別に何十体とあるんだ。数体くらい壊れたっていいでしょ」

「スライさん、あまり信心深くないんですね······」

「御先祖さんにゃ感謝してるけど、あれはただの石像だしなぁ。石に感謝したってしょうがないでしょ?」

「んー、そういうもんですかねぇ?」

「そうそう。だから——フィリカちゃん! くるぞ!」


 その声と同時に顔を引っ込め、陰に隠れる二人。像の左足に隠れていた二人だが、その手前の右足にゴーレムの切り離された左腕が衝突。つぶてと砂埃が止んだ頃、二人はそっと顔を出す。


「すごい威力ですね······」

「向こうの見ちゃいたけど、こいつはとんでもないね······」


 フィリカ達が寸刻前に居た場所――先程まであったはずの像の右足はジャック達の居た像同様に粉砕していた。


「ありゃ確かに、マトモに食らったらアウトだな。······ん? まずい! もっかいくるぞ!」


 ゴーレムはジャック達の時とは違い、もう一方の腕を飛ばそうとしていた。今から普通に逃げては間に合わぬと、短いながらも兵士としての経験で瞬時にそう思ったスライは、ポケットに入れてた薬を急いで飲み、フィリカを脇に抱えて後ろへ走りだす。


 そして直後、放たれる右腕。響く爆音。


「······あ、ありがとうございます」

「······はぁ、はぁ。二発目はちょっと、予想してなかったな······」


 ミーナの渡した薬のおかげで間一髪、後方の像へ移動した二人は、なんとかその攻撃を回避。もし薬が無かったら、片方または二人共怪我をしていたに違いなかった。


「ふぅ······流石に三発目はないか······」


 と、一度ミーナの魔法を経験しておいてよかったと思うスライは安堵をの息を吐く。――が、その時、


「ん?」


 そうしてゴーレムのほうを見ているとそちらがやや暗くなり、直後、何か崩れるような轟音と共に地震のような揺れ。同時に二人の居る場所にまで、つぶて混じりの砂埃が舞う。


 しばらくして、それは静かになった。


「なんでしょうか······?」


 二人はそっと顔を覗かせると、槍を持った石像が、自分達の逃げた方向と逆へへ倒れていたことを知る。三度目の轟音と硬い大地を揺らしてたのは、その両脚を失った石像だと。


「こっちに倒れなくて良かったですね······」

「あぁ、ホントにね」


 石像の陰に隠れて、像が倒れる様子など視界に入っていなかった二人がこうして安堵出来たのは、直前に右脚を先に失い、像の重心があちらへズレていたおかげだった。フィリカは同じような――片足を失った像があるジャック達のほうを見る。


「あちらは大丈夫でしょうか······? 同じように足が壊されてましたけど······」


 フィリカは向こう側に目を移す。――が、直前の倒壊による砂煙で良くは見えなかった。


 するとその時、フィリカの頭に声が響く。


(フィリカ!? フィリカ、聞こえる!? 大丈夫!?)


 頭に響くその声は、顔が見えなくても焦りが見えた。


(はい、大丈夫です。スライさんのおかげで二人とも怪我ありません)

(そう······よかった······)


 安堵の声がフィリカに伝わる。しかし、すぐ嘘のように、


(それで、直後で悪いんだけどね。聞いて欲しいの)


 その声は落ち着いた真剣なものに変わった。


(どうしました?)


 それを受け取るフィリカも真剣に耳を傾ける。


(作戦が決まったわ)

(おぉ、どんな作戦ですか?)

(さっきあなた達のほうを見て浮かんだんだけど、こちらの像も倒して、それをゴーレムに当てようと思うの。攻撃は、離れていれば腕だけのようだからそう難しくないと思うわ)

(難しくないって······)


 微塵も冗談ではない雰囲気でとんでもない作戦を話すミーナ。その様子に、信頼の固いフィリカも流石に不安と怪訝。


(そんな上手くいくでしょうか?)


 すると、向こうの彼女は失敗のケースなど全く感じさせない整然とした声で、


(今のままじゃ難しいでしょうね。だから、少しでも命中する確率を上げるため、敵の位置を移動させたり、像を軽く削って微調整するつもり)

(それで、重心が敵と一直線になってから倒すと······)

(そう。とりあえずやってみるけど、もちろんあなた達につぶてが飛ばないとも、もちろん攻撃がいかないとも限らないわ。だから、あなた達は引き続き後ろに下がって敵の様子を窺って、もし何か気付いたら連絡して。······もうゴーレムの修復が終わりそうだわ。少し、こちらに集中するから連絡出来ないけど、よろしくね。お互い怪我のないように)

(はい、わかりました。ミーナさんも気を付けて)


 そうして、ありがとう、という言葉を最後に彼女の声は響かなくなる。フィリカはひとまず、もう一つ後ろの石像へスライを連れていき、今しがた受けた報告と作戦を彼にも伝える。しかし、やはりフィリカが最初に感じた時のように、動向を見守ろうと像の陰から顔を出しながら、


「んー、上手くいくといいけどなー」

「ですねぇ······」


 フィリカも続いて顔を出す。――と、ここで一つの疑問が。


「ねぇねぇ、フィリカちゃん」

「――? なんです?」

「像を軽く削るって言ったけどさ、どうやって削るの?」

「あっ······。あー、それは······どうなんでしょう?」


 方法は一つしかないのため、それに苦笑いで「まさか」とフィリカとスライが同時に気付くが、その頃にはもう対面の二人は動きを始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作はじめました。
宜しければこちらもお願いします。

《出遅れ魔法使いとなった俺は、今日も借金を返すために少女とダンジョンへ潜り込んでレアアイテムを探索する》

小説家になろう 勝手にランキング
↑よければ応援クリックお願いします。一日一回可能です。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ