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オアシス 後編④

 先程と違い、そこは白の明かりに染められていた。入り口からすぐには薄い石段があり、その段の上――通路の左右には見上げなくてはいけないほど大きな石像がズラリと奥まで、豆粒になるほどに並んでいる。


 それほどに『祈りの間』は広大だった。

 

「ここはまた一段と明るいな」

「地下というのも忘れそうね」

「この明かりや像も、正に『祈りの間』という感じですね」


 そして、階段を登ったジャック達が目指すのは最奥の祈祷場(きとうば)。その場所までを、立ち姿をする――右手に槍を持つ、仮面を被った石像の合間を通って歩く。


「これは彫り出したんでしょうか? 人に見えますが······」

「ザバの人の御先祖かしら······」

「昔は、ザバの長から仮面を受け取ると一人前って言われてたそうだ。その名残だね」

「今はその文化ないのか?」

「あぁ。昔、一人前、一人前じゃない人間との間で、村が二分される程の諍いがあったらしくてな。そんなくだらないことで争いになるなら必要ないと、当時の長が撤廃したそうだ」

「へぇー」

「だから今は、先祖に感謝するって意味だけで存在してんだとか」

「“だとか“って、どっか他人事だな」

「実感ねぇからな、仕方ねぇよ。記憶も経験もないのを素直に信じろってのが無理あるだろ?」

「まぁ、確かにな」


 フィリカは「それは二人がいい加減なだけでは······」と呟いていたが当人の耳には入らず。


 ともあれ、四人は歩きながら辺りを見渡してゴーレムの存在を確かめる。――が、祈祷場までの道には、所々、欠けた石像の一部が散らばっているだけで、それらしい姿は確認出来ない。


「駄目かしら······?」

「奥まではまだまだあるし、そこまでは行ってから結論を出そう。ガッカリするのはその後でもいいでしょ」


 そう言ってスライは一同に暗い影が落ちぬよう声を掛ける。ただ、少し笑みの毅然とした態度であるものの、彼に不安の色が無いわけでもない。ミーナとフィリカは気付かないものの、その色は細い糸のようには滲み出ていた。


 その時は砂を掘るしかねぇしな。

 そう思いながら、ジャックは同期を一瞥しては歩き続けた。


 それからも、長方形の石が組み合わされた床の上を歩き続ける。奥に行くほど像の損傷が激しく、必然と警戒感も増す。通路にある破片を避けながら、左右に退けられた残り破片も目に入れつつ進んだ。


「にしても、こんなバラバラになるって何があったんですか?」

「俺の爺さんの代――前回のゴーレムで破壊されたもんらしい。これでも、だいぶ綺麗にはしたほうなんだってさ」

「あの石とか、男数人でも動くか怪しそうだけどよく運んだな」

「ザバの男は力だけは自慢だからな。確かに馬鹿みたいに重いだろうけど、数人いればなんとか押すぐらい出来たんだろ」

「それで、ちょっといい加減に置かれてるのね」

「そういうこと」


 そうして、砕いて運べそうなものなのにな。と、それ等を見ながらジャックが思っていると、いよいよ祭壇が見えてくる。


 幾何学模様が広がる壁の中に掘られた、やや大きめな祭壇の前には供物を置くための、全く欠けのない台座。また、その前の床にも同じような模様。壁はゼンマイのような絵だが、しかし床のこちらは六芒星の魔方陣のようだった。そしてその周り――六芒星の陣の上にもこれまで同様に瓦礫が散らばっている。


「おかしいな······。普段ここだけは片付いてるはずなんだが······」


 一旦立ち止まっていたスライは、そう言いながら再び歩みを進める。だが、その一歩を踏み出した時、


「待って」


 そんな瓦礫の中に、不自然に集約した石の山を見つけたミーナが呼び止めた。彼女の指す視線の先――魔方陣の真ん中やや左に佇むそれは、これまで左右に見てきた石像の破片と同じもの積み重ねのように見える。そのため、ジャックは確かめるようにミーナを改めた。


「あれか?」

「かもしれないわ······」


 だが、ミーナが静かにそう言った次の瞬間だった。


 コトコトコト······。


 ――と、その山の周りに散らばる石片が一斉に音を立て始める。


「――っ!?」


 四人は同時に身構えた。


「どうやら、お前の見込みは間違いなかったようだな······」

「そうね······」


 不気味に鳴り出した瓦礫。

 それらはあの、不自然な山の中心へと集まっていく。


 そして、四人の周りの欠片までがそこに吸い込まれるように一掃されると同時、それはむくりと形を作りながら立ち上がった。――のだが、


「おい······これホントにいけるのか······?」

「ちょっと、ここまでは······想像してなかったわね······」


 動揺隠せぬジャック等の前に現れたのは、これまでの左右に置かれた石像の半分近くはある――自分達の身長を優に超えた、手足が瓦礫で作られた、頭のない人間のような、巨大な石の塊だった。一目で、とても普通に太刀打ち出来るものではないと感じる姿。


「――っ!?」


 そして、その石の巨体は右手を振りかぶる。


「フィリカ! 魔法を――」


 だが、ミーナがそれを口にした次の瞬間――ゴーレムは既に右腕を振り下ろしていた。


「逃げろっ!」


 ジャックの声に、反射的に三人は一斉に離散。直後、轟音を立て、爆発するように叩きつけられた巨人の腕。


「くっ······!」


 なんとか直撃は避けたものの、敵の腕から飛び散る小石が、負傷させるでないにしろ、砂埃と共に勢いよく襲いかかる。それ等をミーナは、纏っていたケープと腕で防ぎながら、


「一旦距離を取るわよ! 各々、近くの石像の陰へ!」


 砂埃で姿が朧気の仲間に指示を送る。晴れぬ砂埃の中で聞こえる仲間の声。無事と、指示を聞いたとの確認をこちらに知らせる。


「大丈夫か、ミーナ!?」

「えぇ、私は。あちらも大丈夫そうね」


 ジャック達四人は、ゴーレムによって左右へ分断されていた。

 ジャックとミーナは通路の左、フィリカとスライは右側に。


 また――、


(聞こえる? 怪我はない?)

(はい、ちゃんと聞こえます。無事です。ミーナさんのほうは?)

(こっちも大丈夫よ)


 避ける直前、なんとか指先で『コンタクト』を発動していた。互いの無事を間違いなく確認したミーナは、ジャックと共に近くの石像の陰に隠れ、ゴーレムを見ながら指示を送る。


(ひとまず、相手が腕を振り下ろす動作――それらしい行動が見られた時はすぐにその場を離れること。私達は魔法を使いつつ、少しずつ前へ行って様子を見るわ。何か見つけたり、気になることがあったらすぐに報告してちょうだい)

(分かりました。そちらも気を付けてください)

(えぇ、ありがと)


 そうしてフィリカに返事をして、敵を偵察するジャックの隣へ行き、敵のほうへしっかりと意識を向けるミーナ。


「どう?」

「さっきので腕が壊れたから案外チョロそうかと思ったけど、残念ながらすぐ元通りだ。け続けて手足を削るってのは無理らしい」


 ゴーレムはその場から動くことなく、振り下ろした際に曲がった片足をそのままに、自分の攻撃によって壊れた右手を修復していた。


「今、目の前に行けば修復を中断してくれたりするのかしら······。そしたら、徐々に削れるんだけど······」

「お前それ······“行ってこい“って言ってんのか?」

「相手の攻撃が読めるようになったらね」

「······それからならいっか。けどもしかしたら、近付けたとしても、そのまま相手にされず修復されるんじゃないか? それに反撃も食らうだろうし」

「その可能性も否めないわね。その時は、別の手を考えるしかないわ」

「なかなか、行き当たりばったりだな」

「仕方ないわ。今回、情報が少ないもの」

「意外と下準備、大事なんだな」

「当然よ」


 そうした頃、修復を終えるゴーレム。曲げた足を伸ばしては立ち上がり、こちらへとゆっくり歩き始める。


「とりあえず、やれる事はやってみましょう。まずは私がやるわ」


 まさか前線に一人で行くつもりでは――とジャックは思ったが、しかしミーナが飲んだのは赤い丸薬。炎の壁を作り、相手の視界を塞ぎつつ、炎でどうにか出来るか念のため試みるよう。


 だが――、


「――っ!? ミーナ! 離れるぞ!」


 オレンジの炎の中で浮かぶ、こちらを向いたゴーレムの影が右腕を振りかぶっていた。そしてそれだけで済めば良かったが、ゴーレムはあろうことにその腕を切り離し、振り下ろした勢いと共に石塊の腕を飛ばした。


 石像の左足――その陰に居たジャックは急いでミーナの手を引き、そのまま転がるように石像の右足の影へと跳ぶ。


 直後、後方で響く爆音。


「そういうのも、ありなのね······」


 石像の脚に当たったゴーレムの腕は、その像の左足を奪うと共に見事に砕け散っていた。あのままそこに隠れていたら足の破片に押し潰され、怪我では済まなかったと思い知らせるように。そのため、立ち上がるジャックとミーナは、ゴーレムが修復をする間に念には念を込め、もう一つ後ろの石像へ移動。


(フィリカ、聞こえるかしら?)

(はい、大丈夫です)


 ミーナは、フィリカとの距離が思いのほか離れてしまったため『コンタクト』が繋がらないかと思ったが、ギリギリ届く距離のようで息を吐いて安堵。そして、今起こった出来事を共有した。


(ゴーレムは腕を切り離せるみたい。おまけに、こちらの場所も視覚じゃない何かで分かるようよ。だから、物陰でも安心しないよう一人は目を離さないようにして。あなた達も、敵から遠いほうの“足“に隠れて、二段構えに隠れたほうがいいと思うわ。今はそれだけで)

(分かりました)


 ジャック達の位置から、像の左足へと移動するフィリカとスライが見える。再び、お互い敵を観察することに専念。


「それにしてもあなた。よく、さっき敵が攻撃してくるって分かったわね」

「別に、離れてんのにこっち向いて腕を振り上げるから“もしかして“と思っただけだ。その勘がたまたまな」

「たまたまね。まぁけど、その勘に助けられたわ。ありがと」

「いいよ、今は。それに感謝なら“魔石“を手に入れてからだ。俺等の目標はそこだろ?」

「······そうね。じゃあ、次から感謝しないから」

「語弊招く言い方だな、おい······」


 ジャックは呆れながらそう言っては、幼馴染から敵のほうへ視線を戻す。


「ともあれ······さっきより修復に時間掛かってるか?」

「そうね。一定の大きさにしか戻らないようにも思えるわ」

「組み込める石の大きさや範囲も限られてるんじゃないか? ほら、さっきの場所に飛ばした奴は割りとそのままな気がするし」

「······本当ね。それに大きな障害があると組み込めないようよ。――ほら」


 ゴーレムが先程飛ばした右腕の破片。それは破壊された像の左足の一部に引っ掛かり、カタカタと音は立てるものの、再びゴーレムの元へは至らなかった。


「じゃあ、奴が組み込める石を全てあの後ろに運ぶなんてどうだ? そしたらいつか取り込めなくなるだろ?」

「バカ。あんな重そうなの四人で何度も運べるわけないでしょ? それにどんだけ時間掛かると思ってんの。その間に攻撃されないこともないのに。もし、その障害物が途中で壊されたらまた運ばなくちゃならないのよ? もう少しマトモなの考えて」


 矢継ぎ早に繰り出される叱責に、ジャックは怒って言い返すでもなく「割りとマトモに考えたんだけど······」と傷心。ミーナは面食らったように目を丸くしてそれ以上、その提案については何も言わなかった。


「ま、まぁ、それは置いといて······修復について他に何か気付いた?」

「いや、今んとこそれくらいだな」

「そう······。ちょっとフィリカにも聞いてみるわ。敵のほうをお願い」

「あいよ」


 そうしてミーナは片方の耳を塞ぐように手を当て、向こう側にいるフィリカに『コンタクト』で尋ねる。それから、何度かひとりで頷いた後、


「······修復範囲は像と像の間ほどらしいわ。ざっと、半径四メートルってとこね。あと、大きさや距離によって引き寄せれる時間も速度も変わって見えるって。近くにあるのは同じ大きさでも引き寄せるのが速いみたい」

「なるほどな。じゃあ、あまり近くで避け続けても、剥がす効果は薄いってことか」


 ミーナは「そうなるわね」と、再び相手のほうを見てはしばらく作戦を考える。しかし現状、それらしい策はこれといって浮かばない。そのため、そのジリ貧の現状につい、


「“全員で欠片を運ぶ“っていう、あなたの人海戦術も悪くないかもしれないわね」

「何言ってんだ、散々文句言ってたくせに」

「このまま手が見つからなかった場合を言ってるのよ」

「分かってるよ」


 幼馴染を一瞥したジャックは鼻で笑って一蹴。


「まっ、ともあれ······今はそうならないよう観察ってとこだな」

「そうね。今はもう少し相手の動きを知りましょう」


 ミーナは現状これといって有効な手立てが見つからないため、今は自分達も敵の攻撃に警戒しつつ、石像の陰からゴーレムを注視することをフィリカに伝えた。

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