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オナジ②

 ジャック等は南東地区にある船着場から川を下り、河口にある港——ウィルドニア港で、さらに大きな木船へ乗り換えることにしていた。そしてその港で、


「デカイですねー」

「ホントねぇ」

「よくこんなの作ったな」

「そっか、三人ともこういう船は初めてか」


 四人の目の前にあったのは、全長二十メートルにも及ぶ、大きな帆船。普段、街で乗るような小船の、五倍は優に超えていた。錨を下ろして停泊するその船は巨大なマストを備え、帆は畳まれてこそいるが、それでも山のような大きな存在感を示している。


「サンタマリア号ってんだ。魔物の襲撃を受けても沈んだことはない名船だ」

「へぇー、すごいな」


 その時、見上げてはそう声を上げていたジャックが、船の横に出ている鉄塊に「ん?」と気付く。


「おい、あれ見ろ! 船に大砲が乗ってんぞ!」

「わぁ、ホントですね! あんな重そうなのに軽々と!」

「あれで魔物の襲撃に備えるのね」

「そっ。全部で十門。反対と前後にもあるんだ」


 ジャック達から見える位置――右半分には大砲が三門。そして前後にも二門ずつ見られた。


「それに船を操る乗組員は腕っ節が沢山いるんだ。だからもし仮に船の上まで襲撃されても安心、ってわけだ」

「なるほどねぇ」


 スライの説明に、ジャックのように皆が納得の意。そして、そうしたところで、


「んじゃ、行こっか」


 スライはその船の乗り場を指差して言った。


 二度折れた石の階段。そこを上っていった所に船に乗る、木のタラップがあった。そしてその傍にいる一人の男が、客から金を受け取っては船へ通しているのが見えてくる。船賃を受け取るクルーだった。


「何人だ?」


 スライが「四人で」と告げ、貨幣を渡す。お互い淡々とした感じではあったがそれが通常。男は「いいぞ」と、親指で後ろの船を指し、乗り込みの許可をする。


 すると、


「わぁ、行きましょう! ミーナさん!」

「こら、フィリカ。あんまはしゃがないの」


 と、先に船へ乗り込むミーナとフィリカ。しかし叱ってはいるものの、ミーナのほうも楽しそうな早足。


 そんな二人を何気なく見送るジャックとスライ。


 彼女等の楽観さはさておき、続いてジャックが一時的に作られた木のその道を渡る直前、スライが「そうだ、ジャック」と、あることを明言する。


「先に言っとくけど、俺は親友の大事な子には手出さないから安心しろよ?」


 その言葉にピタリと止まるジャック。そして徐に上体だけを捻り振り返っては、タラップの道を塞ぐように立ったまま素っ気なく、


「······なんだよ、急に」

「いや、念のためだろ。お前なんだかんだ心配性なとこあるから先言っとこうと思って。まっ、あの子は可愛いけど、俺はもうちょっと年上の方がタイプだって話だ」


 彼はそう言うと「まっ、とりあえず乗るか」と、ジャックの大きな荷物を叩いては船の方へと進ませる。後ろには乗るのを待つ人の列が出来始めていた。そんな列に目をしてジャックは、


「別に心配してねぇし、てめぇの好みも聞いてねぇ」


 と、やはり不自然なほど不機嫌に素っ気なく、身体を戻しては船の方へ進んでいく。その作った冷めた調子に、後ろの親友は楽しそうにニヤニヤとしていた。それにジャックが気付くことは今はなかったが。


 そうして二人も乗り込んでから数分後、サンタマリア号はザバのある――水平線の向こうを目指して出航した。





 潮の匂いにも鼻が慣れ、心地よい海風とカモメの鳴き声が時折船上に響く。


「のどかですねー」

「そうねー」


 デッキにいるミーナ達はへりに腕を置いて、風を浴びながら水平線を眺めていた。景色を見て楽しそうな彼女等だけを見ると、どこからどう見ても観光にしか見えなかった。


 すると、そんな二人に目を向けるスライが、


「お前も眺めてきたらどうだ?」


 と、彼と同じように胡座をかいて、今は荷物も船内へ運んで、マストへもたれるように休んでいたジャックへ話し掛ける。そんなジャックは一度「ふあぁ」と欠伸をして、


「いいよ、別に。んな焦らなくたっていつでも見れんだから。それに船の上だけで二日過ごすって言うんだしさ、んなはやく見てもやることなくなるだけだろ?」

「まぁな。でもお前、この景色だってまたあの子等と見れるとも限らないんだぜ? 魔物がいるこの世界じゃ、いつ何があるとも限らねぇんだから」

「それは分かってるけどさ――」

「だから、大事なのはその景色だけじゃなくて、その景色を誰と見るかってことだよ。まっ、二日もありゃ、その同じ景色を見る時間も、嫌でもあるかもしんねぇけど」

「結局、どっちでもいいような言い方じゃねぇか」

「強要なんて疲れるだけだろ? だから俺のは提案だよ。ただ単純に見てきたらどうだ、っていうだけのな」

「良いこと言ってんのかいい加減なのか、分かんねぇな」

「良いことだろ、どう考えても」


 そうして、スライは左膝を立てた体勢に変えると、その膝の上に手を置く。そんな彼を横目に、ともあれ強要はもう慣れてるけど。と、景色を眺めている彼女を思い浮かべるジャック。――と、それを思った時、ジャックはふとあることを思い出す。


「そういえばさ、スライ。お前、あの部屋で初めてミーナと話したんだよな? 割りと普通に話してたけど」

「ん? 嫉妬か?」

「ちげぇ。ほら、あれでもあいつ大分上の人間だからさ、俺等兵士の時なんて上の事は絶対だったろ?」

「あぁ、それか」


 と、スライは船上へ目を落とす。


「前もって司令官に言われてたんだよ、部屋の前で。『責任者の子、君と同じ年だからそんな遠慮しなくていいぞ』ってな。同い年かよって最初は驚いたけど······まぁともあれ、流石に司令官とあの子じゃ、どっちの言われたこと優先するか決まってるだろ? 兵士的に」

「······まぁ、たしかに」


 ジャックはそう言ったが、いま同じ立場で考えた時、ふと、彼の言う『あの子』を優先していたことは伏せた。それは遠慮しないという意味ではなく、単純にどっちを優先するかというもので。


 そして、その彼女の話題が出たことで、そんなジャックの心中を見透かしたかのように、隣の彼は急に話題を変えた。


「――で、あれから何があったんだ?」

「なにが?」

「傷心してた時だよ、この前の」

「あぁ、あれか······」


 ここしばらく忘れていた苦々しい気持ちを思い出してジャックはふとデッキに目を落とすが、先までそこを見ていた彼のほうはすっかり興味の目をしていた。


「なんでそんなこと聞くんだ?」

「いや、どんな気付け薬もらったかと思って」


 それで、ようやくその、自分を見る興味の目に気付いたジャックは、相手にするのが面倒だとでも言うように顔を背ける。――が、


「別に、背中押されただけだよ。あいつに」


 そうボソリと言ったジャックの視線は自然と、船の外に広がった海原を楽し気に眺める、赤い髪を後ろでピンで纏めた、あの彼女の方を向いていた。そして、そんなジャックを見るかつての仲間の兵士は、


「ふーん」


 その横顔を、より一層興味の目でニヤニヤと見ていた。それにしばしして気付くジャック。


「······なんだよ」

「いいねぇー」

「なにが」

「微笑ましいねぇ」

「どこが」

「若いねぇー」

「当たりめぇだ」

「単純だねぇー」

「うるせぇ、黙れ」


 いよいよジャックは、スライの肩を拳で思いっきり殴りに掛かる。だが、まるで効いてないというように彼は続ける。


「こっちは命懸けだってのになぁー」

「俺だって死にかけてるわ」

「楽しそうだなぁー」

「こき使われてるだけだわ」

「俺も幼馴染欲しいなぁー」

「勝手に作れや」


 すると、その言葉を待っていたかのように、


「おっ? やるとは言わないんだな?」


 再びニヤニヤと、ジャックを興味の目で見るスライ。すると、ぐぬぬ······、と苦虫を噛み潰したような顔をするジャック。そして堪らず「このやろう」と身体を起こしては、今度はのし掛かるようにして、彼を叩きにかかる。


「いてっ、いてぇ」


 しかし、それなりの強さで殴られているにもかかわらず、スライは本気で痛そうではなかった。――と、そんな船の上でじゃれ合う二人の元へ彼女等が戻ってくる。


「ちょっと、あんま暴れないでよ。恥ずかしい」


 その彼女の言葉でようやく手を止めるジャック。周りでは、同船している旅人や商人がキョトンとしたように注目していた。のし掛かるようにしていたジャックは、鼻から強く息を吐いて身体を離す。そうしたところで、


「ゴメンゴメン。こいつやっぱ面白くてね、つい」


 と、寝転がるまで叩かれていた彼は上体を起こして、笑いながらジャックを指差す。まだ不満の、睨みの視線をジャックから浴びながら。すると、そんな二人に向け、


「本当に仲いいんですね」


 と、フィリカ。そして、


「ちなみに、一体何の話をしてたんですか?」


 悪意ない単純な質問――だったが、服の埃を払っていたスライはこの機を待っていたかのように「おっ、聞きたい?」と目を楽しげに見開いた。そして、


「えっとね、それはこいつが——」


 しかし、当たり前のように話し出した彼に、今度はジャックの本気の拳。ついに甲板へと吹き飛ぶように転がるスライ。それに追撃を食らわすよう、鼻を鳴らしては歩み寄るジャック。――と、ここでようやく、


「わりぃわりぃって! わかったわかった言わねぇから。悪かったって」


 縁へ背を付けて右手を前に伸ばしながらスライは謝った。彼は全然痛がる様子もなく笑いながらではあったが、ただそれでもそうしてちゃんと謝ったことで、ジャックは肩で息をしているものの手を収めて身体を翻す。


「ジャックがこんな取り乱すなんて珍しいわ」

「ほんとですね。ここまでくると、逆に気になるくらいです」


 驚いた顔のミーナと、呆気に取られるフィリカ。二人は興味のつもりで言ったわけではないのだが、しかしその顔はジャックの影にいる彼には見えておらず、言葉を額面通り受け取った彼は、


「やっぱ聞きたい?」


 反省の色を感じさせぬ様子で、身体を少し横へ傾けてはミーナ達を見る。彼女等は少しそこで興味が沸きかけたが、だがしかしそれよりも速く、すぐにジロリと、ジャックによる無言の圧力がスライに。これ以上話したら蹴り潰すぞ、とでも言うように。


 流石にそれを受けた彼は、


「うそうそ、残念だけどこの話は終わり」


 と、朗らかに、顔の前で手を振って、自ら話を終わらせた。彼は立ち上がりながら「にしてもお前、もうちょっと手加減しろよ」と、服全体に付いた埃を払い落としていたが、それにジャックは「全然痛がってねぇくせに何言ってやがる」と、また鼻を荒くフンと鳴らした。


 そうしてミーナ達の元へ戻り、マストにもたれるように居住まいを正す二人。その側で、向かい合うように彼女等も座る。そしてスライが、


「もう景色はいいの?」

「えぇ、先は長いもの。そんな焦らなくたっていつでも見れるわ」


 不意にも、先刻聞いたのと全く同じ言葉に思わず「そっかー」と言いつつニヤけるスライ。ミーナは若干、首を傾げて怪訝にしたが詳しくは聞かなかった。ちなみに、隣のジャックはそれに気付いたものの、敢えて今回はそれを見過ごしていた。


 ともあれ次に、全くそれらには気付いていないフィリカが、先のミーナの言葉に付け加えるように口を開く。


「綺麗ですけど、ちょっと変化が少ないんですよねー」

「そうなのよねー。時間を開けて見ないと飽きを感じちゃうわ」

「ですよねー」


 そう言ってミーナとフィリカは海上へ視線を移す。つられたようにジャック達もそちらを遠望。


 小さく見える二隻の船。太陽が照らす海面。跳ねる魚を狙う海鳥。空を泳ぐ羊の群れ。変わらぬままの水平線。いくら微量ながら形を変えているとはいえ、一日中じっと見ているには少々退屈なものだった。


 そうして、四人に同じような気持ちの沈黙が流れた所で、ミーナが「まぁいいわ」と話を仕切り直す。残る三人も目の前へ視線を戻した。


「それで、何の話をしましょうか? 折角だから交流も深めようと思うのだけど」


 ミーナはスライに顔を向ける。


「そうだねー。俺は聞きたいことが割りとあるけども······」


 ジャックとミーナを交互に見るスライ。一番聞きたい事はこれだったが、しかし片方から軽蔑のようなジト目。そのため、


「とりあえず、ミーナちゃん等がザバに向けて聞きたいことがあればかな。基本的に答えれると思うから何でも聞いて」


 と、スライは軽い調子で言う。――が、


「その内に、俺もミーナちゃん等に聞きたいことどんどん尋ねていくから遠慮なく言って――」

「ごめんなさい、ちょっといいかしら?」


 そのあまりに軽い感じから生まれた()()()()を気に留めたミーナが、思わず手を挙げて話を遮った。ジャックの『あれでも大分上の人間』という言葉が、一瞬スライの頭を過り、若干の焦りを彼に覚えさせる。――が、彼女の思ったのはそんな堅い事ではなかった。


「最初に挨拶した時もそうなんだけど、その『ミーナちゃん』ってのどうにかならないかしら? 私が同年代の異性に“ちゃん付け“で呼ばれるの慣れてないのもあるけど、それだとどうも私、あなたがチャラく見えて仕方ないわ」


 と、困り顔のミーナは顎に手を当て、主婦が夕食にでも悩むように言った。するとその時、それに乗っかるように、


「チャライさんですね」

「あら、上手いこと言うわね、フィリカ」

「でしょ? 私もやるなと思いました」


 と、急にいつもの調子の研究科。その、上下も忖度も気遣いもなさそうなやり取りに「君等、初対面でも遠慮ないのな······」と、一時焦りを覚えただけ無意味を感じたスライは苦笑い。いつもそれを感じているジャックは、へっ、と嘲るように静かに鼻で笑っていた。


 小馬鹿にされても、歯に衣着せぬ物言いをされてもスライは怒らなかったが、しかしともあれ、


「とはいえ、じゃあなんて呼ぼう?」


 ミーナの名を何と呼ぶか、という疑問は彼だけでは解消出来なかった。すると、ジャック達三人は顔を見合わせ、その内の二人が勝手に案を出し始めた。


「姉御」

「姉さん」

「もうちょっと違うのあるでしょ······」

「お嬢」

「姫」

「それも悪くないはないわね」

「鬼」

「悪魔」

「あんたら海落とすわよ?」


 本音が混じった呼び方には目を鋭くさせるミーナ。ただ、そうしていると、


「うーん、ミーナちゃんだから······ミナっちは?」

「なんか軽さ増してね?」

「増してますね」

「ん、そうか? ――どう? ミナっち」

「いいわ、可愛らしくて」

「いいのかよ」

「んじゃ、ミナっちで呼ばせてもらうね」

「えぇ」


 と、あっさり決定。ジャックとフィリカの心証が浮き彫りになっただけだった。そうして話は戻り、


「——で、ミナっちがまず確認しておきたい事は?」


 早速新しい呼び方に順応するスライと、それに応えるミーナは「そうね······」と、途端に、主婦のようではなく研究者のような面持ちで顎に手を当てしばらく考えると顔を上げる。


「ザバと、ザバへ行くまでがどういう所を通るのか、案内人としてのあなたの口から聞きたいわ」


 その、さっきまでとは打って変わった真剣なまなこにスライはやや面食らうが、すぐに顔を引き締めると「了解」と、ミーナに、真っ直ぐな兵士の顔付きで答えた。





 これからまず自分達が向かうのは『スーラ』という港町だということ。そして、そのスーラの東にある砂漠――『スーラ砂漠』の一角にある集落がザバということ。また、その道中のスーラ砂漠は大きな目印がない為、方角を間違えて死ぬ人も少なくないということ。そして砂漠は、時間と太陽の位置を頼りにしながら歩いて行くことをスライは話した。


「ちなみに、ザバの人間は大きな岩に穴を空けてその中で生活をしているんだ。集落の側にはオアシスもあって、そのおかげで水にも困らない」


 三人は同じように「へぇー」と声を漏らす。


「食料はどうしてるんだ? 当然、水だけじゃないだろ?」

「あぁ、もちろんだ。野菜や果物、魚は時折来る商人と物々交換で手に入れて、主食の肉は、オアシスの水を飲みにくる鳥や魔物を狩って食べるんだ。太陽で焼けるよう温まった石で焼いてな」

「うへぇー。美味しそうですねぇ」

「なかなか原始的だな」

「あぁ。狩りの仕方も投げ槍や石に、罠だしな」


 胡座のスライはそのままに、何かを投げる仕草。するとミーナが、そんな彼にふと疑問に思ったことを尋ねる。


「そういえば、砂漠の移動に乗り物は借りられないのかしら? あんな荷物だし、あれば多少助かるのだけど」


「そうだね······」と、スライは言うがやや浮かない顔。


「ラクダがあるにはあるけど、ほとんどが商人の持ち物でさ、借りられない事もないけど、足元見られて馬鹿みたいな金額提示されることが多いんだ」


 それを聞いてミーナは納得したように「そう」と嘆息。傍で聞いていたジャックも、スライがわざわざ遣わされるくらいだから、流石にそこまでの金はないんだろうな。と、国と司令官に溜め息。


「ちょっとぐらいタダで貸してくれたっていいのにな」

「しょうがないわ。あちらも商売だもの」


 ミーナは、まるで自分にも言い聞かせるようにそう諭した。


 そうしてミーナの質問が終わったところで、次はフィリカが挙手。それは『移動は太陽を頼りにする』という事に関するものだった。


「あの、どうして夜には移動しないんですか?」

「それは単純に危ないからだね。まぁ、星を頼りに進めない事もないけど、やっぱ明るい時ほど足元を視認しにくいから危ないんだよ。魔物以外にも、蛇やサソリに気を付けなくちゃならないからね」

「なるほど······」


 サソリという単語に苦々しい顔をするフィリカ。それを横目に見たジャックは、苦手なんだな、と苦笑い。


「まぁ、そんな出くわす事もないよ。それにザバの生き物は仮に出会っても、大抵あっちから逃げ出していくから、こっちから手を出さない限りそう怖がることはないよ」


 と、胡座から片膝を立てるように姿勢を変えながらスライは言う。そして、姿勢を変えたところで、


「それで、他にザバまでで気になることは、あるかな?」


 その質問に、旅が初めての三人は顔を見合わせる。


「なさそうかな?」

「そうね。大丈夫そう」


 そうして、ミーナが代表で返事をしたことで話に区切りがついた。すると「そっか」と返事をしていたスライが待ち兼ねたように急に目を爛々とさせた。


「んじゃ次、俺、気になったこと思い出したんだけどそれ聞いてもいいかな?」

「えぇ、もちろんよ。何でもどうぞ」


 ミーナの『何でも』という言葉に、ついジャックは素早く振り向いて先程の警告を彼に送った。――が、彼は、ちがうちがう、というように目で示した。そしてそれを証明するように彼は顔を、丸眼鏡を掛けてちょこんと座る彼女のほうへ向けた。彼の思うその質問――それは、ジャックもミーナも気になっていたが保留にしていたことだった。


「あのさ、フィリカちゃん。ずっと気になってたんだけど、フィリカちゃんってハイゼル司令官とどういう関係なの?」


 それにはジャックとミーナも、軽い調子で笑顔で尋ねる彼にやや不安を覚えながらも、よくやった。と、内心称賛の声。自分で聞くのと他人が聞いたのとでは、気持ちの面で幾らか無責任になれるからだった。


 そしてフィリカは、


「んー」


 視線を空に上げ、どう説明するかという顔。彼女を除く一同が待ち遠しいというように目を光らせた。


「そうですねぇ。ハイゼルさんと私は――」


 誰もが固唾を飲んでその先を待った。


 ――が、しかしその時だった。


 ガツガツガツガツガツガツッ。


 まるで何かが木に刺さるような音が四方八方から聞こえてきた。その異常な音に、


「なんだ?」


 ジャック達四人は話を中断して辺りを見渡す。


 船上では数人が船の側面を覗き始めていた。そして、その音の原因を発見した船員の一人が血相を変えて、デッキにいる全員に聞こえるよう裂けるような大声で叫んだ。


「全員、中へ逃げろっ! 魔物が登ってくるぞ!」

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