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英雄(ヒーロー)②

「ここなら問題なさそうね」


 三人が来た場所は訓練場の倉庫の奥をさらに行った、全く人気のない所。城の中とは言え、そこは手入れが行き届いておらず、木々が鬱蒼としていた。


 辺りをグルリと見渡すジャック。

 そしてふと思った事を口に。


「なぁ、さっきあんなこと言ってこう言うのも野暮なんだけどさ、お前は魔法を周知させたいのか周知させたくないのかどっちなんだ? 最終的には、魔法を使った日常が目標なんだろ?」

「どっちもよ。ただ、危険性の高い魔法を広めては駄目でしょ? それを自分達で本当に確かめたいだけよ。そのうち悪用する人間だって出てくるんだから」

「んー、まぁなー······」


 と、ここでジャックは何故か、ミーナとあの勇者との会話を思い出す。


『君の炎については?』

『それは機密よ』


「じゃあ、あの勇者達に言わなかったのは機密以外にもそういった理由があんのか?」

「そうねぇ」


 すると、ミーナは肘を抱えるように腕を組んでは頬に手を。そして、


「軍の機密ってのが一番だけど······」


 と、彼女はそこで言葉を止める。

 その先を少し言いにくそうにして。


「どっかあいつらに不信な点でもあったのか?」


 もしそうならそうで俺も憎みやすいけど。などと思いつつ、神妙な面持ちをしてジャックは彼女の言葉を待つ。それでもまだ、言葉に窮するミーナだが、やがて口を少し尖らせるとその理由を話した。


「怪しいほうの不審ではあるけど、だって彼等······よそうなんだもの」

「ん?」


 ジャックは途中が聞き取れず聞き直す。

 すると、今度はしっかりと、


「······影響力が強そうなんだもの、彼等」

「はぁ?」


 思わずあんぐりとするジャック。そして、ちょっとだけ言葉を強めては、


「なんだよ“影響力が強そう“って」


 と、頬から腕へ左手を移動するミーナは、


「だって、彼等が使い始めて広まっただなんて、私達が生み出した魔法じゃなくなりそうじゃない」


 すると、


「あぁ、それは確かに。そうなったら大問題ですね」

「でしょ? そんなの納得いかないじゃない」

「んな個人的な理由かよ······」


 そうするとその後、あの炭鉱での続きを話すように、その事で会話を始めるミーナとフィリカ。まともな答えを期待していたジャックは、もういいや、さっさと魔法試そう。と、こちらも自由に、貰った薬のほうへ手をつけることに。


 そして水を飲み、魔力を集中――しようとした時だった。


「あ、言い忘れてたけど」


 フィリカと対談する幼馴染の軽快な声が、その調子でジャックに言った。


「調子に乗ると身体吹き飛ぶわよ」


 ジャックの身体が不意にも固まる。

 ついでに、それを聞いていたフィリカも。


 二人とも話していた時の表情のまま固まっていた。この小さな森の何処かで、チュンチュンと鳥の鳴き声だけがする。そんな平和な一日を告げそうな鳥とは裏腹に、ようやく「え?」と漏らしたジャックは、


「い、いやいやいや、どういう事だよ。俺もう飲んじゃったぞ······」


 と、自分の前で手を振りつつも、恐る恐る尋ねた。すると彼女は、


「あぁ、少し大袈裟だったわ。でもその薬、ちょっと弊害があってね、いきなり全力で使おうものなら身体が耐えれなくて、骨折か筋肉の断裂を起こすの」


 と、軽い調子で。ただそれだけでも、なんちゅうもん渡してんだ。と、ジャックからは血の気が引いていく感覚。とはいえ彼女は平然と続ける。


「だから、今回は魔力をちゃんと調整しなきゃいけないの。炎より使う魔力は少なくて済むけど、その分魔力を操作する能力が炎より必要よ」


 と、この魔法は扱いが難しいといえる発言を彼女はした。だが、それは同時に正しく使えば問題はないということでもあった。


 それに気付くジャックは、


「じゃあそこさえ気を付ければ、身体がボロボロになる事はまずないんだよな?」

「えぇ。まずは、ね」


 と、ようやく安堵のジャック。しかしまだ不安なこと、魔法についてのちゃんとした内容を知っておいたほうがリスクは減るだろう、と思い始めていた。そのため、


「一応、どういうことか説明してくれないか? 魔法とモンスター、それが怪我に関係する訳を。それくらいの時間はあるだろ?」

「······そうね、分かったわ」


 そうして、ひとまず魔法の使用を中断したジャックは、彼女の前へ胡座をかくことにした。





 立ったまま腕を組むミーナは、自分の前に座る部下達に向けて説明をしていた。

 

「まず、今回私が利用した力は、あのモンスター――カヤクダケの爆発的な収縮能力なの」

「収縮能力?」

「そう。あなた達、あのキノコがどうやってトゲ飛ばしてるかは考えたことある?」

「んー、いま言われるまで特に何にも」

「私も、ただトゲを飛ばす魔物ぐらいにしか認識してませんでした」

「そう。でもそれに気付いたら次は疑問に思えるでしょ? この魔物がどんな力でトゲを飛ばしているのか、って」


 目から鱗のような二人は、ウンウンと黙って頷く。


「それが魔物の能力に気付く第一歩よ。——それで、少し話が逸れたけど、カヤクダケがトゲを飛ばすのは弓を引くようなものなの」

「弓を引くようなもの?」

「えぇ。体内で生成したトゲを頭にセットして、敵が来たらそれを筋肉で引っ張り、放つの」

「へぇ、あの魔物そんなこと出来るのか。魔物とはいえ、ずっと筋肉を入れてられるとはすごいな」


 すると、


「そこよ」


 そう答えたジャックに、ミーナが人差し指を向けた。


「あなたの言う通り、私もその可能性を考えた。筋肉を引っ張り続けているケースをね。けど、モンスターとはいえやはり、動物型のモンスターがそこに力を入れ続けるのはほぼ不可能と思えたの。――だから、私はそこに目星を付けたの」

「目星?」

「私達が持つものとは全く違う別の力。ドラゴンが炎を有するような――魔物特有の能力だとね。つまり何が言いたいかと言うと、カヤクダケはなぜ瞬間的に弓を引くことが出来るのか。勿論、筋肉で飛ばすことも可能でしょうね。けど、その威力はあの個体にしては大きく、それでは説明がつかない。······けど、そこまで辿り着くと後は簡単でね、例え文献だけでも、調べて考えてる内に消去法で『爆発的に筋肉を収縮させる』という結論に辿り着くの」

「つまり、それが······」

「そう、あのモンスター――カヤクダケの能力だってね」


 納得した部下の二人は「はぁー」と長い感嘆の声。


 上司がただいつも本を読んでは調べているだけではなく、その裏では、そういった可能性をも否定しつつちゃんと結論を導き出してることにも二人は驚いていた。改めて、彼女が新しい部署を作るほどの人間なんだと思い出す。


 と、ここでフィリカが「ミーナさん」と質問の挙手。上司は「なに、フィリカ?」と柔らかな口調で言っては耳を傾ける。


「トゲの麻痺なんですが、あれはモンスターの能力には当たらないんですか?」


 ミーナは顎に指を当てて「そうね······」と少しだけ悩んでは、


「能力といえば能力だけど、あれは生成されたトゲそのものに付随するものでね、どちらかと言えば魚の毒棘どくきょくみたいなものなの。身を守る剣や鎧、そういった装備みたいなものかしら?」

「本体そのものが秘める力というわけではない、ということですか?」

「そうね。人で例えるなら共感覚シナスタジアは魔法に繋がるけど、剣は繋がらないってとこかしら」

「おぉ、なるほど。よく分かりました」

「ふふっ、伝わって良かった」


 と、彼女等は当たり前のように話すが、聞き慣れない単語が幾つか出てきてやや置いてけぼりのジャック。そんな幼馴染の様子を見たミーナは、


「それで······後はどうして怪我をするかって話ね」


 と、フィリカの疑問も解決したため元の話題へ。


 すると彼女は辺りを一度見回しては歩き出し、二十センチ程の細い木の枝を拾いに行く。そして、それを手に「例えば」と言って戻ってくると、


「あなたは訓練で使ったことあるだろうから知ってると思うけど、弓っていうのは、つるを引く力が強ければ強いほど威力は強くなるわよね?」

「あぁ、そうだな」


 そうすると突然、ミーナは徐に二人の前でしゃがむ。そして、


「けれど――」


 持ってきた細い枝を地面に立てては指で挟み、支えるようにしては枝をしならせていく。


「その力も、本体の許容を超えるほど強いと······」


 ここで、指でしならせていた枝がパキッと折れた。

 ミーナはそれを拾って、二人に見えるよう掌に乗せる。


「本体が壊れてしまう」


 限界を越えた木の枝は、折れた箇所を不規則に尖らせながら、中の白い幹を剥き出しにしていた。――と、それを見たジャック。


「あぁ、なるほどね。つまり、調子に乗ってたら俺がこうなるってわけか」

「そういうこと」


 ミーナは立ち上がりながらそう言うと、調子に乗って折れたその木の枝を、蔑ろにポイッと後ろに放り投げる。


 そして、それを見ながら立ち上がっていたジャックは、


「つまり、弓が身体でつるを引くのが魔力、矢がその威力って辺りかね」

「まぁ簡単に言えばそうね」


 と、ミーナは腕を組んでは理解をした部下へ、久々の顎を上げて見下したような笑みを見せた。しかしそうするも、また普段の表情へ顔を戻すと、もう一つだけ忠告を述べる。


「でもそれはそうと、いくら調節したって筋力に魔力を加えるということは、本来備わってる筋肉の収縮速度を超えることも意味してるの。だから、いくら小さな魔力でもそれを超えた分は負荷が身体に掛かるから、それだけは念頭に置いといて」


 少しだけその意味と想像はつかなかったものの、とりあえず調子に乗らなければ大丈夫だということを理解していたジャックは「あぁ、わかった」と大きく頷いた。そして、その幼馴染の自信に満ちた首肯を見た彼女は、


「それじゃ、そろそろやってみましょっか」


 と、小さく笑って、フィリカと共に距離を取った。

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