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東雲(しののめ)③

 作戦はシンプルだった。ジャックが先頭に立ち、縦一列となって、身体が隠せるほどの大盾でトゲをガード。フィリカが敵の位置を伝え、ミーナが石で相手を刺激。ただそれだけ。一つ変更点があるとすれば、炎で刺激するのが石になった点。


 トゲを飛ばした『カヤクダケ』は新しいトゲを生成するまで数分の時間を要するため、その間に追いかけて倒す、というものだった。


「じゃあ行くぞ。ちゃんと陰に隠れてろよ」

「えぇ」「はい」


 三人は音を立てないよう角の手前まで慎重に進んでいく。相手に気付かれることなく角を曲がる。ジャックには見えないが敵は正面におり、フィリカが彼の肩を右左触っては、相手と盾とが一直線上になるよう合わせる。


 そして、最後の調整に程よい距離まで進み、盾が構えられると、フィリカが親指と人差し指でオーケーサイン作り、ミーナに伝えた。


 それを受け取ったミーナは、道中に拾っていた石を革袋から数個取り出す。そしてフィリカにタッチをして“投げる“と合図。それは、前にいるジャックにも伝えられる。


 合図を受け取ったジャックは、未経験の衝撃に備え、盾をしっかりと構える。フィリカはより身体を縮めて彼に寄せる。それを見たミーナは準備が整ったと思い、持っていた石を一気に投げ、そしてフィリカと同じように身を寄せた。


 コツコツコツ、と複数地面への落ちる空振りの音。だが、その中で確かに、ボンっという音が確かに一つ響く。


 するとそれと同時、


 ――カカカカカカカカン!!


 盾へ激しく打ち付けるトゲの音。剥がされるほどではないものの、激しく雨の打ち付けるような散弾音と衝撃が、盾を通してジャックに伝わる。――が、それはすぐに収まり、


「今よ!」


 その声と共に盾を前へ倒したジャックは、フィリカのランタンを持って走り始める。二本足を生やしたキノコは、彼等が思ったよりも早い速度で、さらに奥へと逃げ始めていた。


 一進一退。距離は詰めるものの小回りは相手の方が速かった。


「くそっ!」


 ここでこれ以上逃げられては面倒だと思うジャックは走りながらに辺りを見渡す。すると少し先に、手に収まる程の石が落ちていた。それを見つけた彼は走りながら一瞬だけ屈むと、腕を振り子のようにして石を掬い上げる。


 そして走る勢いと振り子の力を生かすため一回転して、一瞬で敵を視認しては、その勢いのまま左足を思い切り踏み込み石を投げた。


 瞬く間に魔物へ追いつく速さで飛んでいくボール大の石。


 しかし、ジャックより先に飛んでいったその石は敵よりもやや右に飛んでいた。そのため壁に激突。······が、その跳ね返った石は運良くも、角を右へ曲がろうとするモンスターの傘へ命中する。


 音もなく、曲がり角の前で転ぶように勢いよく倒れたカヤクダケは、それきり全く動かなくなった。


「よっしゃ!」


 と、そこへ、少し遅れて二人が合流。


「はぁはぁ。ナイスよ、ジャック」

「やりましたね······」

「おう」


 息を切らしながらも三人はハイタッチ。


「ほい、サンキュ」


 ジャックはフィリカに灯りを渡す。それを整いつつある息で黙って彼女は受け取った。


「上手くいきましたね」

「えぇ。逃げられなくて良かったわ。案外あっけないものね」

「ですね」


 そうして三人は一息。


「じゃあジャック。あなた盾も運ばなきゃいけないだろうから先行ってていいわよ。――あっ、これ貸してあげる。腰にも掛けれるタイプだから」


 と、ミーナは自分の持っていたランタンをジャックへ。それを受け取るジャックは、


「いいのか?」

「えぇ。フィリカのがあるし、後は回収するだけだもの」

「んー······まぁいっか。んじゃ先行ってるわ」


 そして、ジャックは歩き出す。が、振り返ると、


「でも、お前暗いのはあんまり――」

「平気よ」

「······あぁ、そう」


 そうして、ミーナの強がりに鼻で笑うジャックは踵を返し「はやめに来いよ」と、置いてきたままのあの盾の場所へと戻って行く。それを見送ったミーナ達は、


「じゃ、私達もさっさと回収して帰りましょう」

「そうですね」


 依然倒れたままのカヤクダケへ視線を向ける。


「死んでるんですかね?」

「多分気絶してるだけだわ。私達が着いた時、彼、魔物と離れた位置に居たし、何か投げたんじゃないかしら。······例えば、あそこの石とか」


 左に頭を向けて倒れるカヤクダケの傘の少し前に、あのボール大の石は転がっていた。


「あぁ、なるほど。確かにそれらしいの落ちてますね」

「えぇ。だから、目覚める前に持って帰りましょうか」

「トドメは刺していかないんですか?」

「えぇ。だって、トゲが再生するなんて何か使い道がありそうじゃない」


 フィリカは、うーん、そうですか。と、やや苦笑。と、そうして二人が魔物の元へ歩き出そうとした時、突然、風もないのにランタンが明滅。二人は立ち止まる。


「ん? なんか火の調子が悪いですね」

「ガスが漏れてる······なんてことはなさそうだけど······」

「空気が薄いんですかね?」

「かもしれないわ。身体に異変がある前に早めに終わらせましょう」



 そう言って一人先に歩き始めるミーナ。フィリカはその後を「えっ、あっ、はい」と小走りで追う。どこか嫌な予感がした彼女は走りながら念のため魔法を発動し、辺りを確認。


「ん?」


 と、フィリカの魔法は何かの影を捉える。そしてそれは、曲がり角の向こう側。既にミーナは魔物の側でしゃがんでいる頃だった。


「ま、待ってください!! ミーナさん! まだそこに少し魔物が——」


 と、同時だった。


 曲がり角の先で、ボンッという破裂音が鳴った。それと共に彼女等の右方、暗闇からペン先のような無数の細いトゲが強襲。


「ミーナさん! あぶな······うっ······!」

「きゃっ······!」


 二人が倒れ込むと同時、ガラスの割れる音が響いた。

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