赤い髪の(小)悪魔①
ジャックの感じたそれは、彼女を背負って屈んだ際の小さな衝撃だった。
「······フィリカ、お前胸ないのな」
「耳引きちぎりますよ?」
ジャックの背に乗って密着する形だったフィリカは、冷めた怒りと若干の恥じらいを覚えて、肩にあった両手を伸ばし、その身体をゆっくりと離していく。
しかし、
「あっ、そこ気を付けろよ。まだ通ったばっかりなんだから上にツタが――」
「あっ」
注意してる側から少女の後頭部は、辺り一面に巡らされたツタの一つを揺らしてしまった。途端、彼らの前方に見えていた果実が見る見る透明から黒へと変わっていく。
「あぁ······またかよ······」
全てが徒労に終わった、というような嘆息を漏らすジャック。だが、その後ろではその嘆息をあたかも、コイツのせい、と受け取った少女が業を煮やす。
「今のはジャックさんが変なこと言うからいけないんでしょう!?」
「はぁ!? 俺のせいか!? 今のは絶対俺のせいじゃないだろ!?」
「いや今のは絶対ジャックさんが――」
そんな口論をしているとは露知らず、黒くなった実を、張り巡るツタの外で目撃したミーナは「ダメね······」と腕を組み、独り呟いていた。そして、現状に打開策が見出だせぬと思う彼女は遠くにいる二人へと声を掛けた。
「休憩にしましょうー! 一旦戻ってきてー!」
その声をキッカケに、彼女のほうを振り向く二人は、
「あいよー」
「わかりましたー」
と、返事をする。背負い背負われの二人が慎重にツタ間を抜け、道を戻ろうとする仲良さそうな姿がミーナの眼には映った。
時は若干遡り、それは昨日、二人がフィリカの違和感に気付く前のこと。
「これなんてどうかしら?」
「ん?」
ドラゴンの血に次ぐ素材を手に入れては新たな魔法を作るため、ジャックとミーナは研究室で横に並び、一冊の図鑑を見ていた。端から見れば距離近いの二人だが、幼馴染ということで今はさておき、そこに書かれていたのは一本の木の絵であった。
◇
『ホウエイプラント』
森林に群生して育つ、ツルを持つ樹木である。木の周りにピンとツタを張り巡らせて縄張りを作り、その中で幾つもの実をその木に成らせる。
その実は綺麗な透明色をしているが、もしツタに触れると、植物の防衛本能から、実の中の成分をツタの中の成分と化合させ、毒へと変えてしまう。化合した果実は色が透明から黒へと色を変えるため、毒を見た目で判断する事は容易である。
また、透明の果実は食す事もでき、滋養にも良いが、万が一黒の果実を食べれば、全身が痺れを起こし、呼吸困難にも陥る。
黒の実の果肉は、人には分からぬ魔物が好む匂いを放ち、たちまち彼等をおびき寄せてしまう。だが、黒くなった果実はへたや皮が固くなるため通常よりも落ちにくく潰れにくくもなり、その実を傷付けさえしなければ、よっぽど匂いは発せらない。
ちなみに、数日すれば実の中の毒も分解され、また元の透明色へと色を戻すので、放っておいても問題になることは少ない。
◇
「変わった魔物だな。植物って感じだ」
「本当に植物よ。ただ、魔物を引き寄せる危険性があるからこの本に載ってるの」
「なるほど。で、なんでコレなんだ? モンスターから作るって言ってたのに、植物からでも作れるのか?」
「そうね、まだ試してないから断言はできないけど、――ほら、ここに『魔物が好む』って書いてあるでしょ? それってつまり、その実を魔物が食べるって事だと思うの。人であれ魔物であれ、食べた物は身体の一部となっていくでしょう? だからこれもきっと――」
「あぁ。ドラゴンと同じように魔法が作れるんじゃないか。ってことか」
「そういうこと」
「ふーん。とりあえず、前のこともあるし危険が少なそうなのはなによりだけど」
「外で魔物と遭遇しないとも限らないけどね」
「まぁな。でも逃げるじゃなくてちゃんと戦えるだけ今回はマシだろ。それにお前の魔法がある。まだ実戦はしてないけど、出くわしたって一人でも多少はなんとかなんだろ?」
「えぇ、多少はね」
「んじゃあ大丈夫だ」
「なら決まりね」
「あぁ、ちゃちゃっと終わらせようぜ。楽勝だろ、今回は」
こうして二人は、炎に続く魔法を作るための素材を決めていた。そしてその後、本を返却した彼らはフィリカを迎えることとなり、翌日、街南にある平原を超え、そこにポツンと位置する小さな森――『イーリアの森』へと足を運んでいたのだった。
歩いて行くことの出来るその森まで、無事、魔物との接触も一切なく、今回の採集はとても順風満帆なものに思えていた。しかし、ただ実を採るだけだから簡単だろうと踏んでいた自分達をそこで阻んだのは、目的の植物が張り巡らせた防衛網だった。
縦横無尽。挿絵には描かれていないほど複雑な、達人のあやとりのように巡らされたそれは、人が一つ潜り抜けたとしても、またすぐに次のツタがあやとりをしていた。おまけに道は迷路のよう。ただ真っ直ぐ進むのさえ叶わない。もちろんその間に少しでもそのツタが揺れようものなら、揺れた周辺全ての実が黒くなってしまい、もはやお手上げものだった。
故に、ジャック達は張り巡るツタの外で木陰に座り、残りの透明な部分をどう採るかという、休憩しながら反省会という現状だった。一進一退のように見えて、実際はその場で足踏み。
「フィリカの魔法があっても難しいものなのねぇ······」
草の上で横座りしていたミーナは顔を困らせては顎に手を当て、考えに耽っていた。
とりあえず潜る役目は今の形がベストだしどうしたものかしら。やっぱり手当たり次第道を抜けるしか······いや、それじゃ情報も無しに新しい街を探すようなものだわ。でもそれ以外に道はあるのかしら? うーん、空でも飛べたらいいのだけれど······。
と、最後の考えが過った時、ミーナはふと先の出来事を思い出す。そして、右前方でぺたん座りして、持ってきていた小さな肩掛けカバンからお菓子を出しては食べている小さな彼女を尋ねた。
「そういえばフィリカ、あなた疲れてない? さっきの事だけど、あんなトコで頭を上げるなんてあまりにも不注意よ。あなたらしくないわ」
「あぁ、あれですか? いや、あれはですね、ジャックさんが――」
と、フィリカが事情を話し始めた時、
「あぁ疲れてんだよ、きっと。何回トライしたか分かんないし」
ややわざとらしく大声で、その少年が言葉を挟む。その話はさせまいと、自分の言葉を遮るように喋り出した彼に、フィリカは口を尖らせ眉根を寄せる。しかし彼女もこの事は告げたかった。が、
「別に私疲れてなんか——」
「スタートも違えばツタの位置だって変わるんだ。ツタが把握できるとはいえ神経だって使うだろ」
「いえ、背中に乗ってるだけなのでそんな神経は。それより私は――」
「人を避けるより膨大な数だから仕方ねぇよなぁ、ちょっとした不注意くらい」
「いや、だから私は全然――」
「気ぃ遣うなって。それに俺も背負い続けて脚にきてるから、ちょうど休みたかったんだよ。お前もいい機会だから休めって。なっ? ゆっくり休もう」
そう言って、慈悲の皮を被ったジャックは彼女の肩を優しく叩き、形だけの説得。その呆れる狡猾さには、ほとほとし、根負けする彼女は、
「······もういいです」
と言って、持っていたクッキーを乱暴に食べ、頬を膨らませた。幼馴染――フィリカの憧れる人との口喧嘩のせいで、ジャックはこの手の妨害に関して無駄に強かった。少々大人げないが、告発されたらさらに容赦ない罵声を浴びることになので致し方ない。
ともあれ、そんな二人を見て一番の強者である彼女は首を傾げるが、仲のいい諍いと勘違いして捉えると、特に追及するでもなく、やんわりと、目的の木のほうへと視線を移す。そして、
「······もう、半分以上黒くなっちゃったわね」
彼女の見ている先――群生している目標のその半分以上は、黒の果実で埋め尽くされていた。
「毎回、良いところまでは行くんだけどな」
「それなりに揺らさず行けるようにはなりましたよね」
「ただなぁ······」
「奥のほうはツタが密集してるんですよねぇ」
「あ、おいっ」
ジャックの咎めるようなそれを聞いたフィリカは、しまった、という感じで咄嗟に口を押さえる。――が、時すでに遅し。
「えっ、そうなの?」
彼女はちゃんと聞いていて、目を丸くし、再度二人を改める。
「ん? あ、あぁ······」
ここでジャックも率直に答えられれば良かったのだが、焦った彼はつい歯切れを悪く返事をしてしまった。それによってミーナはなんで隠そうとしていたのかを察し、一度苦笑をして、表情を、もう何もかもやってられないわ、と失意のどん底へ。半ば自棄に目を逸らしては全身に影を落とす。
三人の空気が、鉛のように一気に重くなる。
ちなみに、失意の念は決して誰かに向けたものではなく彼女が自身に向けたものだった。
三人は皆同じように、同じことを想起する。ここへ来たばかり、ジャック、フィリカと一人ずつ挑戦し、次に彼女が挑もうとしていた時のことを。
――もう、見てらんないわね。私に任せなさい。
「あんな大口叩いてたのに、二回やって二回とも、三歩でツタに触れたからな······。あれ、苦手の域超えてるよ······」
「そ、そうですね······」
――ちょ、ちょっと靴が草に引っ掛かったのよ。ちゃんと見なきゃね。
「で、足元注意したと思ったらすぐ頭引っ掛かって······」
「そうでしたね······」
――髪纏めてるの忘れてたわ。ちょっと外すからそっちに······。
「戻る時でさえ一人でツタに絡まってわたわたしてたし······」
「そうですね······」
――あぁ、もうっ! なによこれぇ······。
「あれはある意味才能だよ。だって、しまいには動けなくなってさ——」
「ジャック、もうやめて······」
泣きそうな声のミーナは耳を真っ赤にし、両手で顔を覆っていた。それを見兼ねた少女が、まるで自分は味方です、と言わんばかりに必死に取り繕う。
「で、で、で、でもまぁ、ほら! あばたもえくぼっていいますしいいじゃないですか。私はミーナさんの駄目な所初めて知れて、可愛いなぁーって思いましたよ! とっても」
「フィリカ。お前それ慰めてるつもりか?」
ジャックの言う通り、それはあまり慰めになってなかった。現に彼女はさっきより沈んだように見えるほど。
「と、と、と、ともあれ、ミーナさんが不得手なのは別として、なんであんな複雑にツタを張るんでしょうかねぇ!?」
すると、
「そうよ。なんでよ。教えなさいジャック」
「俺が知るか······」
悪気のないフィリカの言葉に、今日一番傷付いていたミーナは顔を上げジャックに八つ当たり。
ともあれ、ミーナがひとりで外に居たのはここに由来していた。
ミーナもフィリカも運動神経は悪いほうではないのだが、片足でバランスを取ろうとした時には、体勢を崩し、倒れてしまうことがあった。
それに比べジャックは、訓練生時代の賜物で片足で立って目を瞑っても、全くと言っていいほどバランスを崩さず立っていられる身体能力を兼ね備えていた。まさに今回の役目には適任と言えるほど。――なのだが、一人では草むらに隠れたツタを見つける事が出来ずそれを踏んでしまい、実を黒くしてしまう事が度々あった。
そのため、そこで三人(主にミーナ)が考えたのは『ジャックがフィリカを背負う』というものだった。
フィリカの魔法を使いながら進めばジャックの足元はカバー出来、そして、ミーナより身体の小さいフィリカを背負っても、彼女が動かない限りジャックは、バランスを崩して倒れる事もなかった。故に下手な接触も避けやすかった。
つまり鬼に金棒。虎に翼。フィリカの魔法があるとくれば余裕だと三人はタカをくくった。――が、実際そんな上手くはいかなかった。
「質の悪い迷路みたいなんだよな」
「えぇ。通れるには通れるんですがどんどん遠ざかって、ゴールに辿り着けないって感じなんですよね」
「そうそう、ゴールもあるか怪しいよな」
「ですよねぇ。いや、そもそも“自然の中にゴールを求めるのもおこがましい“といいますか――」
と、ここでフィリカが、置いてけぼりにしゅんとしているミーナに気付き言葉を止める。おまけに彼女はまたも失言を漏らしていた。
――絶対、中に行く方法はあるわ。
再び、ミーナを中心に、三人に沈黙が流れる。――が、しかし、今度は短いお通夜だった。それはジャックがある妙案を思い付いたからだった。
「なぁ、今更なんだけどさ、実が黒くなるのは覚悟して、あそこの下で数日過ごしたほうがいいんじゃないか?」
その、木のほうを指を差しては掟破りとも言える発言に、二人は瞠目し、素早く振り返る。
「なるほど······その手がありましたね」
「だろ? 俺も天の閃きかと思った」
そんな、しょうもない天の閃きに賛同する二人とは裏腹に、ミーナは、何ふざけたことを言ってるの、という驚きの表情だったのだが。それは、女性として大事な何かが欠けるから。
「フィリカ。ジャックはいいかもしれないけど、私達も数日ここで過ごすことになるのよ? そんなの耐えられる?」
と、ミーナの言わんことを理解したフィリカは、喜びを一転、
「あっ、そうでした······」
肩を落とす。そして一気に素気なくあしらうように右手を振っては、
「じゃあこの案は却下ですね。ジャックさん一人でやって下さい」
「おい」
少女のひどい手のひらの返しように、ジャックは思わず突っ込み。今しがたの同意はどこへ行った、と。
しかし、この案は全てが否定されるものでもなかった。
「でも、その方法だと確実に実が取れるわね。魔法作れるって証明出来たら、城の兵士にでもやらせようかしら······?」
「不憫だろ、その兵士······」
この時ばかりは自分がその兵士じゃなくて良かったと、ジャックは心から思う。きっと、彼女とあの部屋で邂逅せずにいたら、今のような理不尽な皺寄せが自然に自分へ来たであろうと思ったから。
さておき、自分の案が今は廃案になったのを確認したジャックは「それで」と前置きをし、元の話題へ話を戻す。
「何か良い案は出そうか? ミーナ」
「そうね······。奥がより乱雑してるってのは分かったけど、それだけじゃ特に何も浮かばないわ」
「そっか」
「でも、今度は私も状況を知りたいから、あなたが見た様子を『コンタクト』で教えてくれないかしら?」
「ん、いいけど、俺が『コンタクト』するのか? フィリカの方が長く出来そうだしそっちのほうがいいんじゃないか?」
「いえ、フィリカにはツタの方に集中してもらいたいの。少しでも接触のリスクを減らすためにね。ただそれに私も、フィリカとはまだ合わせた事ないから『コンタクト』するのにちょっと時間掛かっちゃうと思うわ」
「あぁ、そういうことか」
と、ここで二人の話を聞いていたフィリカが、聞き慣れない単語が何度も出てきたことで、遠慮がちについ口を挟む。
「すみません······。あの、その『コンタクト』っていうのは一体何ですか?」
当然のようにその魔法を使用し、当然のようそのことを口にしていた二人は彼女に初めてそう言われ、完全に寝耳に水だった。
「そっか、ごめんなさい。あなたが知ってるわけはないわよね。――えっとね、『コンタクト』っていうのは私が昔作った魔法で、魔力によって他者と頭の中の思考を繋げるの」
「へぇー、そんなことが出来るんですか。複数人でも可能なんですか?」
「そうね。やったことはないけど理論上は可能よ。けど、魔力の消費も多くなるし魔力の調和も格段に難しくなるだろうからあまり現実的ではないかしら」
「うーん、そうですかぁ」
フィリカもできることなら混じりたかったが、厳しいと聞き、引きずらない程度に残念がる。――が、すぐに顔を明るくすると、
「でもともあれ、ミーナさんが編み出したっていうその魔法、私見てみたいです!」
「えっ? ······ふふっ。じゃあやってあげる」
そう言うとすっかりのせられたミーナは、ジャックの前に左手を黙って差し出す。
さも当然のように差し出された手へ、もはや犬がお手をするよう反射的に手を重ねようとする飼い慣らされたジャック。だったが、ふと、その彼女の手首に付けられた装飾を目にし、「ん?」と出しかけた手を止める。
「あれ、そんなブレスレット付けてたか?」
尋ねられたミーナはやや目を見張り、
「あぁ、これ? 昨日、城に行く途中で買ったの」
ミーナは出していた手を自分の方へ戻し、胸元辺りでそれを眺める。細い金色の、彫りもないただのブレスレットだった。
ジャックは「ふーん」と言って、それを指先で撫でるように触りながら少し口角を上げている彼女を見ていた。すると、横からフィリカが顔を出して揶揄う。
「ジャックさん、女性の小さな変化に気付くなんてやりますね」
別にそんなつもりはなかったのだが、彼女にそう言われると急にそんな気恥ずかしさを覚えるジャック。そしてジャックはそれを誤魔化そうとするように、
「うるさい」
フィリカの顔をわし掴みにしては、ぐぐぐっと力を込める。
彼女は叫んだ。
「あああ! 痛い痛い痛い! すみません、すみません! すみませんって!! もう言いませんからー!」
予想以上の痛さに、彼女が頭を掴んでいる手を叩きながら涙目で懇願。そうすると、ようやくジャックは力を入れていた手を緩めた。痛みから解放されたフィリカは両手でこめかみ辺りを慰めるように押さえながら不貞腐れ、呟くように言葉を漏らす。
「はぁ、思ったより馬鹿力なんですね······いや、きっとホントに馬鹿なんでしょうけど······」
「もっかい掴まれたいのか?」
「ひぃっ」
「やめなさい、ジャック」
フィリカは両手で頭を抱えるように隠していた。
静止されたジャックは一度溜め息を漏らすと仕方なく、元の『魔法』を実行するために、ミーナのほうを見ては「ん」と右手を差し出す。そこへ、本来の事を思い出す彼女も手を重ねる。そして、あのキメリア火山での時のように一瞬だけ光が瞬くと、二人はそっと手を離した。
「へぇー、それだけでいいんですか?」
「えぇ、簡単でしょ?」
「はい、もう少し時間がかかるものかと。えっと、『コンタクト』でしたよね? すみません、私まだ半信半疑なんですが、いま本当に通じてるんですよね?」
見た目上、光以外は当事者間でしか分からぬ魔法のため、フィリカがそう口にするのも仕方なかった。
「えぇ、ちゃんと聞こえるわよ。そうね······じゃあ試しに、ジャックに聞こえないよう私に何か言ってみて」
と、そう言われたフィリカは少しの間「うーん」と、唇に人差し指を当て目線を上に。そしてやがて思い付くと、フィリカはミーナの耳元へ顔を運び、ボソボソとそれを伝える。
すると、それを伝え終わると同時だった。あぐらを掻いていたジャックは立ち上がり、ミーナから伝言を受け取っては迷うことなくその指示通りの所作をした。右手右膝を上げ、左手をグーにし、それを腰に添える所作を。
「わぁー! すごいですー!」
それを見たフィリカは歓喜の声。
だが、その動きをした本人は目を細める。
「なんだよ、このポーズ」
思わず、全く意味もないこのポーズに意味を求めようとするようにそう口にするジャック。
「ミーナさん! 城に帰ったら私ともやって下さい!」
「えぇ、是非やりましょう」
「聞けよ······」
文字通り全く意味はないのが、強いて意味をつけるとすれば、彼女なりのさっきの仕返しという辺りだった。
そんな謎のポーズを取り続けるジャックを余所に、「やったー!」と両手を組み、嬉しさからウキウキと左右に揺れるフィリカ。パーマがかった彼女の髪も同じように揺れていた。
「さっ、それじゃ効果が切れる前に行きましょうか」
その言葉を節目に、ミーナが立ち上がり、軽くお尻を払う。それに続いてフィリカも。そしてジャックも四肢を下ろし、ズボンに着いた葉っぱを。
その後、三人は透明な木の実が見えるツタの前へ。
「じゃ、連絡よろしくね」
「あぁ」
そして三人は再度、ツタの防衛線突破を図った。