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先輩と後輩③

 城の書庫は二階と三階が繋がって吹き抜けになった造りだった。本来、三階に当たる高さには端にだけ石の足場が作られ、そこを石段で上がっては特別な――軍の資料を補完することが出来るようになっていた。ただしそこは兵士が見張り、軍の許可証を持つもの、また、司令官以上の人間しか立ち入りを許可されていなかった。


 しかし、逆に二階に当たる部分は城に関係する者なら誰でも閲覧や貸出が許されていた。街で売られている童話や図鑑など、先に述べた国の機密に関わるもの以外が、ほとんどがこちらに一冊は保管されていた。


 そして、今回ミーナの目的の本は二階こちら側。


「はぁー、すごい本の量だな。まるで壁じゃねえか」

「あら、来るのは初めて?」

「あぁ。今まで本に用事なかったからな」


 と、初めて見る壮観な景色に心を踊らせるジャック。


「それに天井もこれまた広いなー」


 書庫の明かりは、その天井に一箇所だけある大きな円形のガラス窓だけ。それでも光源としては十分で不自由もなかった。中心から放射状に金色のフレームが張り巡らされた無機質な円形ガラスだったが、それは、その透明の中で空を邪魔しないように綺麗に彩られていた。


 と、その部分をジャックがぼんやりと見上げていると、そこについて隣にいた彼女が説明をする。


「あれはね、本棚に陽が当たらない設計になってるのよ」

「へぇ。なんでまた?」

「保管資料の劣化を防ぐためよ」


 そう聞いたジャックはふと四方の様子を見渡してみる。彼女の言葉通り確かに、真ん中の机と椅子が置かれたスペース以外、影が掛かっていた。


「そんなこと計算されて造られてんのか······」


 無駄なく空間が使われてるんだなぁ。と、ジャックがその感慨に耽りながらまた天井を見上げていると、


「それだけじゃないんですよ」


 突如、後ろから、軽やかで麗らかな声が聞こえた。


 ジャックとミーナが振り返ると、そこには黒髪ショートにパーマをかけ、丸眼鏡をした小柄な少女が立っていた。袖口などに白い刺繍のあしらわれた、真っ黒というよりわずかに青く見える藍のローブ服。彼女は、その襟元から垂れる白いリボンを挟むように、一冊の本を抱えていた。


「あら、フィリカ。こんにちは」

「こんにちは、ミーナさん」


 彼女は、ジャックにも小さな会釈をする。――と、


「ミーナ、知り合いか?」


 不躾にも、自分より明らかに年下に見える彼女を指差しながら尋ねるジャック。ミーナはその手を下ろさせながら、


「えぇ。ここの司書の『フィリカ』よ。よくお世話になってるの」


 ジャックは「あぁー」と納得。そして、


「初めまして、ジャックです」


 ジャックは軽く会釈をし、


「初めまして、ジャックさん。フィリカです」


 そのフィリカは首を傾げて微笑む。――が、互いにすぐその後何を話せばいいのか分からなくなり妙な沈黙。なんか話さねば、と気まずくなるジャックはとりあえず、


「あー、えっと、それで······さっき言ってたそれだけじゃないって言うのは?」


 と、場を繕うようにさっきの掛けられた事へと話を戻した。彼女もまた相手の出方を窺っていたため、急に話を戻されやや戸惑う。――が、「あっ、えっとですね」とすぐに立て直すと、彼女はそのままに答えた。


「入り口の扉、開放されていて気にも留めなかったと思いますが——あれ、相当分厚い鉄の扉で出来てるんですよ。なんでだと思います?」


 いきなりの問いかけにジャックは困惑するも、さすがに自分より間違いなく年下で、しかも初対面の少女の質問に答えないというわけにもいかなかったので、


「うーん······盗難防止のため?」


 と、それらしいことを答える。が、


「惜しいっ! でも半分正解です!」


 真剣に考えてないジャックの答えとはいえ外したことに変わりはないので、ここについて喋る機会を得た彼女は唐突に無垢な笑顔を浮かべ楽しそうな顔をした。


「実は、火災防止のためでもあるんですよ? 天井の事にも繋が

るんですが、入り口と天井以外、ここは外部と触れる場所が一つもないんです。入り口は火を持ち込もうとする輩を兵士さんがチェックしてますし、頑丈な石に囲まれたここはちょっとした要塞と同じ鉄壁さなんです! そしてですね、他にも——」


 だが、自分の世界へと入って次々と話し出す彼女の前で、ジャックはふと自分の手を見る。まだ薬の効果が残ってたらフィリカは大慌てするな、と。


 すると隣で、ジャックが何を考えているのか察したミーナが肘で、ちょっとやめてよ、という風に小突く。珍しく焦りの見えるその行動に「わかってるよ」と小さく言うと、ジャックは再びフィリカの話に耳を傾けた。


「それとですね、あの天井。私たち——ここで仕事する者にしか見る事は出来ませんが、夜は月明かりや星明かりがとっても綺麗なんですよ? 一枚の星の絵が動いてるようで。それに本もまた一段と映えて見えますしね」


 と、ここで、その景色を想像しては一人陶酔しているフィリカに、ジャックが「ん?」と疑問を。


「なんで俺達は見られないんだ? だって、別に夜でもここは来れるわけだし入れないわけじゃ——」


 すると、


「本当に何も知らないのね」


 隣にいたミーナが、口を挟んでは思わず溜め息を吐く。


「どうしてこの話になったか覚えてる?」


 ジャックは「んー」と少し前の会話を顧みる。――が、思い出せぬ様子に、フィリカからフォローするように言葉が入れられる。


「夜は防犯の事も鑑みて、基本的に書庫の扉は閉められるんです」

「あぁ、なるほどね」


 ジャックは手を叩いて納得。そしてその扉を見ては、


「ちなみに、あの扉は誰が開閉してるんだ?」

「見張りの兵士さんがほとんどやってくれます。ですが時々は私達司書もやってます。扉は重たいですが、まぁそれでも、一応女性一人で開け閉めが出来る造りにはなっているので」

「へぇー」


 ジャックは感心の声を上げてはその分厚い扉を再び見返し、女性だけでも動かせるとはいえ、毎日あんなの開け閉めするのも大変だよなぁ······。と、自分は面倒だからその役目じゃなくて良かったという想いと共に、彼女等に同情する。


 さておきともあれ、なんとかその答えまで辿り着いたフィリカはそんなジャックの胸中を余所に、二人が待ち詫びていたこの質問をようやく投げ掛ける。


「ところで、今日はどうされたんですか?」


 そう首を傾げるフィリカは、ケープを纏ったミーナのほうをやんわりと見ていた。


「今日はね、モンスターの資料を探しにきたの」


 すると、


「えっ、それでしたら一緒に行きましょう!? 私もちょうどこの本返すところだったんです!」


 そう言うと彼女は抱えていた本の表紙を見せびらかすように腕を伸ばす。表紙には「モンスター完全攻略! これで君も勇者になれる!」と書かれていた。――と、それを見たジャックはつい、


「なかなかに胡散臭いタイトルだな······」

「名前は確かに胡散臭いですが結構面白いものでしたよ? たしか――ミーナさんも借りた事がありましたよね?」

「あ、えっ、えぇ。その時は私の望みとは違ったけど、確かに面白いものだったわね」

「ですよね!」

「え、えぇ······」


 馴染みある彼女の明らかな困惑から、うそつけ! つまらなかったろ! とジャックは突っ込みそうになるが、場所も場所、相手も相手なため今回は堪える。


 ――と、それには気付かぬ彼女は、


「とりあえず行きましょう。もし良ければ私も手伝いますので」


 奥のほうを指を差しては二人の返事も待たず先に歩を進める。


 いいのか? というようにジャックは幼馴染の顔を見るも、彼女は微笑で、特に困っていない様子だった。いつものことなのか、と思うジャックはそれ以上尋ねるような事はせず、とりあえずは流されるままに一緒に後ろを歩いていった。


 そして、その場所へと向かっていく途中、


「ちなみに、お二人はどういった御関係なんですか?」


 黙ったまま歩き続けるのも気まずいだろうと気を利かせたフィリカが後ろの二人にそう尋ねる。それは、あわよくば面白い関係が聞けるかもしれない、という思惑が透けて見られたが、しかしそれを尋ねられた二人は、


「腐れ縁だよ」

「幼馴染よ。ただ、今は同じ研究科で私のパシリをしてるけど」

「誰がパシリだよ」

「あなたでしょ」

「間違ったこと吹き込むなよ」

「あなたもじゃない」

「どこが」

「全部」

「ふふっ、仲いいんですね」


 振り返るフィリカは、睨む一人とそれを涼しげに流す少女を見てそっと微笑む。――と、そんな彼女を横目に見るジャックは格好がつかないと思い「ったく······」と幼馴染にボヤいては話を変える。


「ところでさ、フィリカはなんでここで仕事しようと思ったんだ?」


 慣れた調子で後ろ向きに歩く彼女は少し目を見張ると、


「えっ、私ですか? 私は、そうですね······ひっそりと人の役に立てたら何でもよかったんです。たまたまお城が人手不足で司書の募集をしてたので、ただそれにたまたま申し込んでみただけで。あっ、でも、ここで働き始めたら本の魅力、この書庫の魅力にすっかり虜になってしまいまして······。今じゃここにして良かったなーと思ってます」

「ふーん」

「ふふっ、あなたと違って可愛い子でしょ?」

「あなたと違って、は余計だろ」

「そう?」


 再び起こる小さな諍いに前を向いては「ふふっ」と笑うフィリカ。それからフィリカが振り向くことはなかったが、再びその諍いが終わったところで、彼女は部屋の角にある本棚の前で立ち止まってはその棚を見上げる。


「ここですね」


 そこはモンスターに関する文献が並んだ場所。書庫、北西一番奥の場所だった。他のジャンルに比べ全体の数は少ないものの、それでも数百冊はありそうな本が、本棚に整然と並べられていた。すると、これまでの風景からそれらは容易く想像出来ていたばずだがジャックは、


「なぁ、この中から探すのか······?」

「そうよ」

「私、梯子持ってきますね」

「ありがとう、フィリカ」

「いえ」


 そして「ふふっ」とミーナに向けやんわり笑うフィリカは、抱えていたあの本を棚の肩ほどの高さへしまうと、そそくさと来た道を戻り、どこかへ行ってしまう。


 その背が消えたのを見てジャックはボソリ。


「素直に感謝するのな」

「可愛い子には素直なの、わたし」


 自分のぞんざいな扱いに若干ムッとするジャック――だが、司令官の時といいフィリカの時といい、ちゃんとする所はちゃんとしてるんだな。と、彼女の意外な一面も見直した。


 しかしやはり、


「とりあえず、タイトル見れば大体探してる本の内容思い出せるから、私が指したのをあなたは取り出して端に重ねておいてちょうだい」


 それが当たり前かのように淡々と指示するミーナに、ジャックは、俺のことはホント好き勝手使ってくれるな。と「はいはい」と返事をしつつどこか落胆。


 そうして、上司に言われるがままの行動をするジャックが数冊を取り出した頃、南の――来た道のほうから、再びフィリカが姿を現した。


 彼女は脇に木の梯子を抱え、重たそうにしている。


「大丈夫か?」

「えぇ。重いけどもう馴れました。······よいしょ。——ミーナさん。私、上のほうの取りますので、もし御希望があれば言ってください」


 ミーナは少し離れた所から「ありがとう」と言うとこちらへ戻り、身長より腕一つは高いであろう所にある本の名前を数冊、指を差しながらフィリカに伝えた。そして、それを伝え終えると「梯子、支えてあげなさい」とだけジャックに言い残して、彼女は別の本棚へと消えていった。


 まるで風が通りすぎるようにあまりにもその流れが自然過ぎたためジャックはやや呆気に取られていたが、丸眼鏡を掛けた少女が梯子を掛け始めていたため言われた通りその場に残り、その手伝いをしては梯子を両手で押さえた。





 それからジャックは、時折フィリカから渡される本を下で受け取っては自分の横へ積み重ねていた。


 そうしながら、


「そういえばさ、フィリカはあいつ――ミーナといつ知り合ったんだ?」


 上で、ミーナに教わった本を思い出しながら背表紙を探しては指を横へ滑らせていた彼女は手を止めると、その手の形のまま指を口元へ移し、しばし「えーっと」と視線を上へ。


「たしか······私がここへ来てすぐだと思うので、三年前の今頃じゃないでしょうか。ちょうどその頃、赤い髪の女の子が軍を出入りしてるって、城で話題だったので」

「へぇ、初耳だ」


 ジャックもその頃は訓練生として城に通っていたが、そんな噂は初耳だった。まぁ、外と中じゃ話が違うのも仕方ないか、男子女子でも興味は違うし。と、それとなく自分を言い聞かせ、ジャックは再び彼女へ傾聴。


「それで、私、まだ本の位置も覚えきっていない新人で、持っていた本のラベルと棚を見比べながら、照らし合わせるように横へ歩いてたんです。ただ、私その事に集中しすぎて、棚の端に積んであった本に気付かず、それに躓いてしまったんですね。そして不幸にも、身長より高く積まれたそれがぐらりとバランスを崩し、私の方へ倒れてきて······私は初めて、本に埋もれるという経験をしました」

「それは災難だったな」


 止めていた手を動かして一冊の本に手を伸ばしていたフィリカへ、ジャックは同情。だがここで、彼女からその本を受け取り、積んだ際に本が揺れ、自分の前に広がる光景に、あれ? と、ジャックはふと思う。そして、想像しながら聞いていた話とどこか重なると、


「なぁ、もしかしてその倒した本っていうのが······」


 ジャックの勘繰ったことを感じ取ったフィリカが「ふふっ」とこちらを向いては笑顔を作る。


「そうです。ミーナさんの積んだ本でした」


 そう言うと、いま手の届く範囲の本を取り終えたフィリカが梯子を慎重に降りてくる。そして、地に足をつけると梯子の位置を少しだけずらし、話を続けながら再び登り始めた。


「本から出てきた私が目を開けると、ボンヤリながら誰かが目の前に居るのが分かりました。次第に視界が安定し始め、それが鮮明になると、赤い髪をした、私より年上の女の子がそこにしゃがんでいたのが分かりました。とても心配そうな顔で。······ミーナさんを見たのはこの時が初めてでしたが、それでも人から聞いていた特徴から一目で、この人が噂の人なんだと分かりました」


 すると、フィリカは一冊の本を左手で抱えながら、不安を浮かべながらも懐かしむように俯く。


「当時の私は“軍に所属してる人は偉いから怒られる“だなんて偏見を持っていたため怯えていたんですが、ミーナさんは『ごめんね、大丈夫!? 怪我してない?』ってあたかも自分が悪いかのように、優しく接してくれました。ちなみにそれが、ミーナさんと初めて交わした会話です。その日からミーナさんは私と会う度にいつも声を掛けてくれて、本当のお姉さんみたいに優しくしてくれるんです」


 ジャックは顔には出さなかったが驚いた。思わず「それ本当にミーナか?」と言い出しそうなほど、いつも馬鹿にされている自分からしたら、その姿はとても想像し難いものだった。


 彼女はそのままに話を続ける。


「だから、ミーナさんは私の憧れでもあるんです。同じ女の子なのにあんなキラキラとしてて、何でも出来て、カッコいいですし、凛としてて、本当に······本当に心から尊敬しています」


 フィリカは少し斜めを向いていたため、ふと顔を上げたジャックからはその横顔が、やや後ろから少し見えるだけだったが、それでも、それを見たジャックは、その出来事は相当感慨深いんだろうな、と思った。


 そして、口角を緩ませては、


「そんな敬愛されてんのなら、あいつも本望だろうな」


 柔らかい口調で、過去に浸る彼女へそっと言った。その声でハッとするフィリカは我に返ると、


「あっ、す、すみません、ちょっと夢中になってしまいました」


 と、焦ったように再びその手を動かし始める。そうしては、


「ちなみに、ジャックさんはミーナさんにそういった事はないんですか?」

「そういった事?」

「ミーナさんに対しての憧れみたいなものです」

「あぁ。そうだなぁ······」


 今度はジャックが、先のフィリカのように視線を持ち上げては考える。フィリカはその返事を待つ間に新たに本を。


「俺はいつも、あいつのやる事に付き合わされてきただけだからなぁ······。だから尊敬するもなにも、それが日常だったから特に敬意とかもなくて、ただ当たり前に隣にいて当たり前に何でもこなす、当たり前に変で、すげぇ奴って感じかねぇ」


 と、ジャックがそう口にした頃、本を持ったフィリカはそれを渡さず抱えたまま梯子を降り、下まで降りると「これで全部です」と手渡す。


 ジャックはそれを受け取りながら、


「昔から好き勝手人を振り回して、まったく困った······気ままな奴だって、俺は思ってるよ」

「······そうですか」


 やや言葉を言い直したジャックは受け取った本を、平積みされた一番上へと積み重ねる。そして屈むと「よっ」と、それらを一気に持ち上げては「で、これどこに持ってくんだ?」と、彼女へ尋ねようとする。――が、それを口にしかけた時だった。


「······あの、なんかそれ、羨ましいですね」


 少女がやや元気のない声でそう言った。


「羨ましい?」


 予想外の言葉にジャックは、積み重なった本の横から顔を出してはつい聞き返した。どちらかと言えば自分はマイナスな印象ばかり口にしていただけに不思議に思えたからだった。


 だがフィリカは、


「それだけジャックさんに心を許してるってことじゃないですか。だって私は三年間、人を振り回してるミーナさんだなんて、一度も見た事ありませんよ?」

「えっ」


 あくまでフィリカの主観的な発言だったが、ジャックはその言葉に呆気を取られ、返事に詰まっては立ち尽くす。思いもしなかった事につい本を抱えていることも忘れそうになるほどに。


 すると、身体を翻しながらその隣へ来たフィリカは意地悪そうに口角を上げ、ふふっ、とジャックを見る。そして、


「羨ましいです」


 ハッキリとそう、もう一度口にしては意味深な笑みを見せる。その笑みの意図はジャックには分からなかったが、幾らかの動揺は生み出した。――と、そこへ、二冊の厚みがある本を持ったミーナが別の棚から帰ってくる。


「こんなもんかしらね。――あら、何の話をしてたの?」


 ミーナは持っていた本を、ジャックの持つ本の上にさらに積み重ねては、笑みを浮かべていたフィリカへと尋ねる。だがフィリカは、


「んー、内緒です」

「あら、どうしても?」

「どうしてもです。ふふっ、たまにはいいじゃないですか」

「ふーん、意地悪な子ね」


 と、ミーナは、そんな彼女に怒る様子ではなく、鼻を指先でツンと弾く。そのやり取りに、フィリカは口を結んでは満面の笑み。そうして彼女は「じゃあ、手続きしてきますね」と積んだ本をジャックから奪い取ると、自分の顔を超えるほどのその本を持ちながら器用に人を避け、受付へと消えて行ってしまった。


 自分が持ってくことを言う間もなく視界を一気に晴らされ、颯爽と消えていったその後ろ姿を見るジャックは、それにどこか違和感を抱きつつも、少し前にこんなことがあったような······。と、それに気を取られる。


 そして、なんだっけなぁ、と考えていると、


「フィリカ、何か楽しいことがあったみたいね」


 と、隣の少女が口角を上げた意地悪そうな顔を見せる。それを見たジャックは、あぁ、こいつだ。と、思い出せてスッキリはしたものの、つい溜め息。そして『別の本棚へと消える前の幼馴染』と『いま立ち去って行った彼女』とを重ね合わせては、


「······お前ら、似てるな」


 と、呆れたように、そう口にした。

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