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A Letter to You  作者: 静月 野架
第一章
3/4

北ヶ崎学園での出来事 1

 十月一日。久しぶりの登校の日。朝の会の前から、私は普通に教室にいた。しかし、特に誰も話しかけてこない。というか、怖いくらいに勉強している。みんな何か薄い冊子を手に、ブツブツと英語を言っている。


……忘れていた。北中は、エリート校だった。本当は、ちょっと勉強したからって入れる学校ではない。私は大丈夫だろうか。というか、なぜ無事に入れたのだろう。


「起立」


 良く響く男子の声で、私はハッと我に返った。前の教壇には、今朝話した女の先生が立っている。彼女が私の新しい担任、花野(はなの)美耶(みや)先生だ。

 「おはようございます」という儀礼的な挨拶が終わると、花野先生は「じゃあ、鎌部さん、前に来て自己紹介をしてください」と言った。自己紹介は苦手だ。大人数対ひとり。つらい。


「東峰中学校から来ました、鎌部妃良です。よろしくお願いします」


 私の最低限の情報しかない自己紹介に、パチパチと大きめの拍手が返ってくる。

 何とかなりそう。

 その様子を見ながら私はそう思った。


「妃良ちゃん、初めまして! 私、瀬乃(せの)(ゆう)()。よろしくね。得意教科は英語、数学、国語。分からないトコは遠慮なく聞いてねー」


朝の会が終わると、お決まりで数人が私の机を取り囲んだ。


「嘘つき。結良は全教科得意でしょ。平気な顔して全教科平均九十近くとるくせに」

「でも百点をとることがあるのはこの三つだけだよ。ていうか、希子(きこ)の方が成績良いじゃーん」


 いやいやいや。三教科も百点とれるの? え、それより頭がいい希子ちゃんって、何者?


「フフン、まあね。あ、私中須(なかす)希子。よろしく」

「この人、学年で五位だから、疑問はどんどんぶつけちゃって」


 転校生への自己紹介で成績の話をする人は初めてだ。いや、自分がされる側っていうこと自体が初めてなのだが、する側だった時にもこういう子たちは見たことが無い。


「ねえ、みんなはやっぱり塾とか行っているの?」


 ふと気になり聞いてみる。

 私の質問に、一度みんなが顔を合わせた。


「んーん。私は、行ってないよ。自分のペースで、自分に合ったやり方でやった方が私に合っているから」


 と、希子ちゃん。


「だよねー。時間とお金の無駄」


 と、結良ちゃん。


 できる子が言うと本当にそうなんだろうと思ってしまうから不思議だ。


「そういえば、みんなすごく勉強しているけど、テストが近いの?」

「ああ、三時間目の英語で、小テストがあるの」


 なるほど。意識が高い。私は小テストなんて適当にやっていた。再テストが当たり前。そこで本気を出す意味がよく分からない。そもそも、前の学校で小テストはあまりなかったが。


「でもま、妃良ちゃんは無いと思うよ、再テスト」

「あったら鬼でしょ」


 そんな会話を聞きながら、私は思った。

 この二人とはきっと仲良く出来ない、まる。


 

 そういうやり取りがあり、北中での生活が始まった。

 一時間目は、LHRがあり、体育館で私の歓迎会があった。

 北中は、一クラス三十人でそれが人学年二クラスある。つまり、全校で百八十人しかいない。しかし、生徒数は少ないが、北中は倍率が六倍と、かなり人気で難易度が高いことで有名だ。


「鎌部妃良さん、北ヶ崎学園にようこそ!!」


 クラスの人たちのそんな掛け声とクラッカーの気持ちのいい音に私は迎えられた。朝の会の後半分程度のクラスメイト達が足早にどこかに行き、結良ちゃん達がぎりぎりまで私と教室で話そうと必死だったのはその為か。


「ふふっ。結構準備頑張ったんだ。妃良ちゃんは北中初の転入生だからね」

「そうなの?」

「らしいよ」


 そうなのか。

 恐らくだが、編入生がいないのは、そういう考えがないからだろう。編入試験はそんなに難しくはなかったし、対策として難問を解いた記憶もない。きっと、編入試験は私の学力に合わせたのだろう。

 こっちは私立の学校からしたら大事なお客様だもんね。そんな事して良いのかわからないし、本当にそうかも定かじゃないけれど。


「鎌部さんは、北中のこと、どのくらい知ってる?」


 結良ちゃん達とおしゃべりしていた私に、花野先生が聞いてきた。

 恥ずかしいことに、私はこの学校の事を何も知らない。

 正直にそう伝えると、花野先生は説明を始めた。


「北ヶ崎学園中学校は、北ヶ崎学園高等学校との中高一貫校です。学校法人北ヶ崎学園は他にも高校を持っています」

「有宮学園高校」

「です。有宮は付属の中学はありません。元々は、北高に内進科と特進科と普通科があったのですが、高校から北高に来た人の素行が悪く、内進科の生徒の保護者の要望で有宮高校を造ることになりました」


 うわ。何か複雑。てか、保護者コワ、強。てか、内進科って……。外進の人とはっきり区別してるやーん。


「北高は毎年難関大学に多くの合格者を出しています。その為、付属中学であるこの北中も人気があり、難易度が上がっているという事です」


 なるほど。早いうちから高度な授業を受けられるっていう事か。

 私立学校にとって、実績は非常に大事なもの。そして、問題はいらない。地域の人たちのその学校への印象は、想っているより大事なものだったりする。ヤンキーがたくさんいても、多くの生徒がいた公立の東峰中とは違うのだ。


 北ヶ崎学園について先生が軽く教えてくれた後、ドッジボールをした。男子、めちゃくちゃ強かった。元々運動神経はいい方で、男子とも対等だった私だが、約一年の引きこもり生活で、そんなことは口が裂けても言えないレベルになり果てていた。対して男子は成長期だからだろう。教室に来た時も思ったが、見た目が「男の子」というより「男性」に近づいていた。それは、体つきも同じで、運動をあまりしそうにない男子でも、まあまあ速い球を投げてきて驚いた。

 ……運動しなきゃ。



 七時間授業というハードな一日が終わった。きつかった。

 驚いたことはどの授業でも小テストがあったことだ。基本的には確認テストで、前の授業の復習がキチンとできているかを調べるテストだった。ちなみに英語や古文は単語テストだった。単語テストなどの暗記系のテスト以外再テスト、というものは無いようで、その結果から、また更に復習、質問をするらしい。これだけ鍛えられれば、その通りにやれば嫌でも成績は上がるだろうな、と思った。


 ぐったりして私は車に乗る。


「お帰り。どうでしたか、初日は」


 車に乗ると、母がマイクを持つ仕草で訊ねてきた。

 道を覚えるまで車で送迎してもらい、その後、自転車で通学することになっている。


「疲れた」

「そういうことじゃないんだけど」


 不満げな母に、ああ、と言って続ける。


「まあ、いい人ばっかりだったよ」

「勉強は?」

「そう! それ‼」


 ねえ、と言いながら私は母に詰め寄った。


「なんか貰った教科書が中三のなんですけど?」


 しかも授業でやっているのは後半部分。訳が分からなかった。

 こちらは言われていなかったことに結構怒っているのだが、全く伝わっていないようで、「まあまあ」と言う呑気な言葉が返ってきた。


「何とかなりそうですね。安心したわ」

「全く安心できない」


 こっちの質問に答えてくれ。

 そう怒りを露わにして言った私に、母が不敵な笑みを見せる。


「そんな妃良ちゃんにビッグニュース、グッドニュース」

「何さ?」

「近々、遊園地行こうか。合格祝い」

「え? 本当!? 行く行く‼ いやっほー!」


 遊園地なんて何年ぶりだろう。

 一気にテンション上がったね、と母が苦笑している。


 旅行には、来月の初めのの土曜日から火曜日の三泊四日で行くことになった。月曜日と火曜日はよくある「家庭の事情」でお休みする。


 このたった二日の休みが、後で自分の首を思い切り絞めることになるなんて、この時の私は全くしらなかった。


こんな学校嫌だ。

そう思いながら書いていました。笑

でも、成績が上がるならいいなあ。。


次の投稿は来週末になると思います。


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