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A Letter to You  作者: 静月 野架
第一章
2/4

東峰中学校での出来事

『いじめ』。


それがあったわけではない。そんな、大層なものではなかったと思う。


 私はその学校では少し特殊だった。

 私立北ヶ埼(きたがさき)学園中等部。県内ではまあまあ有名な私立学校で、今はさほど珍しくはない、中高一貫校だ。私も中等部からそこに通っていた。


 中学二年生から。


 正確には二年生の半分あたり。つまり、転校生というものだ。それまでは地元の公立中学校に通っていた。転校した理由は、居場所がなくなったから。


 前に通っていた、市立東峰(とうほう)中学校は、ヤンキーっぽい人が多く、少し荒れていた。けれど、そこでもいじめというものは一切なかったから、常識は意外とある人たちだったのかもしれない。しかし、やはりワルはワルだ。よく問題を起こしてはいた。だから、あの時も悪さをしているのだろうと思い、私は正義の味方気取りでそいつらに言ったのだった。


「ちょっと、何しているの? 嫌がっているじゃない! 人が嫌がることはしちゃいけない。そんなの、幼稚園児でも知っているでしょ!」

「ああ? てめぇ、目が悪んじゃねぇの?」


 私が注意した同じクラスの彼らは、私達と同い年か少し上くらいの女子中学生を取り囲んでいた。

 ヤンキーがそんなことをしていたら、誰だってカツアゲとかナンパとか、そういう良くないことをしていると思うだろう。相手の彼女が泣いていたら尚更だ。


 けれど、彼らはそんな事などしてはいなかった。

 むしろ、逆だったのだ。


「あ、あの。この方たちを責めないでください。その、助けてくださったのです。悪いことなどなさっていませんから」


 彼女の話によると、別の男たちに絡まれているところを彼らが助けてくれたという。

 

 そんなの嘘だ。

 そう思ったが、彼女の表情と、彼らの「ほらみろ」と言う言葉からそれは本当の事と思わざるを得ないようだった。


「んで? 悪いことしたらわざとじゃなくてもなんて言うんだっけ?」


 とてもムカつく表情で、声で、私に言ってくる。


「……ごめんなさい」

「声が小っさあい!」

「ごめんなさい‼」


 私は、そう叫んでその場から逃げるように離れた。「ように」も何も、実際逃げたくてそういう行動をとったわけだが。


 その日はそれだけだった。私はそれで終わりだと思って疑わなかった。



 しかし、そういう情報は一体どこから得てくるのか。次の日の学校の会話は、既に私の昨日の失態でもちきりだった。特に、女子。


「なんかね、昨日、鎌部さんが広田くんたちに濡れ衣着せたらしいよ」「えぇ!? 広田くんたち、確かに見た目はヤバいけど、ちゃんとしているのにね」「噂だと、昨日も困っている女性助けていただけなんだって」「良いやつぅ!」「ね」「たま~に問題起こしているけどね」「まあね」「思い込みって怖いわあ」「てかさ、妃良って、なーんか正義のヒーローぶっているトコあるよね」「それな!」「そういう子、あたし無理だわー」「ウチも」「同感」


 と、まあよくそれだけ情報持っていて、よく人の悪口言えるなあ、と感心してしまうほどに女子の情報網と話術はバカにならない。それと、目の悪さ。本人ここにいますけれど。いや、目は悪くないか。悪いのは耳だな。自分たちがどれだけ大きな声で話しているのか分からないのか、それくらいの声の大きさで話さなければならないほど耳が遠いのだろう。かわいそうに。


 そう思っていながら本を開いている私も女子なので、こちらの所持している罵倒の言葉も素晴らしい数だ。



 私も、初めのうちは耐えた。自分が悪かったから、悪口を言われても、クラスで独りぼっちでも仕方ないと思った。

 けれど、苦しいことを我慢するのには限界がある。

 ずっと一人でいることを、私は耐えることができなかった。

 私はついに学校に行かなくなった。

 もしかしたら、こっちから声をかけてみたら普通に話してくれたのかもしれない。もともと非常に親しい友人なんていなかったから、本当はクラスメイトに避けられているなんて、私の勝手な被害妄想だったのかもしれない。


でも。


それでも、もうクラスの輪に入っていくことは、私にはできなかった



 そして、正義のヒーローは悲劇のヒロインに変身した。

 不登校になってから、その後一度も学校に行かないまま、私の中学一年生は終わった。


 半年ほどしか中学校に行かなり、その後も行く気配を全く感じない私を心配した両親は、転校を進めてきた。


「このままじゃ、高校に行けなくなるよ。あの学校にもう行きたくないのだったら、転校したらどうだい? 高校に行けないのは、大学に行けないも同然だ」

「今はバイトでさえも高卒か高校在学の人じゃないと難しいからね」


 初めは「嫌だ」と言った。どこに行ったって、変わらないのだ。どこでもいじめはある。彼女たちのような人たちはいる。もっとも、私の受けたものを「いじめ」と断言することはできないが。


 両親と、そういう無意味なやり取りを何度もした。母親と引っ越すという案も出たが、パートとはいえ仕事をしている母を私一人の為に失業(と言うのは大げさかもしれないが)させたくなかったので断った。


 こうして、私は家からでなくなっていった。



 それからしばらく経った八月のある日。

 もう何度目か分からないが、今後の話し合いで、父がとある学校のパンフレットを出してきた。


『学校法人北ヶ埼学園 北ヶ埼学園中等部』


「まあ、編入試験はあるんだけどね。ここならいいんじゃない? ちゃんと勉強している子ばかりだろうから、そういうことは起きないと思う」

「常識人ばかりよ。どう、妃良?」

「お母さん、それちょっと使い方違う」

「……どう?」


 母は、父の言葉を無視して、私に聞いてきた。


 私は黙っていた。

 揺れていた。

 

 別に両親の言葉を信用したわけではない。


 カッコいいかも、と思った。


「私ね、中学受験したの」。


 そう言えるのは、なんだかエライ気がした。


 よく分からないけど、そう思った。


 今考えると、とてつもなく馬鹿な考えだと思う。


「チャレンジ、してみない?」

「……分かった。いいよ、やってみる」

「本当!? じゃあ、じゃあ明日。明日編入試験の申し込みに行こう?」

「え。やだ。ママ一人で行ってきて」

「仕方ないわね、もう」


 甘えていたな、とも思う。


 次の日、母は本当に一人で申し込んできてくれた。

 受験日は八月二十七日に決まった。範囲は中学二年の七月までに習ったところ。と、言われても、私は皆がどこまでやっているのか分からない。そう言うと、次の日母は担任の先生に電話して聞いてくれた。試験は国語、数学、英語、理科、社会の主要五教科のみ。一年の勉強は家で自主的にやっていたので私は両親に教えてもらいながら二年の今までの勉強を終わらせた。二十日ほどで範囲を終わらせた私を見て、両親は「これなら大丈夫だろう」「そうね。心配していたけど、何とかなりそうで良かったわ」と言い合っていた。私は入試の心配だろうと思っていたが、全く別の話だった。そのことは、入学してから知ることになる。

 受験なんて考えていなかった私は「中高一貫校」というのがいまいちよく分かっていなかったのだ。



 その後無事、試験に合格し、制服も届いた。東峰中はよくあるセーラー服だったが、北ヶ埼学園中、略して北中はブレザーだった。北中には十月から通うことになった。ほぼ一年ぶりの学校だ。


 不安と期待で胸がいっぱいだった。

どうして妃良が学校に行かなくなったのか。それを書きました。

次は、北ヶ崎学園に舞台が移ります。

自分に甘々な妃良は、次は何をするのやら。

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