プロローグ
目の前には、ビルの高層部。邪魔するものが何もなく、綺麗に見える。
それもそうだろう。こんな高くまで育つ植物は、きっと熱帯にしか存在しない。ここにいて目に映る物があるのなら、きっとそれは、鳥類または空。けれど、それらも夜には見えないものだ。
視線を落とし足元を見ると、はるか下に青々とした木々と、コンクリート。いつもは大きく見える物たちが、まるでミニチュアだ。掌の中に、すっぽりと納まってしまいそうである。
自分の後ろには、転落防止のフェンスがある。屋上は、八月なのに冷たい風が吹いていて、それに煽られてカシャカシャと音を立てている。
妃良は左腕につけている腕時計を見た。
「『14』23:58」の表示。
『14』は今日の日にちだ。
今までの日々を思い返す。
きっと、そういうわけではなかっただろう。そう思う。
いや、あれだけの人数がいたら、そのうちの数名は、もしかしたら、私の悪口を言っていたかもしれない。
しかし、私から見たら、そこにいるみんなが私の悪口を言っているように思えた。
これが、自意識過剰であることは、わかっているのだ。
十五年前の八月十五日に、鎌部妃良は生まれた。十五年後、自ら命を捨てるとは、その時誰も思っていなかっただろうな。そう思って、彼女はクスリと小さく笑った。
きっと、あれは、いじめではなかっただろう。
八割は、私が悪いのだ。
十五年前の「今日」も十五年後の「今日」も、世界はきっと幸せで満ち溢れる。
きっと、こんな私はそこにいない方が良い。
再び腕時計を見る。
「『14』23:59」と「49」。
あと、妃良の命は十一秒。十、九、八、七、六、五、四、三……。
「みんな、バイバイ」
0。
体を傾けた。
不思議と、怖くはなかった。
主人公が死んで、物語が始まります。笑
よろしくお願いします。