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国の人々に伝えられた平和な物語

作者: メリノ

 

 むかしむかし、この国に長い冬が続きました。

 雪は深く冷たく降りつもり、人の力ではどうしようもありませんでした。

 困った人々の前に魔法使いが現れこう言いました。

 この国に高い塔を建てなさい、そこで毎日祈りをささげれば、この国に四季が訪れるようにしてあげましょう。

 毎日祈りをささげるのは大変なので四つの四季の分、四人の人間がえらばれました。

 最初にえらばれた四人全員がぐうぜん女の人だったため四季の女王様と呼ばれました。

 それにあやかり四季の女王様は毎年女の人がえらばれます。

 四人の女王様が祈ってくれるおかげで、この国は色鮮やかな四季を迎えることができます。

 良い子のみんなは王様の次に女王様に感謝をして毎日を過ごしましょう。


 それはこの塔と四季の女王様にまつわる昔話です。

 国のみんなは魔法使いとの約束を守り毎日平和に過ごしていました。

 しかし、あれから何年もたったある日のことです。

 もう春になっていい日にちなのに、冬が終わらなくなってしまいました。

 冬の女王様が塔から出てこないそうなのです。



 はらはら、はらはら。

 今日も雪は止みません。

 国のみんなは空を見上げ、雪の冷たさに嘆き、春の訪れを願いました。


 そんな人々の声を聞いて、国の王子様は兄の王子様に問いました。

「兄上、民のために僕たちができることはないのでしょうか?」

 悩む王子に、兄王子は微笑み、言いました。

「何もしなくても春は来るよ」

 そんなはずはありません。

 冬の女王様が塔から出て、春の女王様が塔に入らなければ春は訪れない。

 それは小さな子供でも知っているこの国の常識でした。


 のんきな兄王子の言葉に、怒って部屋を飛び出した王子は誰かにぶつかってしまいました。

 王子の妹であるお姫様です。

 慌てて姫を助け起こすと彼女は泣いていました。

 ケガをしたのかと心配する王子に姫は言います。

「助けてお兄様、私のお母様が困っているの」

 王子はすっかり忘れていましたが、春の女王様は姫のお母さんだったのです。


 冬が終わらないのは春の女王様が塔に登らないせいだという噂が、みんなの間には広まっていました。

 疑われたショックで春の女王様は本当に寝込んでしまいました。とうてい塔に登れる様子ではないのです。

 姫は春の女王様に元気になってもらう方法と、冬の女王様に出てきてもらう方法を図書館で調べていましたが、頑張っても解決できず泣いていたのでした。

 悲しむ姫を見た王子は、自分が冬を終わらせる方法を探すと決意しました。

 王様は国のみんなに春が来る方法を見つけてほしいとお触れを出したようですが、王子である自分が解決しなくては、とも王子は思っていました。

 王子は責任感が強い立派な人でした。


「王子、冬が終わらなくて困ってるんだろう、手伝ってやるよ」

 そんな時、王子の友が協力するために城をたずねてきました。

「私もお母様のために頑張ります」

 姫も母のために手伝いたいと、涙をふいて立ち上がりました。

 こうして三人は春が訪れない原因を探るため、共に行動を始めました。



 三人はまず王様に話を聞きました。

 冬の女王様が塔から出てこないため、春の女王様が塔に入れず春が訪れない、と王様は言いました。

 春の女王様は何度も扉を叩いているのですが、返事はないそうです。

 冬の女王様が塔から出てこられない理由があるのではないかと王様は心配しているのですが、塔には女王様が一人ずつしか入ることはできません。

 冬の女王様が自分から出てくるのを待っている間に雪で国が埋もれてしまいます。

 王様たちは中の様子を確かめる方法を探していますが、塔の頂上の様子を知るのはむずかしく困っていました。


 王子たちは塔のことをよく知っている他の季節の女王様に話を聞くことにしました。


 王子たちはまず夏の女王様に話を聞きました。

 夏の女王様は、こころよく塔についてたくさんのことを教えてくれました。

 塔はとても住み心地のいい場所だけど、外と連絡を取る方法は手紙だけです。毎日のごはんや必要なものは小さな扉を使って受け取ります。

 塔の中に入れる大きさの出入り口は正面の扉だけ。女王様が暮らす部屋の窓も大きくは開かないそうです。

 塔の頂上は固く閉ざされていて、塔の外から入るのは難しいとも言われました。

 他に何か特別なことがないかと友人がたずねました。

 夏の女王様は少し考えると、女王様たちがずっと変わらず健やかに過ごせるおまじないがかけられていることを教えてくれました。


 次に秋の女王様に話を聞きに行きました。

 秋の女王様も、冬の女王様が塔にこもる前に、塔に異変があったのを見過ごしたのではないか、と理不尽に疑われてとても怒っていました。

 秋の女王様から話を聞くのは難しいかもしれない。

 王子たちがあきらめかけた時「春の女王は私の母です、冬が終わらないせいでとても困っています。何か教えてくれませんか?」と姫は涙ながらにうったえました。

 姫をかわいそうに思った秋の女王様は、冬の女王様が塔に入る時に安眠できるお守りを持っていたことを教えてくれました。


 最後に王子たちは春の女王様の元へ行きました。

 姫の言っていたとおり、春の女王様は寝込んでいました。こんなじょうたいで塔を登ることはできないかもしれない。

 王子たちが困っていると、王子の友が飲み物を春の女王様に手渡しこう言いました。

「これは我が国の名物である栄養剤です。これさえ飲めば元気が出ます」

 春の女王様は元気を取り戻しました。しかし、春の女王様は悲しそうな顔です。塔の扉を叩いても何の返事もなく城に戻るしかない毎日に疲れていたのです。

「国のみんなは春を待っています。冬の女王様は僕たちが必ず塔からお連れしてみせます。どうかもう一度塔へ登ってください」王子は春の女王様にお願いしました。

「お母様と離れるのはとても寂しいですが、みんなが春を待っています。共に扉を叩きましょう」

 王子と姫の説得に胸を打たれた春の女王様は、もう一度だけ塔の扉を叩くことを約束してくれました。


 三人の女王様の話を聞いて、王子たちは一つの答えを見つけ出します。

 再び王様に会いに行きました。

「王様、僕たちは三人の女王様に話を聞いてきました。大変なことがわかりました」


 王子たちが出した結論。

 女王様がずっと健やかに過ごせるようにと塔にかけられた魔法。

 冬の女王様が持っていたという、よく眠れるようにと贈られたお守り。

 その二つがそろったことで不思議な効果をはっきしてしまい、冬の女王様にずっと眠ってしまう魔法がかかってしまったかもしれない、というものでした。

 冬の女王様は塔から出てこないのではなく、眠ってしまって冬が終わっていることが分からなかったのです。



 王子たちの話を聞いた王様は国のみんなを集めました。

 人々は塔の前に集まり、冬の女王様の名前を呼びました。

 春の女王様と、王子たちも扉の前で冬の女王様の名前を呼びました。

 春の女王様と一緒に、姫も扉を叩きます。

 すると固く閉ざされた扉は開かれ、冬の女王様が姿を表しました。

 長く眠っていた冬の女王様の耳に、人々の声が届いたのです。


 冬の女王様が目覚めたということは、春の女王様は塔に入らなくてはなりません。姫は春の女王様に抱きついて、お別れのあいさつをします。

 春の女王様は、夏がくるまでどうか見守ってほしいと、姫の無事を王子に託します。王子はしっかりとうなずきました。

 春の女王様は塔へ入っていきました。

 王子たちは塔の前で春の訪れを待ちました。


 城へと帰る冬の女王様を、人々はを笑顔でいたわりました。

 冬が長引いてしまったけれど、それは不幸な事故のため。誰も冬の女王様を責めません。

 事件の解決に協力した王子たち三人には惜しみない賛辞を送りました。


 春の女王様が塔の一番上の部屋にたどり着いたのと同時に、風が吹きました。

 人々があたりを見回すと、国中暖かな空気に包まれ、花が咲きほこっていました。

 はらはらと降っていた雪の代わりに、花びらがひらひらと降ってきます。

 この国に春が来たのです。

 待ち望んだ春の訪れに、人々は歓声を上げ、喜びを分かち合いました。


 喜ぶ人々の中でただ一人、姫だけは悲しみにくれていました。

 国のために見送りましたが、やはりお別れすることが寂しかったのです。

 涙をこぼす姫の名前を王子が呼び、塔の上を指差します。

 姫が塔を見上げると、綺麗な花がたくさん降ってきました。それは姫の大好きな花でした。

 春の女王様の贈り物によって笑顔を取り戻した姫は、王子とその友と手をつなぎ、仲良く城へと帰りました。


 見事春をもたらした三人に王様は褒美を与えようとします。

 しかし彼らはその申し出をていねいに断りこう言いました。

「王様、僕たちは民のために、私は母のために、私は自分の国のために、すなわち自分の望みのために冬を終わらせたのです。自分のしたいことをしただけの僕らに褒美など必要ありません」

 王様は見返りを求めない三人の心に深く感動し、三人の活躍を言い伝えることを約束しました。



 城を去る三人の前に、ずっと彼らを見守っていた魔法使いが現れます。

 王様には望みはないと言った三人ですが、それは真実ではなかったのです。王子たちの望みは王様に叶えることができないものでした。

 善良で勇敢な三人のご褒美に、魔法使いは彼らの望みを叶えてあげました。三人はとても喜びました。

 本当の願いが何だったのか、それは三人と魔法使いしか知りません。

 王子たちの勇気ある行動のおかげで、今日も季節はめぐり、国の平和は続いています。


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