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明輪は、ハッと目を開いた。

…明蓮!

そして飛ぶように起き上がると、脇の刀を左手で探ろうとして、無いのを感じた。すぐに聞き慣れた上司の声が降って来た。

「…ならぬ。ここは宮の、治癒の対ぞ。」

明輪は、我に返ってその声の主を見た。

そこには、義心が険しい顔で立ってこちらを見ていた。

回りには、明輪と同じように傷ついた軍神達が手当てを受けている最中だった。中には、龍軍だけでなく、月の宮の甲冑を着ている者も居て、意識のない者が大半だった。

その中には、一緒に潜んで明蓮達を見守っていた、慎也も含まれていた。

「慎也…。」と、義心を見た。「義心殿、明蓮は、明蓮達はどうなったのでしょうか。」

義心は、首を振った。

「連れ去れたが、我らにはどうしようもない。闇が生まれ出ようとしておったその誕生の力は莫大ぞ。それを利用した攻撃に、大半がやられた。月と地が守っていてくれたため、命までは失わなかったが、本来なら皆殺しになっておったほどの力ぞ。炎嘉様でもそれに貫かれて一時は心の臓が止まり、今は何とかお命を留められておる状態。しかし、恐らくは助からぬと。」

明輪は、衝撃を受けた。そんなものに、明蓮を連れ去られてしもうたのか。この手に、奪い返したのに…!

「ならば、我が参る。場所は分かっておりましょう。」

義心は、首を振った。

「王がお許しにならぬ。闇は、龍王である王でも、手出しの出来ぬもの。月に任せるより他ないのだ。主が行っても無駄に犠牲が増えるだけぞ。月を信じて、待つしかない。」

明蓮は、それでも追い縋った。

「どうか!義心殿、それでは明蓮は儀式に使われて命を失ってしまうやもしれませぬ。その後で、闇を倒したところで、もう明蓮は…公明様も、紫翠様も戻っては来ぬのに。」

義心は、心底同情したような顔をした。

「主の気持ちは分かるつもりぞ。しかし、ここは出られぬ。王が、絶対の結界を敷いておられる。陰の月の維月様を闇に取られでもしたら、陽の月でも対応出来ぬようになるゆえ、闇から地上を守るためには、それしかないのだ。その証拠に、地までもこの宮の奥に強固な結界を張って闇の襲撃に備えておるのだ。つらいだろうが、地上全ての生き物、民のためにも、闇を始末することに力を注ぐよりない。」

それを聞いて、明輪は、ガックリと肩を落とした。闇…確かに闇に対するのは、月しかない。だが、我が子は闇に飲まれてしまうやもしれないのに。ここで、己だけ王の結界に守られて、籠っておれというのか。それしか、自分には出来ぬのか…!


維心は、月を見上げていた。十六夜は、言った。

《蒼にも聞かせてる。維心、新月と享は、今オレ達が昔住んでいた、月の屋敷の近くの、闇を封じてた洞窟の中に居る。オレがその昔、ツクヨミという女に降りて闇を封じてた場所、その後、またオレが蒼に降りて消しちまった場所だ。》

維心は、奥の間に居た。維月は、碧黎が眠らせてから、まだ眠ったままだった。そちらを気遣わしげに見てから、言った。

「…主らには懐かしい場所ということか。様子はどうだ。」

十六夜の声は、暗かった。

《まだ闇は完全に復活してねぇ。なぜなら、新月の月の力が張った結界が、その岩屋に張られてるからだ。オレが中へと浄化の光を流し込もうとしても、その月の結界が阻んで奥まで届かねぇ。だが、中で闇が復活したら、新月の月の力ごときじゃ闇に負けて消されるだろう。その時には、月の結界は消えて、オレの力も流れ込む。オレが、闇を消す。》

維心は、険しい顔をした。

「タイミングが難しかろう。恐らく、享にも分かっておる。主に消されることがの。ゆえ、復活すればすぐに維月を取り込もうとこちらへ向かうはず。」

十六夜の声は、頷いたようだった。

《どこまでの力の闇が復活するのか分からねぇが、親父も居る。ある程度は力を抑えられると思うが、それでもお前の結界がどこまで持つかだな。お前の結界が崩れるのが速いか、オレが闇を消し去るのが速いかってところだろう。親父の結界も、闇相手だとお前の結界と同じぐらいの効力になるだろうからな。それだけ、闇は厄介だ。》

維心は、また維月を見た。

「…陰の月…しかし、今は同情の余地はあるまい。前の闇とは違う。享が種にした闇は、その昔の性質の悪い闇であろうが。維月は、取り込まれぬと我は思う。そんな、柔い女ではないゆえ。」

十六夜の声は、しかし同意しなかった。

《それでも、危険は冒したくねぇんだよ。また三人で仲良く黄泉か?オレは良いが、お前は当分来させてもらえねぇぞ?親父が、世を平定するのは維心しかいないって言ってたじゃないか。それに、親父は維月を絶対に殺させないと思うぞ。前世とは、感情から違う。だから眠らせてるんだろうしな。》

維心は、ため息をついた。

「分かっておる。頼んだぞ、十六夜。主にしか出来ぬ。」

十六夜の声は、頷いたようだった。

《分かってるさ。》と、何かに気付いたように、十六夜の声が揺れた。《…始まりやがった…!新月の、月の結界が揺らいで来てる!》

維心は、固唾を飲んだ。

闇が、遂に出て来るというのか…!

維心が思わず知らず構えていると、義心の声が、居間からした。

「王。ご報告に参りました。」

維心は、その声に居間の方へと足を向けた。

そこには、義心が膝をついて待っていた。

「何ぞ。」

義心は、顔を上げた。

「は。負傷者は手当てを受けさせております。ご命令通り、簾と律の結界の毒は全て治療させました。」

維心は、頷いた。

「生きておるか。」

義心は、頷いた。

「はい。まだ体は動かないはずですが、それでもどうしても、王にあの、仙術についてお話がしたいと律の方が申しておりますが。」

維心は、少し黙ったが、頷いて促した。

「連れて参れ。」

義心は、頭を下げた。

「は!」

そうして、そこを出て行った。

すると、目の前にパッと碧黎が現れた。

「仙術を知っておるのではないのか。」

維心は、やはり慣れても驚くので少し碧黎を睨むと、言った。

「そうであろうな。聞いておるのは良いが、いきなり出て来るでないわ。」

碧黎は、お構いなしに側の椅子へと腰かける。

「我は、仙術についても知らねばならぬのだ。そうでなければこれから先も、維月を確実に守り切れぬ事態になるやもしれぬではないか。我もその話を聞く。」

維心は、それはそれで少し胸が騒いだが、碧黎には本気で維月を守ってもらわねばならないので、何も言わずにそれに従うことにした。

しばらくして、義心が、しっかりした体躯の男に手を貸して、居間へと戻って来た。

「王。連れて参りました。」

男は、ひざまづくのも難しいようで、床に座り込んで頭を下げた。

「律と申しまする。」

維心は、頷いた。

「知っておる。結界を破りまくってくれたことについては、後のことよ。それより何用か?」

律は、顔を上げた。

「は。享という神が、この騒ぎの元凶であることはご存知か。」

維心は、頷いた。

「知っておる。我の昔滅ぼした宮の皇子ぞ。厚かましくも生き延びておったとは、我の不徳よ。」

律は、頷いた。

「では、その神のことは言いますまい。あれは、闇を復活させる術を使おうとしておりまする。子らの命を新月という体に取り込み、そうしてそれを闇が形代に復活するという術でありまする。」

「阻止する方法はあるか?」

維心が聞くと、律は険しい顔で首を振った。

「術が発動してしもうたら、外からは有りませぬ。子ら自身の内側の問題になって参ります。」

碧黎も、維心もグッと眉を寄せて鋭い目になった。

「なぜに享はあの三人を選んだのだ。そこらの神ではなく。」

律は答えた。

「闇がその性質を取り込むからでございます。」維心と碧黎が、黙って聞いているので、律は付け加えた。「闇が愚かでは月に勝てないので、賢い命を。最初から力のある闇であるように強い気の血筋を。陰の月を取り込むために油断させようと見目も麗しく。そして闇にしっかりと染まることの出来る、真っ白な命を。なので、子供で王の血を引く殊に賢い美しい子供を選んだのでございます。命は、新月の他に三つ必要でした。」

では、あれらの特質を取り込んだ闇を作るためにそうしたのか。

碧黎が、口を開いた。

「…仙術のいやらしい所ぞ。己多がヴァルラムの城で使った仙術を覚えておるか。美加が飲んでヴァルラムの皇子が精神世界で戦った、あれぞ。もしや、あのようなことが、公明や明蓮、紫翠にも起こるのではないのか。」

律は、訳が分からないようだったが、維心には分かった。つまりは、精神的に強くなければ、仙術に取り込まれてしまうのだ。そうして命を取られてしまう。

律は、戸惑いがちに言った。

「おっしゃる術のことは我には分かりませぬが、あれらは取り込もうとする術に、幻覚のようなものを見せられまする。幻覚は、取り込まれようとする者の、弱い所を突いて参ります。決して相手の言う通りにしてはならない。相手を、否定せねばならない。大人でも難しいことなので、子供ではかなり厳しいかと思うたのですが、我は最後に、公明に何も信じてはならないと、言い置いてはおります。子どもであるし、我は敵であるし、あまり期待しては居りませぬが。」

碧黎は、真顔で頷いた。

「よう言うておったもの。あれらは、世を治めて行く血筋の子らぞ。ただ賢しいだけではない。それを覚えておって、もしかして勝てるやもしれぬではないか。どちらにしろ我らには、今あれらを助けに参ることは出来ぬ。闇となった時、十六夜に消させるしか手はないのだ。恐らく、そろそろ新月の中の月の命が力尽きよう。その時が、勝負よ。」

維心は、頷いた。知っていながら、手出しの出来ぬジレンマで、維心はイライラしていた。炎嘉も危篤状態から脱するのが難しいようだと知らせが来ている。このまま、世が終わってしまうのだけは、何としても避けねばならぬのだ!

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