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炎嘉の宮へ

月は出ていたが三日月だった。

満月の明るさを思うとかなり暗いが、それでもその浄化の力は健在だった。

悩んだ結果、追手にも気取られると面倒だということで、全員が自分の力で気を遮断する膜を被り、そうして移動していた。

自分で作った膜ならば、いつでも自分で消すことが出来るからだ。

紫翠だけは、まだ気が潤沢な公明が膜を張り、そしてその紫翠は、律が背負って進んでいた。

飛んで進めば早いのだが、生憎公明も明蓮もまだ気が少ないのでそう長くは飛んでいられない。それが分かっていたので、非常時に備えて気は使わず、ひたすらに歩いて移動していた。

簾と律なら、本調子の時なら子供三人ぐらい担いで飛ぶことが出来たのだが、今は生憎、体を流れる毒のせいで無理も出来ない。

なので、苦渋の選択だった。

明蓮が、フッと息をつく。それに気付いた公明が、隣りから明蓮を見た。

「主、大丈夫か?気がかなり減っておるように見えるが…あれらに術を施したりしたから、無理が掛かったのではないのか。」

それを聞いて、先を歩いていた簾と律も振り返る。明蓮は、首を振った。

「大事ない。補充しながら歩いておるから。」

それでも、それは細々としかなされていなかった。簾が、寄って来て明蓮の顔を覗き込んだ。

「やはりまだ身は子供であるからか。大層な口をきいておっても、眠らねば子供の体を維持する気は補充出来ぬのだ。」と、明蓮を抱き上げた。「そら、少し眠れ。我らも命が懸かっておる。寝ておる間に何某かないゆえ。」

明蓮は、慌てて首を振って降りようともがいた。

「ならぬ。公明と紫翠を放って我だけがなど。」

律が、紫翠を背負ったままこちらを見て言った。

「何を言うておるのよ。このチビはさっきから眠りっぱなしぞ、我の背で。主は背伸びし過ぎておるのだ。普通なら親に甘えておるような年。引き離した我らが言うのもなんだが、親から離れて己で生活するなど無理ぞ。」

公明が、何度も頷いて言った。

「その通りぞ。我が居る。主は休め。これらは愚かではないわ。我らを殺した後どうなるのか知っておる。だから何もない。案じるな。」

明蓮は、ためらうような顔をした。簾が、明蓮を背に回した。

「そら、眠れ。我らだって、子であった頃があったゆえ、分かるわ。」

明蓮は、仕方なくおずおずとその背に身を預けた。そして、その背に揺られながら、言った。

「…主らも、子であったのか。そうよな。」

簾は、歩きながら背の方を見て、片眉を上げた。

「それは我らだって子供だった時はあるわ。ただ、主らのようにぬくぬくとは生きておらなんだがな。」

明蓮は、少し驚いたようだった。

「ぬくぬくと?」

それには、向こう側の律が頷いた。

「我ら、捨て子であったのよ。恐らくそうであろうと思う。気が付いた時には廃墟で、回りに誰も居なかった。気を補充することは己で出来たゆえなんとかなったが、それでもはぐれの神達に遊戯で嬲られて殺される子らを目の当たりにもしたし、夜は満足に眠ることも出来なんだ。簾と我は、お互いにお互いの名を考えて付け、そんな中生き抜いておったのだ。同じような奴らも居たのだが、次々に死んでしもうてな。残ったのは我らだけ。」

簾は、懐かしそうに眼を細めた。

「そうであった。獣の皮と木の皮をまとってな。そんな我らを、拾ってまともな着物を与えて世話してくれたのは、もう二千年も生きるとおっしゃったあのかたであった…。」

簾は、急に黙った。明蓮は、簾の背中に揺れられ寝入って行きながら、その様を思った。恐らくは、誰も頼れず生きていた二人を拾い上げた誰かを、この二人は親のように思って仕えていたのだろう。それが、やはり使い捨ての駒でしかないと悟り、そうしてまた、自分の命を繋ぐために、こうして密かに戦っている…。

明蓮は、そこで意識を手放した。


《主からそのように我に話しかけて来るとは気が逸ることよ。しかも、この真夜中に。》

炎嘉の声が聴こえる。維月には、炎嘉が寝間着のままで窓際まで出て来て月を見上げているのが見えていたが、その言葉に苦笑した。

「まあ炎嘉様、そういった意味ではありませぬの。お起こししたことは申し訳ありませぬ。あの、そちらに明蓮達が近付いておるので、お知らせねばと。維心様は潜んでおったあちらの手の者が捕らえられてこちらへ連れて来られたので、今取り調べに参られておりまするわ。」

炎嘉は、答えた。

《そうか。ならば保護した方が良いかと思うたが、こちらに義心が来ておるのだろう?ならば我は結界を通す他することはないの。たかがはぐれの軍神二人、あれらの敵ではないしな。》

維月は、慌てて言った。

「いえ、今は明輪と慎也かと。追手が掛かっておるだろうとのことですわ。どうやら、その二人は捨て駒にされたようで…それに気付いて、明蓮達と約してあれらを守って炎嘉様の結界を目指しておるのです。義心は、今頃北を捜索しておるかと思いまする。」

炎嘉は、顔をしかめた。

《まどろっこしいの。さっさと捕らえて子らを保護して連れて参ったら良いではないか。なぜにそのようなことをしておるのだ。》

維月は、空からいろいろな状況が見えているのだが、言った。

「はい…恐らくは、追手を捕らえることも考えておるのではないかと思いまするわ。少しでも敵の人数を削れた方がよろしいですし、情報もたくさん入りましょう。それに…聞けば、不幸な身の上の二人のようでございまするし。私も、聞いておって切なくなりましてございます。」

月から、維月の感情が炎嘉に伝わったらしい。炎嘉は、慰めるように言った。

《そのように。主は慈愛の月であるからな。全ての神が見えておるわけではないし、我らとてどうしようもない不憫な境遇の子らも居るということぞ。その二人は、そうなのであろう?》

維月は、炎嘉に見えないのを承知で、頷いた。

「はい…。今、明蓮達に話して聞かせておりましたのを、聞きましたの。困ったこと…早うあの身を治してやって欲しいもの。今は明蓮が抑えておるとはいえ、やはり維心様のお力はお強いゆえに、今も身を蝕んでおるのは確かですわ。」

炎嘉は、答えた。

《しようの無い事よ、主がそのように申したら、我は抗えぬわ。我が助けてやるゆえ、案ずるでない。分かったの?》

維月は、微笑んだ。

「はい、炎嘉様。」

炎嘉は、自分で自分に呆れたように言った。

《ほんになあ主に乞われたらむげには出来ぬ。困ったものよ。》と、戻って行きかけて、振り返った。《…次にこちらへ参るのは数週間後の約束であったな?年に二度と申してあやつは先延ばしにしよるから我から重々申すからの。維月、早う来い。》

維月は、それにはいつもの約束なので苦笑しながらも頷いた。

「はい、炎嘉様。」

《良い返事ぞ。待っておる。》

そうして、炎嘉は部屋の奥へと入って行った。

維月は、また月を見上げた。あのように不幸な境遇の神が、まだどこかに居るのかもしれない。それならば、それを助け上げてまっとうな道を歩かせてやりたい。だがそれをするには、神世はあまりにも広い…。

月の広域の視野で見渡しても、やはり地上はとても広かった。


炎嘉は、急いで侍女も呼ばす自分でサッサと甲冑に着替えた。手を通した甲冑が青いのを見て、少し顔をしかめる。ずっと赤い甲冑を着て来た炎嘉には、何度これを身に着けても慣れなかった。

それでも、自分はもはや龍であり、この甲冑を着ることが自然なのは知っている。

炎嘉はため息をついて、居間へと出ながら言った。

「嘉楠!出るぞ、南東から子らを連れて敵の男らが参る!」

居間を横切って回廊へと出ると、そこで嘉楠が来て膝をついた。

「始末をつけまするか。」

炎嘉は、苦笑して首を振った。

「いや、あれらは裏切ってこちらへ参ろうとしておるのだ。追手が掛かっておるだろうし様子を見る。龍軍が既に見つけて様子を見ながら追っておるようぞ。ここを目指しておるから、主らも遠巻きに援護を。」

嘉楠は、頭を下げた。

「は。」

踵を返した嘉楠は、先に回廊を抜けて飛び立って行った。

炎嘉は、それをゆっくり追って行きながら、月を見上げた。今は十六夜の気配もするが、維月がそこからこちらを見ているだろうことは、炎嘉にも分かった。

「早う終わらせて主と過ごしたいものよ…。」

炎嘉のつぶやきは、維月にも伝わったようだ。

維月からは、少し微笑んだような気が伝わって来て、それだけで炎嘉は気が軽くなり、明蓮達を探して飛んで行った。

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