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「明蓮…明蓮、しっかりせよ!」

公明が、泣かんばかりの声で必死に明蓮を揺すると、明蓮は目を開いて、公明を見た。

「…シッ!静かにせよ、我は何でもない。」と、本当に囁くような声で言った。「うまく行った。ようやったの、紫翠。」

紫翠は、フラフラと狭い箪笥の中を寄って来た。

「われは、あれでよかったのか?ぬし、ほうりなげられて…。」

明蓮は、フッと笑った。

「主こそ絞めあげられたではないか。ああなるのが分かっておってのことぞ。怖い思いをさせたの。」

公明は、何のことか分からぬままに、二人を暗闇の中見比べた。

「なんぞ?主ら、何か謀ったのか。」

明蓮は、頷いた。

「手に入れたい物があった。それが見えたゆえ、紫翠に暴れよと申したのだ。律の体に触れる機が欲しいからと、念での。」

公明は、呆気にとられた。では、あの時念で話しておったと申すか。

「他に気取られずによう念などで…」と言いかけて、渋い顔をした。「…また父か。」

明蓮は、頷いて自分の懐から巻物のようなものを引っ張り出した。

「気を絞ればその相手にだけ聞かせることが出来るわ。主だってすぐに出来るゆえ、今やってみよ。」と、明蓮は念に変えた。《そら、こうやって。二人に聞かせることが出来るようにしておる。外には漏れぬ。》

公明は、言われるままにやってみた。

《…こうか?》

明蓮は、頷いた。

《そうよ。出来るではないか。だがそれでは紫翠に聞こえぬ。今度は二人に絞ってみよ。》

公明は、うーんと唸った。

《…どうよ?》

紫翠が、パッと公明を見た。

《きこえるぞ。》

紫翠が念で言う。公明は、驚いたように紫翠を見た。

《なんぞ主、出来るのか!》

紫翠は、首を振った。

《今、まねてみたらできた。かんたんぞ。それに、この方が自分の言いたいことが言える。口はなかなか動かしづろうて我はなんぎしておったのだが、これで主らにいろいろさっさと話が出来るの。》

確かに、スムーズに紫翠の言葉が聴こえた。明蓮は、狭いので座ることも出来ない中で、寝転がって巻物を開いて見た。

その間も、箪笥は気で持ち上げられているらしく、ゆらゆらと揺れて移動しているようだった。明蓮は、その巻物を見つめて、閉じた。

《思った通り、仙術の巻物。しかしかなり新しい。何かを書き写したもので、これは仙人が使っておったものではないようよ。誰かが、律たちに使わせるために持たせておったようよな。》

公明は、横からそれを覗き込んでいたのだが、またそれを明蓮から受け取って、開いてみた。

《なんとの…この膜はこうやって作るのか。こうして見たら、簡単だの。しかし、他人が作った膜に籠められたら、外からしか破れないとは厄介な。》

明蓮は、首を振った。

《内から破る術が書いてあるわ、ここに。》

と、指さした。公明は、目を丸くした。

《主…また、暴れるのではないだろうの。》

明蓮は笑った。

《そんなはずはあるまいが。しかし、誰かの気が膜を掠めたら良いだろう?己に張られたら、己から気弾に当たりに行ったらいいのだ。掠める程度にな。》

そこには、膜は外からの気に弱いので、気が微かにでも当たればまるで水泡のように消えると書いてあったのだ。

公明は、それには渋い顔をした。

《あのなあ明蓮。簡単なことではないぞ、まともに当たっては死ぬしの。掠める程度など、難しい。》

明蓮は、しかし真面目な顔で言った。

《最初から期待しておらぬ。我が当たりに参って膜を消し、主らの膜は我が破壊するゆえ案じるでないわ。》

公明は、あからさまにムッとした顔をした。

《どういうことぞ!最初から期待しておらぬとは!》

すると、意外なことに紫翠が割り込んだ。

《我もその方がいいと思う。見ておっても明蓮の方が主よりたよりになりそうであるし。》

《主までそのようなことを言うか!念になったら嫌味までスラスラ言いよってからに!》

公明が念で叫ぶ。

実際はシンと静まり返っていたが、明蓮は公明をなだめ、紫翠を叱責し、そして他の知り得た仙術の説明をして、運ばれるままになっていたのだった。

箪笥は、律と簾に運ばれて深い森の中を移動していた。


炎嘉は、これからのことを維心と話し込んでいて、龍の宮への滞在が長引いてしまった。

本当なら日が暮れてから帰ることはあまりないのだが、炎嘉は王になってこのかた忙しくてしかたがない。早めに帰って今日維心と考えたこと、知り得たことを臣下に話す必要があるし、また今の筆頭重臣にしている鳥の生き残りである開がかなり頭が切れる上によく働くので、開の意見も聞いてみたい、というのもあった。

そんなわけで、夜遅くなったが維心と共に出発口に出て来ていた。

「泊まって参れば良いものを。まあ宮も落ち着かぬし居ってもゆっくり出来ぬだろうし引き留めはせぬが。」

炎嘉は、苦笑した。

「このような状況で。王が宮を空けておったら臣下に文句を言われるわ。主が我を王に戻したのだろうが。とにかくは、我は戻って開に話をしてみるわ。あやつなら、思ってもない方向から情報を持って参る可能性があるしの。」

維心は、頷いた。

「優秀な臣下が居って羨ましいことよ。気を付けて帰れ。と申して主に脅威などなかろうが。」

炎嘉は、ふふんと笑った。

「骨のあるやつが居らぬで面白うないわ。まあ此度の事、退屈せぬで良い。」と、維心に背を向けた。「ではの。」

炎嘉が飛び立つのだと維心が見送ろうとしていると、炎嘉はそのまま、ピタリと止まった。そして、怪訝な顔をして、南西の方角を見て首を傾げた。

維心は、黙ってそれを見ていたがいつまで経っても飛び立とうとしないので、焦れて言った。

「…何ぞ。行くのではないのか。」

すると、炎嘉は、維心を振り返った。

「いや…何やら、絡まった糸を感じてな。だがこれは同族ではないの…鷹?鷲か…?」

維心は、顔をしかめた。

「同族とはどっちよ。主は今龍であろうが。」

炎嘉は、軽く維心を睨んだ。

「我はまだ鳥のつもりでおるわ。感じ方が鳥のままでの。」と、首を傾げた。「しかし焔は北よな。ではこれは何ぞ?やたら強い勢いでわざと流しておるような…?西の方向へ流れておる。」

維心は、炎嘉と並んで空を見上げた。

「…分からぬ。何の糸よ?」

炎嘉は、ニタリと笑った。

「鳥族の周波数ぞ。他の種族には分からぬわ。いくら主でもの、維心。」

維心は、面白くなくてフンと横を向いた。

「別に分からぬでも良いわ。誰ぞが連絡でも取ろうとしておるのではないのか。主ではなかろうが。」

炎嘉は、それには真面目に頷いた。

「我ではないの。鷲に知り合いは居らぬわ。焔ぐらいぞ。」と、今度こそ飛び立とうとした。「まあ帰り道に上を通るようなら見ておくかの。迷っておったら哀れであるし。では…」

「待て炎嘉!」

維心は、飛び立とうと半分以上浮いていた炎嘉の腰辺りに飛びついた。炎嘉は、びっくりして維心を振り返った。

「な、な、な、維心!何をする主、我はそっちの趣味はないぞ!主とてそうではないのか!」

維心は、しまった、維月がこうするのをしょっちゅう見ているのでうつってしもうたと、バツの悪そうな顔をしたが、しかし言った。

「違う、鷲ぞ!西に流れておる鷲の気と申したな?!」

炎嘉は、怪訝そうな顔をした。

「それと主が我に後ろから抱き着いておるのとどんな関係があるのだ。仮に主とまぐわうにしても我に主導権を握らせぬと応じぬぞ。」

維心は、慌てて炎嘉から飛んで離れてブンブン首を振った。

「だから違うと申すに!西へ流れるということは、そっちに居る鷲に知らせておるのだろうが!西に居る鷲は、綾しか居らぬのではないのか!碧黎が、意味深な事を言うておったのだ、翠明が綾を娶ったのは良かったのか悪かったのか、良かったんだろうの、と!綾が鷲でその子が力を持っておったのは狙われる理由になったゆえ悪かった、しかし鷲であるから気取れるゆえ良かった、ということではないのか!」

炎嘉は、見る見る表情を変えた。

「では…ではもしやこれは、翠明の皇子か!」と、浮き上がった。「軍神を借りるぞ維心!行って参る!」

「我も行く!」維心も飛び上がった。「我は出て参る!義心!来い!」

維心が炎嘉を追って飛び立つと、維心の声を聞きつけた義心がどこからか飛んで来てその後を追って行くのが見える。

それを遅れて必死に出て来た兆加と鵬が見上げていたが、維心達はそれにも気付かずもう遠くへ飛び立ってしまっていた。

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