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真相

「なんと申した?!ならば維月を帰すなど言語道断ではないか!」

維心は、声を上げた。十六夜は、シーっと口に手を当てて維心をなだめた。

「大丈夫だって、あいつは維月を模範的な女神と勘違いして勝手に思い込んでるだけだって言ってるじゃねぇか!池の錦鯉釣った話したら、びっくりして口もきけないような感じだったし、ほんとの維月を見たら、絶対萎えるって!」

維心は、うーっと唸った。

「確かに錦鯉を釣るような王妃など居らぬが、あの池で釣りをしてはならぬと教えておらなんだ我が悪いのだと思うておるからあれは良いのだ。あの後我が針を抜いて急いで戻したゆえ、無事であったしの。もう少しで鯉こくになるところであったが。」

十六夜は、同情したように維心を見た。

「お前、完全に愛情フィルター掛かってるんだって。普通に考えたら教えてなくてもあんな高そうな鯉釣って料理しようなんて思わねぇ。そもそもそんなガサツな女は女神には居ねぇしな。普通の神の王はそんな感じの女を王妃になんて思わねぇだろうがよ。一般的な考え方を言ってるんだよ。お前の維月に対する考えじゃなくて。」

維心は、十六夜を睨んだ。

「そういうことを差っ引いたって維月は慕わしいのだ。炎嘉だって志心だって義心も嘉韻もそうであろうが。我はもうこれ以上は懸念の種を増やしとうない!」

十六夜は、ため息をついた。

「わかってるって。でもあいつは長いことあんな所に籠って維月のことを手にしようなんて思ってなかったじゃないか。大丈夫だって、安心しろ。」

維心は、恨みがましい目で十六夜を見た。

「主の大丈夫はあてにならぬ。わかった、では我も共に参る。今日の謁見は出ねば兆加がうるさいゆえ、夕刻から参るから待っておれ。維月にもそう申しておく。主が呼ばれて急に戻ったとか何とか申すから。さ、早く行け。」

十六夜は、仕方なく立ち上がった。

「しょうがないなーお前はよお。わかったよ、あっちで待ってる。ほんとに来いよ?維月に恨まれるぞ。」

維心は、苦々しげに頷いた。

「分かっておるわ。」

そうして、十六夜は一人で月の宮へと戻って行ったのだった。


その少し前、月の宮では、明け方に戻った時点で臣下一同が大広間に集まり、蒼と月夜を待っていた。

壇上の王座へと進む蒼の背中を追って歩きながら、月夜はこの宮が記憶にあるよりたくさんの臣下を抱えているのを肌で感じていた。もっと少なかった臣下達が、今ではそれは大勢大広間にびっしりと埋まっていて、後ろには膝を付く軍神達の姿も見えた。

蒼は、慣れたように王座へと座ると、月夜に横へ並ぶようにと身振りで示した。月夜は、それに従って蒼の隣りに立った。

もう老人の域に達していた見覚えのある顔の重臣らしき男が、スススと進み出て頭を下げた。

「王に於かれましては、皇子月夜様をお連れになってお戻りになられたと臣下一同お慶び申し上げます。」

蒼は、頷いた。

「この度碧黎様の助力を得て北の地に居た月夜を連れ戻ることが出来た。しかしこれも、あちらでそれなりの役に立っていたようだ。なので、此度はこちらで長く離れておった神世を学んで、もしも自分のやるべき事が見つかった場合は戻って参るが、そうでなかった場合は戻ることを許すつもりでいる。主らも、そのつもりでこれにいろいろ教えてやって欲しい。期間は未定であるが、これも育ったことであるし、幼い頃に使っておった部屋というわけにも行くまい。北の対を与えるゆえ、準備せよ。」

臣下は、顔を上げた。

「では王、将維様の近くの対ということでございますね?」

蒼は、頷いた。

「そうだ。将維にはまた話しておく。そのように頼む、翔馬。」と、側に立つ男に言った。「ということで裕馬、学校で面倒見てもらっていいか。」

裕馬と呼ばれた初老の男は、頷いた。

「わかった。あの小さかった子が、まさかこんなに立派になるなんて思ってもみなかったよ。」

蒼は、苦笑した。

「思えば瑤姫の血筋なんだから、こうなってもおかしくはなかったんだよな。オレの子供は他はみんな女だったから、男だったらこうなるんだと驚いてるよ。」と、背後の軍神の方を見た。「嘉韻、前へ。」

後ろに控えていた、嘉韻が立ち上がって前へ出て来た。そして、膝をついて頭を下げた。

「御前に。」

月夜は、その龍でありながら赤いような気を持つ金髪の軍神に驚きながら、真顔でそれを見ていた。蒼は、言った。

「恐らくろくな剣術も教わって来なかったと思われるし、気を使った戦いも知らぬかと思う。先はどうなるかは分からぬが、帰っても残っても支障ないように、立ち合いも教えてやってくれないか。」

月夜は、蒼のその言葉に驚いた。嘉韻は、特に驚きもなく、頭を下げた。

「は!仰せの通りに。」

月夜が硬い顔をしていると、蒼は、月夜を見上げた。

「では、主からも何かあるか。」

月夜は、眉を上げた。臣下達は、それを聞いて一斉に月夜を見上げている。月夜は、これほどたくさんの臣下の前で話すのは、初めてだった。しかし、腹をくくると、顔を上げて皆を見回した。

「…長く離れておったゆえ、知らぬことも多いと思う。ここで主らから教わって、一刻も早く見失った己の責務を探したい。時が掛かるやもしれぬが、我に手を貸して欲しい。それから…」と、チラと蒼を見たが、また皆に向き直った。「我の名、月夜であったが、もう長くその名で呼ばれては来なんだ。我はもう、今は新月だと思うておる。主らにも、これよりは我のことは新月と呼んでもらいたい。」

それには、蒼も驚いた顔をした。臣下達も、戸惑った顔をして回りと顔を見合わせている。蒼は、確かにそうだと思っていた。これまでずっと、新月と呼ばれて来たのだ。今更月夜と呼ばれても、自分だという気がしないのだろう。

なので、息をついて、頷いた。

「確かにの。月夜と呼ばれておったのは、幼い頃のほんの数年のこと。主がそれを選んだのなら、それで良い。これから、これのことは、オレも新月と呼ぼう。」

蒼の言葉で、戸惑っていた臣下達も、一斉に頭を下げた。月夜…新月は、その様に衝撃を受けていた。いつの間にか、月の宮はここまで来た。父も、あの頃は王と言ってもここまで皆に敬われているようではなく、仲間のような感じだったのに、今では普通の神の宮の、王と変わらない扱いだ。

立ち上がって歩いて行く蒼の後ろについて歩きながら、新月はそんなことを思っていたのだった。


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