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会合の日

その日、龍の宮には神世の神の王達が集って来ていた。

例によって維心は最後に出て行くので、まだ居間で維月とおっとりと座っている。しかし宮の到着口は上を下への大騒ぎになっていて、早朝からひっきりなしに到着する神の王達を迎えててんやわんやだった。

定佳や安芸、甲斐は、今日の会合で序列がつくとはいえ、まだ序列のつかない宮の王として、誰よりも早く、夜明けと共に龍の宮へと到着していた。

三人にとって龍の宮は別世界で、本当なら翠明か公青が居て補佐するところだったのだが、その二人が来ていないので最初は緊張して三人で庇い合うような形で同時に宮へと降り立った。

しかし、そんなことには慣れている兆加や鵬たち龍の宮の臣下達は、さっさと三人を控えの間へと案内し、これからの予定と流れをしっかりと説明して緊張を解いてくれた。

なので会合の間へと案内されるまで、三人は一緒に過ごして改めて会合での礼儀などをお互いに確認しあって過ごしていた。

日が昇り始めて更に騒がしくなって来た宮だったが、この宮は広いのでそれもあまり気にならなかった。

段々に雰囲気に慣れて来て三人の肩の力が抜けて来た頃、侍女が入って来て頭を下げた。

「定佳様。安芸様、甲斐様。鳥の宮王、炎嘉様がお越しでございます。」

三人は、仰天して椅子から飛び上がった。炎嘉…龍として転生したが、此度鳥として復活したという前世から力のある王だ。

先の戦で見知っていたとはいえ、それから炎嘉と親しく接することのなかった三人は、一気に緊張してお互いの顔を見合わせた。

そして、安芸が答えた。

「これへ。」

侍女は、頭を下げて出て行く。

すると、それと入れ替わりに、神の自分達でもあまり見たことがないほど華やかで美しい神が、紅い着物に身を包んで入って来た。これみよがしに大きな気は、公青を思わせる。しかし、それより幾らか大きな気のようだった。

三人が固まったまま頭を下げると、炎嘉はその端正な顔に懐っこい笑みを浮かべて手を振った。

「ああ、良い。そのようにかしこまる必要などない。会合の前に、どうしても主らと話しておきたくての。時は取らぬ。」

三人は戸惑ったが、頷いて炎嘉が上座へと腰掛けるのを待った。

炎嘉は、慣れたように正面の椅子へと座ると、三人にも自分の前の椅子を促した。

「座るが良い。」

表情は懐っこいが、この炎嘉が生まれながらに持っているらしい威厳は、隠しようもなかった。三人は、まだ緊張したまま、炎嘉の前の椅子へと腰かける。炎嘉は、そんな三人の様子に苦笑しながらも、言った。

「さて、本日主らに来てもろうたのは、主らに序列を与えようと思うておるからよ。それは、事前に申しておるし知っておるの?」三人は、黙って頷く。炎嘉は続けた。「維心と話し合って、これは確定事項であるから、間違いないとだけ言うておこうぞ。それから、主らの序列は上から三番目。翠明が今ある場所と同じということになる。なぜなら、こちらの宮の王達でも、主らほど多くの宮を傘下に置いておるような者は少ないからぞ。本来なら、上から二番目でもおかしくはないのだが、しかし主らの生まれ持った気がどうしても障害になる。この際であるからはっきり申すが、我が軍神達の方がまだ大きな気の者が居るぐらいであるからの。」

それは、定佳も安芸も甲斐も、見ていて知っていた。龍も鳥も、それは大きな気を持っている。自分達が王と名乗るのが恥ずかしいほど、あれらの気は大きかった。炎嘉は、三人が何を思っているのか知ってか知らずか、言った。

「だが、王というのはの、やはり王なのだ。軍神とは違う。なぜなら、幼い頃より民を守るということを教わって育つであろう。気ばかり大きくでも、それは王ではない。我らが思うに、王としての気概の問題なのだ。だからこそ、我らは己の宮を治め、その上幾らかの傘下の宮まで面倒を見ておる主らの手腕は、高くかっておるのだ。だから、こちらで序列は上から三番目。そういうことぞ。まあまた会合でも主らの序列の理由は話すが、己らのことであるゆえ、事前に知っておくと良いぞ。」

三人は、頭を下げた。こちらの王達の考え方は、いくらか翠明から聞いて頭に入れて来ているのだ。だから、今炎嘉が言ったことは想定の範囲内だった。

しかし、炎嘉は続けた。

「…で、公青のことであるが」三人は、一気に表情を強張らせた。「主ら、よもや攻め滅ぼそうなどと思うておらぬだろうの?」

定佳と甲斐は、息を飲んだ。図星だったからだ。しかし、安芸は言った。

「炎嘉殿、我ら最初はそう思い、翠明にもそのように申したことは事実でありまする。ですが、翠明は世を乱すことはならぬと。我も、それを聞いて思い直した次第でありまする。しかし、我らが意味も無く公青を討ち滅ぼそうと思うたのではないことを、炎嘉殿はご存知か。」

ためらいもなく話す安芸に、定佳と甲斐はハラハラしているような気を発していたが、安芸はお構いなしにじっと炎嘉の目を見て話している。炎嘉は、その視線を受け止めて頷いた。

「まあ、大体はの。公青が、主らの全てを把握して、指示しようとしたからであろう。あれが呆けておる間に、己らでやってみたら案外にいけたということではないのか。」

やはり知られているのか、と定佳も甲斐も気が気でないようだったが、安芸は炎嘉に頷き返した。

「知っておられるのなら話が速い。我ら、今も炎嘉殿が申されたように、曲がりなりにも王なのでありまする。我の傘下の者が公青に従っておるのも、全て我が面倒を見ておったから。あれらは我についておるのであって、公青についておるのではない。だが、公青からはそうではなかったようで、我らをまるで臣下のように扱うことをやめなんだ。ゆえ、我らも反発した次第。まして、公青は我らを手中に収めておこうと、翠明を捕らえようとした。これは、許されることではないのではありませぬか。我は、本日の会合で、その責任の所在を問いたいと思うておりまする。」

炎嘉は、目を細めた。安芸は、箔翔の宮で学び、それなりの王としての気概を育てて西へと戻った王。しかし、本来激しい神で、筋が通らないことは我慢がならないのだろう。

そして、言っていることは間違っていなかった。宮と宮の争いを、会合の議題に上げるのはいつものことだからだ。公青のしたことは、確かに一方的なことで、許しがたいことだろう。

炎嘉は、小さく息をついた。

「安芸、主の言うておることは間違っておらぬ。だが、本日はならぬな。まだ根回しというものが出来ておらぬのだ。主も分かっておるだろうが、今神世を戦国に戻すわけには行かぬ。我も維心も、戦をせぬ方向へと持って行くことを考えて、ゆえに主らの序列をつけるのを急いだ。公青のしたことは、確かに許しがたいことぞ。しかしそれも、維心や碧黎によって阻止されておるだろう。ひとえに、戦の種を撒かぬため。ここは水面下で進め、然るべき時に然るべき方法で処理をする。本日は、主らも会合に出て参ったばかりであるのだから、己の序列のことだけを考えよ。あとは、我と維心に任せよ。分かったの。」

炎嘉の表情は、後になるほど厳しくなって行った。つまりは、本当に言いたかったのは、このことだったのだろう。もしも安芸か、定佳か甲斐がそのことを皆の前で言い出したら、もう引っ込みがきかなくなる。そうなってしまったら、対応の仕方の選択肢が狭くなる。だからこそ、今日は黙っていろと言っているのだ。

安芸は、不満げに定佳、甲斐の方を見た。二人はその視線を受け止めてから顔を見合わせ、そうして、定佳が口を開いた。

「…分かり申した。」安芸は、それを聞いてまだ不満そうだったが、黙っていた。定佳は続けた。「我らはまだ、こちらの世に関わり始めたばかり。こちらのこと、今は黙って見ておるのが一番なのだと思いまする。安芸が言うように、我らも公青のやり方には憤っておった。これまでのように、世話をされておっての支配なら、我らもここまで反発は致しませなんだ。しかし、此度のやり方はあまりに強引。我らの中で一番力を持つ翠明を抑えて黙らせようなどと、前の公青ならば考えなかったでしょう。我らは、もうあのようなことをする公青には従えぬ心持ちであるのです。それは、知っておってもらいたい。」

炎嘉は、頷いて立ち上がった。

「主らの心持ち、しかと聞いた。維心にも伝えよう。案ずるでない、全て良いようにする。我に任せよ。」

炎嘉が立ち上がったので、三人も急いで立ち上がる。

炎嘉は、その三人が軽く頭を下げる前を、ゆっくりと歩いてそこを、出て行ったのだった。

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